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NewsPicksとヒット連発、SNSで大暴れ 剛腕編集者・箕輪厚介

幻冬舎の編集者・箕輪厚介さん=篠健一郎撮影
幻冬舎の編集者・箕輪厚介さん=篠健一郎撮影

消耗品はもういらない

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――さらに現在は、記事や動画やデザイン、イベントなど様々なコンテンツがサロンから、毎日のように生み出されています

 最近で一番面白かったのは、僕がカンボジアで買ってきた「いらない」大仏が、オンラインショップの「箕輪書店」で2万円で売れたことです。

 これはある種の実験でした。僕は、できるだけいらないものを売りたかったんです。「この大仏1円でもいらねえ」というようなものをストーリーを乗せることによって売る。1万円とか2万円の価格でも、数秒の間に売れちゃうっていう現象をやりたくて。

 これが何を意味しているかというと、いわゆる嗜好品や消耗品は、もういらないんですよ。世の中にいくらでもあるから、みんなでシェアすればいいだけ。買わなければいけない物なんて、ほとんど無いと思うんですよね。

 オンラインサロンを始めて、僕は収入が20倍になりましたけど、それこそ生活レベルは何も変わってないですから。サウナに泊まっていたのが、ホテルになったぐらいで。それでも、たまにサウナ泊まろうかなって思うので、何も変わってないです。

 たぶん僕の世代の起業家は、お金が増えても、高級時計や高級車を買わない。物としての欲しいものがないんですよね。


「ストーリー」を求める時代

――そうすると、何を求めているのですか

 やはりストーリーです。機能や価格が似たり寄ったりなら、これからは「どんなストーリーを乗っけるか」が求められると思います。これはすでに、NewsPicks Bookでも実践しています。

 ぶっちゃけて言うと、NewsPicks Bookを情報として求めている人はそこまでいないと思うんですよ。でも、持っていることで、一種のファッションアイテムになる。さらに買った人が「手に入れた」ってツイートすれば、僕がリツイートして、著者も「ありがとう」って反応する。そういう楽しみ方までをデザインしているんです。

 そして、もっと楽しみたかったら、NewsPicksの会員になったり、箕輪編集室に入ったりすればいい。イベントで著者と絡んだり、本ができていく過程を共有したりして、今度は自分が仕掛ける側にもなれる。

 今はこうした体験をすることやストーリーを共有することに、お金を払うようになってきている。出版社やテレビ局が「コンテンツを作りました。はい、どうぞ」と言っても、ユーザーは「別にいらないです」という時代なんです。


 言ってしまえば、箕輪編集室では価値観を売っています。大仏の話に戻ると、僕がカンボジアに行って、「こんなの、買わねえよ」と言いながら、現地の人とやり取りしている様子をフェイスブックで生中継して、それをサロンのみんなが笑いながら見ているわけですよ。「本当に買って帰って来る気だ」とか言って。持ち帰ってきたら、いつしか箕輪編集室のマスコットになってたりして。

 だから、「あの大仏がついに発売」と言って2万円で出品すると、「意味分かんねえ」といいながら、誰かがネタとして買うんですよね。これが500円だったら、たぶん売れないんですよ。2万円だから、「あの大仏買った」とツイートできるし、イベントに持って行けば、みんなの前で話すネタになる。大仏に乗っかったストーリーを買っているんです。ストーリーは代替不可能だから単価は上げられる。

 機能や情報は世の中にあふれてるから、もういらない。だから、オンラインサロンで僕が情報を売っていたら、すぐに衰退すると思うんですよ。「この本を読めば、スキルアップする」とかって。そういうことじゃなくて、一緒にこの世界観を楽しもうという姿勢で共感やストーリーを売ってるんです。

 初めて自分の本を出すことになって、最近アマゾンでの予約受付を始めたんですよね。その時も「アマゾンランキング1位を目指そう」とサロンのみんなやツイッターのフォロワーに呼びかけたら、みんなが「祭り」のように盛り上がってくれた。ビジネス書のカテゴリーにとどまらず、「総合1位」になったんです。正直ビビるぐらいのエネルギーを感じました。

「この人が仕掛け人」に

――そうした濃密なコミュニケーションのベースとなっているのがSNSだと思うのですが、ツイッターを積極的に使われていますよね

 2年ぐらい前のコラムにも書いたんですけど、例えば、NewsPicks Bookから『ブランド人になれ!』という本を出した田端信太郎さん(「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイのコミュニケーションデザイン室長)は、言ってみれば単なるサラリーマンじゃないですか。ツイッターしかしてないように見える人ですけど、あの人が「この本いいよ」とつぶやくと、アマゾンの在庫が無くなるんですよ。

 だから面識がない時から、「田端さんに読んで欲しいな」と何度も献本していました。あとはツイッターでどうしたら絡んでもらえるかを考えたり。

 でも、ある時思ったんです。「自分が田端信太郎になったら最強じゃん」。本のツイートをしたら、在庫が切れるぐらい影響力がある編集者になったらいいんだと。

 思いつくこと自体は、色んな人が考えると思うんです。だから思いついたからどうだ、ということではないです。でも、大きな方向性として、自分がインフルエンサーになった方がいいとは思っていましたね。

スマホは絶えずチェックする箕輪さん
スマホは絶えずチェックする箕輪さん

――どうやってフォロワーを増やしていったのですか

 「フォロワーを増やそう」と思って何かをしたことはないです。ただ自分が楽しかったことや面白かったこと、むかついたことを、つぶやいてきただけ。「会社に何か言われるかも」ということは気にしたことがないから、時には誰かと思いっきりケンカすることもある。

 僕を知らない人には「編集者といっても会社員なのにこんな自由でいいのかな」と思われてると思うけど、それが人間味として伝わってるんじゃないかな。

 あとは、一緒に仕事やコラボをしたことがある、ホリエモンやイケハヤさん(ブロガーのイケダハヤトさん)、はあちゅうさんたちが、SNSやブログで名前を出してくれたのが大きいですね。認知度はそれで上がっていった。ホリエモンなんて、インタビューがあると「箕輪くん箕輪くん」って言ってくれる。最近だと、落合陽一さんや前田裕二さんもそう。


 その結果、「話題の起業家やインフルエンサーたちの後ろで、ちょこちょこ動いているのが箕輪」というイメージが何となくできあがった。みんな好きじゃないすか、「この人が仕掛け人」みたいなキャラ。

 だから今では、この人たちが関わっていると、他社の本でも僕が作ったことになっているんです。キングコング西野さんの『革命のファンファーレ』もちょこちょこツイートしていたら、「これも箕輪本か」って言われて。冗談で「もう本作る必要ないじゃん」と言う時もありますよ。

 それよりも、ビジネス書のプラットフォーマーになっちゃおうと思っているんです。箕輪編集室のメンバーやツイッターのフォロワーが面白いって薦めてくれる本を、幻冬舎以外でも仕入れて、箕輪書店で僕のコメントやメルマガをつけて販売する。関連イベントを企画する。そうすると、他社は僕をライバルとは見ず、お客さんとして扱うようになりますから。そんなことも考えています。


本を売るためにどれだけ努力しているか

――「黒衣」のイメージだった従来の編集者像とはだいぶ違ってきますね

 黒衣でもいいと思うんですよ。編集者全員が表に出たり、インフルエンサーになったりしろとは思わないです。そこは本質ではないし、色んな性格の編集者がいるので。「キャラ違うだろ」って人が必死にSNSやブログを書いていたら、「まずは、いい本作ることに専念しようよ」と思います。

 僕は、世の中で大きな話題が起きた時に「またこいつが裏にいたのか」と言われる黒幕のような存在に憧れていて、目立ちたがり屋でもあるから、「これ、僕がやったんだよ」と言いたいタイプなだけ。「ビジネスモデルとして、編集者は全員前に出ることが必須」とまでは思わないですね。

――目立つ目立たないは関係ないと

 すべては本が売れるかどうかの結果論ですよね。SNSなんてやらずに、社外よりも社内に「この本は本当にいい」とできるだけ「営業」して自分の本を会社を挙げてプッシュしてもらう。本屋さんのいい位置に本を並べてもらえるよう、書店員さんとコミュニケーションをとる。そういう頑張り方も当然あるわけですよ。やるべきことは無限にある。

 僕にみたいにワーワー騒いで、目立つことをやろうというスタイルの方が特殊だと思うんです。スタイルは無限にあるけれど、要はその本を売るためにどれだけ努力しているかに尽きると思っていて。頭を使って頑張っている人であれば、「編集者は黒衣であるべき」というような謎の美学は絶対に言わない。

 コルクの佐渡島(庸平)さんやcakesの加藤(貞顕)さんたちとは、スタイルの違いはあるけど、同じだけの熱量で走っているから、互いにリスペクトしてます。「黒衣であるべき」とだけ言っている人は単純に嫉妬している場合が多いですよね。

「要はその本を売るためにどれだけ努力しているかに尽きる」と語る箕輪さん
「要はその本を売るためにどれだけ努力しているかに尽きる」と語る箕輪さん

「アナログ」が、価値を持つ

――最後に。箕輪さんは今後の出版業界についてどう考えていますか

 難しいな。その質問は難しいですね。本の未来は明るいと思うんですけど、出版社が明るくなるかはまた別問題ですから。

 紙の本自体は、盛り返してくるなと思っていて。電子書籍は便利だし、一部は紙の本の代替になっていくけど、全てが置き換わってしまうことは、あり得ないと思うんです。

 なぜかというと、映画もそうですけど、コンテンツがスマホ化からすればするほど、これまでの「アナログ」な体験が、ものすごい価値を持つ。さっきの大仏のように、ただ物質として持っておきたいというような。だから本の未来は明るいと思うんですけど、出版社は、中小だとつぶれる会社も出るんじゃないですかね。

 矛盾するようですけど、いま本は本当に売れません。売れる本と売れない本がこれからもより顕著になっていくだろうから、売れない本の赤字を、社内のヒットメーカーや神風のようなメガヒットが支えるという今までのビジネスは厳しくなると思うんです。

 あと、中途半端なコンテンツは、箕輪編集室のようなオンラインサロンに侵食されていくんじゃないかな。それこそ、箕輪編集室のメンバーは無給どころか月額を払いながら、寝ないで動画を作ったり、記事を書いたりして毎日スキルや実績を得ているのに、サラリーマン編集者が高給をもらいながらコンテンツを生み出していくモデルは、よほどの戦略とクオリティがないと厳しいでしょうね。

箕輪さんの誕生日である8月28日には、箕輪編集室が半年間密着した映画『箕輪大陸』が東京・豊洲で上映される。開催のために行ったクラウドファンディングには375万円が集まった=箕輪さん提供
箕輪さんの誕生日である8月28日には、箕輪編集室が半年間密着した映画『箕輪大陸』が東京・豊洲で上映される。開催のために行ったクラウドファンディングには375万円が集まった=箕輪さん提供

――耳が痛い話です

 でも、会社が積み上げてきた「ブランド」があるところは、これからは強いですよ。それこそ講談社や幻冬舎、マガジンハウスというブランドは、一朝一夕にはできないから。そことでないと組めないビジネスがある。『お金2.0』を書いた佐藤さんもよく言ってますが、世の中に大きなインパクトを与えるような仕事は会社が力を持っているし、その実績が個人のブランドにもなる。

 これから残る会社は、そういったブランドを稼ぎたい人たちの出稼ぎ場のようになるんじゃないですかね。僕が会社員を続けている理由もそういうところにあります。

 強い個人と、その個人を束ねるブランド力がある会社という組み合わせが最強なんじゃないでしょうか。

「強い個人と、その個人を束ねるブランド力がある会社という組み合わせが最強」と語る箕輪さん
「強い個人と、その個人を束ねるブランド力がある会社という組み合わせが最強」と語る箕輪さん

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 みのわ・こうすけ 1985年東京都生まれ。早稲田大卒業後、2010年双葉社に入社。広告営業としてタイアップや商品開発、イベントなどを企画運営。広告部に籍を置きながら雑誌『ネオヒルズ・ジャパン』を創刊。2014年、編集部に異動。『たった一人の熱狂』(見城徹)、『逆転の仕事論』(堀江貴文)を編集。その後幻冬舎に移籍し、2017年にNewsPicks Bookを立ち上げ、編集長に就任。既存の編集者の枠を超え、様々なコンテンツをプロデュースしている。

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