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子どもに「手」が届く範囲で遊んで プール監視員の切実な思い
小さな子どもがプールで溺れるのを防ぐため、東京のとあるプール施設が「手の届く範囲でご一緒に遊ばれますよう、お願い申しあげます」と保護者に注意を呼びかけています。「目を離さないで」はよく聞きますが、「手の届く範囲」とは一歩踏み込んでいる印象です。その理由を監視員の責任者に聞きました。
このプール施設は、東京都の立川市と昭島市にまたがる国営昭和記念公園の「レインボープール」。約6万3000平方メートルの敷地に、人工の波が打ち寄せる大波プールや流水プールなど、大小9つのプールがあり、例年7月下旬~9月上旬のオープン期間に約20万人が訪れます。
8月上旬に実際に訪れてみると、敷地内の放送でこんな注意喚起が流れていました。
放送はさらに、こう続きます。
こうした注意喚起を、プールサイドにいる監視員がマイクを通じて呼びかけていました。記者が訪れた日は、5分もたたないうちに、繰り返していた時もありました。
プールの運営担当者によると、レインボープールに入場するには、6歳未満の子どもは保護者の付き添いが必要。さらに、泳げるかどうかに関係無く、大波プールや流水プールなど、水深1メートル以上のプールでは、身長120センチ以下の子どもも同様です。そのうえで保護者に「手の届く範囲で」と呼びかけています。
レインボープールでは毎日約70人の監視員が業務にあたっています。こうした注意喚起をしている理由を、監視員の責任者を務める上野和明さん(63)に聞きました。
「子どもを『目の届く範囲』で監視するというのは、実はとても漠然としています。仮に15メートル先のプールで子どもが遊んでいても、目の届く範囲かもしれない。例えば、大人がプールサイドにいて、子どもがプールの中で1人でいるといったケースです」
問題は、目を離していなかったとしても、子どもが溺れた時にすぐに対応できないこと、と上野さんは指摘します。
「映画のように水中でジタバタするケースはほとんどなく、静かに溺れることが多い。子どもの近くにいなければ、その瞬間に気づくのは相当難しいです。保護者のかたにはそうした危機感を持ってほしい。監視員も急いで助けに向かいますが、小さなお子様の場合はまず手が届く範囲で気をつけて遊んでほしいと思います」
こうした注意喚起は少なくとも10年前から続けているそうです。
「手の届く範囲」としたのは、「溺れを防ぐための対策を、具体的に伝えたかったから」と話します。
「目の届く範囲は漠然としていますし、何メートルと距離を決めたとしても水中で計ることはできません。何かあってもすぐに対応できる距離として、わかりやすい目安が必要でした」
このため、小さな子どもがプールに1人で入ろうとしていたら、監視員が止めるといいます。中には、「スイミングスクールに通っているから大丈夫」という保護者もいるといいますが、「手の届く範囲」を徹底するよう求めています。
上野さんは「監視員は溺れた人を助けることも仕事ですが、溺れを未然に防ぐため、まずは事故が起きうる環境を減らすことに注意を払っています」と話します。
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