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東京医大に「怒りのハッシュタグ」数千の反響「発案者」が語った真意

投稿後、一気に拡散した「#私たちは女性差別に怒っていい」
投稿後、一気に拡散した「#私たちは女性差別に怒っていい」

目次

 東京医科大学の入試で、女子の合格者数を抑えるため得点操作が行われていたとされる問題。出版社・河出書房新社の公式アカウントのひとつ、「河出書房新社 翻訳書」(@kawade_honyaku)がツイートした「#私たちは女性差別に怒っていい」のハッシュタグが、嘆きや憤りの声とともに広がっています。「中の人」の女性に思いを聞きました。(朝日新聞地域報道部記者・三島あずさ)

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「みな一様に真顔で怒っています」

 ——この件を知った時、どんな思いがわき出てきましたか?

 女性は「減点」をしてもいい存在なのだ、と突きつけられた気がしました。

 私が編集担当をつとめ、今年3月に刊行したジャッキー・フレミング『問題だらけの女性たち』(松田青子訳)は、19世紀の女性たちがいかにバカバカしい迷信と固定観念に苦しめられてきたか、イギリスのフェミニズム漫画家が皮肉とユーモアたっぷりに描いた絵本です。

 「女性は医者になんて到底なれない劣った存在」だとして、排除されてきた歴史も描かれています。笑いに彩られてはいますが、本に登場する女性たちの顔は、みな一様に真顔で怒っています。

 19世紀でも冗談でもなく、このようなことが実際に起きた今、この自分の怒りを発信できないならば、なんのためにこの本を出版したのかと思いました。



「『人権問題』に置き換えず『女性差別に』怒っている」

 ——なぜ、このハッシュタグをつけたのですか?

 女性差別に怒るのは当たり前のことで、私自身も怒りを原動力にたくさんの本を編集してきました。

 しかし今回は、その「怒り」をこれまでのように何かの原動力に変えたり、多くの女性が強いられてきたように目的のために抑え込んだりせず、怒りを怒りのまま表していく時だと思いました。

 これまで怒ってきた人はもっと、これまで怒りに蓋をせざるを得なかった人も一緒に声をあげましょう、という気持ちでした。

 ですので、同時につけた「#ふざけんな」というタグは、私の個人的な怒りの声です。

 また、「女性差別」を「性差別」と言い換えたり、「人権問題」などに置き換えずに、「女性差別に」怒っていることを表明したいとも思いました。

東京医科大の正門前で抗議活動する人たち=2018年8月3日、東京都新宿区、山本壮一郎撮影
東京医科大の正門前で抗議活動する人たち=2018年8月3日、東京都新宿区、山本壮一郎撮影 出典: 朝日新聞

抑圧されてきた「パーソルな怒り」

――「女性差別」であることを明確にする理由は?

 問題を広くとらえることは大事なことです。今回の東京医大の件も、労働問題とも捉えられます。

また、何年も浪人している男性も不当に扱われていると報道されています。それらはもちろん問題にすべきで、女性差別問題の方が重要だと考えているわけではありません。

 しかし、ときに大局で物事をとらえることや、「現実を見る」ことを強いられて、私たちはいまここにある眼の前の、パーソナルな怒りを抑圧されてきたのではないでしょうか。

 私たちは、女性がないがしろにされていることに関して、自分の感情をもっと尊重していいし、明確に「女性差別に」怒っていることを示したいと思いました。

東京医科大を巡る事件について記者会見するいずれも弁護士で内部調査委員会委員長の中井憲治氏(右)と、同委調査総括担当の植松祐二氏=2018年8月7日、東京都新宿区、関田航撮影
東京医科大を巡る事件について記者会見するいずれも弁護士で内部調査委員会委員長の中井憲治氏(右)と、同委調査総括担当の植松祐二氏=2018年8月7日、東京都新宿区、関田航撮影 出典: 朝日新聞

「一緒に怒ろう」

 ——反響の中で、印象的だったことは?

 この#に共感して広めてくださったのは漫画家の瀧波ユカリさんなのですが、たくさんの「#私たちは女性差別に怒っていい」をつけたツイートをたどっていくと、女性たちがいかに日々怒りを抑えてきたかということがわかります。

 努力した結果、家庭や職場で「君が男だったら」「女にしておくのがもったいない」と言われてきたという方、何か言われても怒らずに笑顔で受け流してきたという方、怒ってはいけないと思っていたという方……。「ずっと怒ってきたけど、孤独だった。一緒に怒ろう」と書いている方もいました。
 
 また、海外からの応援メッセージが多いことも印象的です。



広がりに感じた希望

 ——初報から数日たって、いま思うことは?

 東京医科大に限った問題ではなく、日本社会全体の差別構造が問題なのだと思います。

 ただ、この#が広がり、多くの人のものになったことについては、この社会を少しずつでも変えていけるのではないかという希望を感じています。今回は報道後にすぐに抗議デモも起こりましたし、個々のやり方で怒りを表明していけばいいのだと思います。

取材を終えて

 とても冷静で知的な印象の「中の人」から発せられる言葉が、一つ一つ胸に響き、「あなたはどうするのか」と肩を強く揺さぶられる思いでした。

 私自身、20代の頃は取材相手からのセクハラを「仕方のないこと」とやり過ごし、30代は育児をしながら働いてきて、「何かおかしい」というモヤモヤが積もっていきましたが、どこかでいつも「やりづらいのは自分の実力や努力が足りないせいだ」と思ってきました。

 そんななかで、世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ(男女格差)指数で日本の評価の低さにがくぜんとし、昨年と今年の「国際女性デー」(3月8日)に、ジェンダーの問題に目を向ける企画「Dear Girls」を展開しました。

 女性であることを理由に様々な差別を受ける今の状況を、次世代には引き継ぎたくない。息苦しさの原因が、個々の女性ではなく社会の側にあることを可視化したい——。

 そんな思いで同僚たちと立ち上げた企画でしたが、怒りを表す難しさを常に感じてきました。「あまりストレートに主張すると『女のヒステリー』だの『逆差別』だのと反発を招く。男性の立場にも目配りをしないと」とブレーキをかける自分がいたからです。

 だから今回、「怒っていい」という直球のメッセージに、あらためてハッとしました。女性が、性別を理由に門前払いされるようなことは、もう終わりにしたい。怒ることを手放さずにいたいと思います。

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