感動
バイきんぐ西村さん「インスタ映えない」写真で36万フォロワーの理由
バイきんぐの西村瑞樹さんは、次の旅を渇望しています。インスタグラムの「いいね!」数で旅の資金をまかなう「激安!いいね!アース」の冒険に挑戦。交通費、食費、宿泊費を稼ぐため「いいね!」に翻弄されながら、タイ、台湾、モンゴルを旅してきました。フォロワーは今、36万人を超え、自信を深めた西村さんは「道端アンジェリカさんを超えた」ともいいます。西村さんにとっての「いいね!」って何でしょう? そして「40歳のおじさんによるフォトジェニックな旅」の魅力とは?
「激安!いいね!アース」は、「陸海空 地球征服するなんて!」(テレビ朝日系)の企画として始まった旅です。ただし、この企画、西村さんありきではなかったそうです。
総合演出の米田裕一さん(36)は、こう振り返ります。
「企画会議で、観光地みたいなところではなく、バックパッカーが行くようなディープスポット、キラキラしたインスタ映えするようなところじゃないところを旅する企画に、インスタを絡めたら面白いんじゃないかな、という話が出ました」
だからこそ、冒険者で一番重要な要素だったのは……それは「インスタから遠そうな人」。
制作スタッフからは「インスタに肯定的でない人がやった方がいい」「正直な人がやった方がいい」「インスタから遠い人」という声が上がる中で、番組の地球コメンテーターである「小峠さんの相方の西村さんが空いているんじゃないか(笑)」と白羽の矢が立ったそうです。
西村さんもツイッターで個人のアカウントを持っていましたが、フォロワー数は35000人。
西村さんはこう振り返ります。
「この企画が始まるまで、インスタもしていなかった。そもそもタイを北から南へ縦断するぐらいしか企画の内容を聞いていなかったんです。ただ、タイへの出発前、注射をやたら打たれたので、ちょっと怖さがあったのと、覚悟もしていました」
この企画専用のインスタグラムのアカウントは、放送前ということもあり、最初はフォロワー2000人程度でした。だからこそ、番組や西村さんを知らない、世界の不特定多数の人たちに、無数に公開されている写真の中から「いいね!」ボタンを押してもらわないといけない、と迫られる状況に置かれました。
西村さんはこう振り返ります。
「あんまり、SNSはすきじゃないし、『いいね!』の数で旅をすることがピンときませんでした。だから、何を撮っていいか分からなくてね」
遠近法を利用し、カットしたドラゴンフルーツをナイフに乗せて手前に構え、その置くに立つ裸の西村さんがパンツをはいているように見せた「フルーツドレスならぬ、フルーツパンツ」――。
地元の若者に人気のドリンクをアップで撮影した「タイで若者に大人気の最先端おしゃれカフェ」――。
そして台湾編の前には、より多くの「いいね!」をもらえるように、若い女性にインスタの撮影技術を学んで旅に出ましたが、フォロワーのリアクションには否定的な声が集まりました……。
西村らしくない、と。
「そういうものを求めていない、という意見ですよね」
企画が話題になり、フォロワーが増えるにつれて、インスタ映えするような写真に「いいね!」を押してくれる人と、泥臭い西村さんを求めている人の二つのフォロワーが浮かび上がってきました。
「その両方が満足するような写真は、なかなか難しいですね」
「何で人の顔色をうかがって写真をアップしていかないといけないのかな、と思った時もあります。ただ、『いいね!』の数字を見ると、多くの人に認めてもらった感があって、みんなの共感が得られたのかなと思います」
そんな西村さんの「いいね!」へのスタンスは、「いいね!」数で旅の資金をまかなうリアルな旅をしているからこそ、見えてきたものかもしれません。そしてこう付け加えました。
「『いいね!』には、中毒性もある」
今は「インスタ映え」のような言葉が広まり、若い世代にはインスタありきの生活が浸透しつつあります。
「あんまり、『いいね!』至上主義にならない方がいい。自分の心の思うままに写真をアップした方がいい。僕も数を稼いでゴールしたい気持ちはあるけど……(笑)。僕自身、『いいね!』に翻弄されまくって、ブレブレで旅をしてきましたからね」
「激安!いいね!アース」の旅も、タイ、台湾、モンゴルとフォロワーが急増するのに伴い、1いいね!の換金レートも切り下げられてきました。
タイは1いいね!=1円、台湾が1いいね!=0.1円、モンゴルが1いいね!=0.01円。
西村さんは「次の旅は、レートが1いいね!=0.0001円なんて平気でやるスタッフですからね」と苦笑いしています。
「普通の旅番組ではできない経験をさせてもらっていると思っています。メディアに出ない場所に行ったり、普通の旅では見られない場所に行ったりするのも楽しいです」
「正直言うと、ムチャクチャしんどくて、二度と行きたくないと思うんですけど、最近、生活に刺激が足りないという自分がいて、また旅に出たいと思っている自分がいる。ああいう旅がないと、生活のメリハリがないことに気付きました」
次なる旅の目的地を西村さんが決められる訳ではありませんが、旅をしてみたい国を聞いてみました。
「アフリカ、キューバなんかで『いいね!』の旅をしてみたいですね」
総合演出の米田さんにも聞くと、新たなロケ先はこれから。西村さんの旅が続くかについては、こう答えました。
「数字次第です(笑)」
西村さんの旅の行方は、「いいね!」の数だけでなく、視聴率という数字も握っていました。
「この旅、本当につらいんですよ」
「次に行くんだったら、暑いところですね」
西村さんに「激安!いいね!アース」の旅についてインタビューをしていると、西村さんやディレクターから、こんな声が漏れました。
極寒の地、モンゴルの旅から熱帯のタイまで。バックパッカーの旅の率直な感想でしょう。加えて、その日の旅の資金は前日夜にインスタグラムにアップした写真の「いいね!」数という、超貧乏旅行。
次なる冒険を待望する西村さんに、私がかつて旅したモロッコやメキシコを提案してみましたが、公式インスタグラムでは「現在、次の旅に向け刺激的な国をリサーチ中❗」とのこと。
さて、どこになるのか……。
SNSの普及で、これまで出会えなかった人とも出会える時代になりました。私自身、フェイスブックやインスタグラムでの出会いから、取材が始まることもあります。
フェイスブックでは情報の提供、インスタグラムでは写真映えするものをアップで撮影……そんな写真が氾濫する中、西村さんの「激安!いいね!アース」のインスタグラムは、その枠をはみ出て、短いコメントも合わせて、その色がにじみ出ているからこそ、面白いと感じました。自分の学生時代を重ね合わせている部分もあると思います。
日本人の若者は海外の旅をしなくなったと言われています。大学生は、講義、インターン、就活などで忙しく、旅をする時間がないという声をよく聞きます。
西村さんの「カッコよくない旅」は、実生活で役立たないかもしれません。でも、「そんな旅も悪くないもんだ」と思わせる力があります。
普通の旅では行かないカオスな現場の息づかいを伝えてくれる。「インスタ映え」しない写真に全国の人が「いいね!」したくなる理由は、そんなところにあるのでしょう。
西村さんが体を張って伝えてくれた「インスタ」への向き合い方。みなさんはどう思いましたか? 朝日新聞の「声」欄では、みなさんの投稿を募集しています。投稿はメール、FAX、手紙で500字以内。匿名は不可とします。住所、氏名、年齢、性別、職業、電話番号を明記してください。
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