連載
#24 夜廻り猫
「うちらの子が年金払わされる」夜廻り猫が描く産む・産まない選択
仲良く犬を散歩していた夫婦。近所の女性から聞こえるように言われたのは「あそこ子どもいないから うちらの子どもが年金払わされるのよ」……。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「産む・産まない選択」を描きました。
街を夜回りしていた猫の遠藤平蔵。「泣く子はいねが~。むっ 涙の匂い…!」。あるカップルの涙の匂いをかぎとりました。
カップルは、動物の愛護センターから犬を引き取り、太郎と名付けます。
二人と1匹で仲良く散歩をしていたところ、近所の女性たちの会話が聞こえました。
「いつも朝晩お散歩、仲がいいわね」
「あそこ子どもいないから、犬を子どもがわりにしてるんだろうけど
ああいう人たちが子育てしないで老人になったら、うちらの子どもが年金払わされるのよ」
家に帰り、女性は怒ります。「子どもがいないだけで悪いことみたいに」
男性が「いっそ『うちは不妊で』って言っちゃえば?」と言いましたが、
女性は「『不妊だから許してください』なんてもんじゃない 産まない選択だって守らなきゃ」とキッパリ。
太郎は「そうだそうだ」と言うように女性にじゃれつき、そんな様子をみた遠藤は「ここの涙は犬殿が拭いている」と安心するのでした。
作者の深谷かほるさんは、「産む」「産まない」という選択は、ほかの人の干渉を許さない「プライバシー中のプライバシーであって、人権です。けして強制や圧力を加えてはいけないことだと思います」と話します。
ハンセン病の患者や、障害のある人たちへの強制不妊問題。「最近まであったことを知り、驚きました」
そして、少子化が叫ばれる社会にも、産休・育休を取る人が肩身の狭い思いをすることにも違和感があり、出産をめぐる様々な問題が心に引っかかっていたそうです。
産む・産まない、それぞれの選択。深谷さんは「『赤ちゃんの顔が見たい』という祈り、『幼いものがいとしい』という気持ちは、それぞれが個々に心で大切にするにとどめたいです」と話しています。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。単行本1~3巻(講談社)が発売中、7月23日に4巻が発売予定。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。黒猫のマリとともに暮らす。
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