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連載

#11 「見た目問題」どう向き合う?

「円形脱毛症=心の弱い人」は偏見です 髪の毛を失った女性の訴え

円形脱毛症の武田信子さん。人に会うときはカツラが欠かせないと言います
円形脱毛症の武田信子さん。人に会うときはカツラが欠かせないと言います

目次

 人とは違う特徴的な外見のためジロジロ見られ、学校や就職、結婚で差別にあう「見た目問題」。円形脱毛症の患者の中には、硬貨大の丸い形に髪が抜けるイメージとは違い、全身の毛が抜ける人もいます。武田信子さん(43)は20歳で発症しました。自己免疫疾患とされていますが、「円形脱毛症=心の弱い人」との偏見が残っていると訴えます。

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毎朝、鏡を見ながらカツラをつけます
毎朝、鏡を見ながらカツラをつけます

人前では欠かせないカツラ

 7月上旬、東京都墨田区の武田さん宅を訪ねると、カツラを身に着けた姿で、出迎えてくれました。取材中、カツラを外してもらっていましたが、インターホンが鳴ると、さっとカツラを着け、配達員から品物を受け取りました。人と会うとき、カツラは欠かせないと言います。

 「自宅で家族といるときはカツラをとっていますが、外出時には着けます。目立ちたくないですし、視線が気になります。職場でも上司以外にはカミングアウトしていません。別に隠しているわけではありませんが、私の前では『髪形の話をするのはやめよう』みたいに気をつかわれるのが嫌なので」

 「ある女性患者は、夫にも円形脱毛症であることを隠し続け、ずっとカツラ姿です」

カツラをつけた武田さん
カツラをつけた武田さん

「10円ハゲ」があれよあれよと……

 武田さんは20歳のとき、髪の毛が抜け出し、1年で全身の体毛が抜けてしまいました。

 「はじめは後頭部に、いわゆる『10円ハゲ』ができました。それが二つ、三つと増え、あれよあれよという間に広がっていきました」

 「円形脱毛症と言えば、頭髪が硬貨大の丸い形で抜け、自然に治るイメージがあると思います。実はこのような症状のほかにも、脱毛が数カ所にできたり、私のように全身の体毛が抜けたりする人もいます。免疫の異常で毛髪の組織が攻撃されて起こる自己免疫疾患です」

発症後、カツラを着けた武田さん。当時20歳。薬の副作用で顔がはれている=武田さん提供
発症後、カツラを着けた武田さん。当時20歳。薬の副作用で顔がはれている=武田さん提供

諦めた憧れのバスガイド

 髪の毛を失うと、武田さんは他人の目が気になるようになり、24歳のとき、バスガイドの仕事を退職しました。母親がバスガイドをしていたこともあり、武田さんにとって、憧れの仕事でした。当時は、「死にたい」と思うほど悩んだと言います。

 「もともと人前で話すことが好きだったのですが、怖くなってしまいました。カツラを着けても、『ばれたらどうしよう』『蒸れて臭いがするかな』と怖くて、接客業をする自信がなくなってしまいました」

 「バスガイドをやめ、これからどうすればいいんだろうと悩み、色々な人に相談しました。ホームレスの人に相談して、励まされたこともあります。露出狂の人が私の後ろに立っていたときには、カツラを外し『私はどうしたらいいですか?』って聞きました。そしたら、露出狂の人は逃げちゃいました。今では笑い話のようですが、当時はそれほど追い詰められていました」

 「その後は、コンビニの弁当づくりといった人目に触れない職を転々としました。今は車の予約を電話で受け付ける仕事をしています」

バスガイドをしていたときの武田さん=武田さん提供
バスガイドをしていたときの武田さん=武田さん提供

患者会との出会い

 20歳から30歳まで治療を続けましたが、効果はなかったと言います。

 「円形脱毛症に根本的な治療法は今のところありません。治療の効果にも個人差があります。私は頭に注射を打ったり、薬を飲んだり、紫外線を当てたり。頭皮をわざとかぶれさせる治療も試しました。治療費は、300万円ほどかかりました」

 「27歳のとき、新しい治療法を知りたいと思い、患者会のセミナーに参加しました。でも、そんな情報はありませんでした。ただ、髪のない自分を受け入れ、人生を楽しんでいる人たちに出会いました。治すことに固執するのではなく、治療のために使ってきた時間やお金を、充実した生活に送るために振り向けよう、と考え方が変化しました」

20歳のころ、髪の毛がどんどん抜けていきました=武田さん提供
20歳のころ、髪の毛がどんどん抜けていきました=武田さん提供

「髪は女性の命」が根強い社会

 髪の毛や体毛のない自分を受け入れられるようになっても、喪失感だけは今も残っていると言います。

 「かつてはカツラをつけた自分の顔のほうが好きでした。今は、カツラを着けていても、外していても、どちらも自分の顔なんだと思えるようになりました」

 「ただ『髪は女性の命』という言葉があるように、魅力的な女性の条件に、『髪がきれいなこと』というイメージは社会に根強くあります。そんな中、『本来はあるものがない』という感覚があります」

 「男性の患者にも悩みはあります。体毛がないことへのコンプレックスです。子どもの患者の場合、学校でからかわれ、不登校になる子もいます。『髪がないのにスカートをはくのはおかしい』と言われた女の子もいました。自分が『髪の毛のない私』を受け入れても、家族など周囲の人が、『もうちょっと治療を頑張りなよ』と受け入れてくれないこともあります」

普段、家ではカツラを外しています
普段、家ではカツラを外しています

「心が弱いからハゲるのではありません」

 円形脱毛症への偏見が社会にはあると指摘します。

 「『円形脱毛症の患者=ストレスに弱い人・心の弱い人』という偏見です。就職活動中のある患者が、営業職を希望していたにもかかわらず、面接官に『ストレスの少ない職場がいいですよね』と言われました。確かに、ストレスが発症の引き金になることはあります。でも、アレルギーといった体質もかかわっているとされ、ましてや、心が弱いからハゲるのではありません。自己免疫疾患だと知ってほしいです」

外出するときにカツラをつけます
外出するときにカツラをつけます

結婚は諦めなくていい

 武田さんは2011年に、同じく円形脱毛症の男性と結婚しました。今は2歳になる長女と3人で暮らしています。

 「患者の中には、結婚を諦めている人もいます。私も、円形脱毛症のせいで恋愛がうまくいかないかもという不安はありました。でも、『これくらいで拒否するなら、たいした男じゃない』との思いもあり、恋に後ろ向きになることはありませんでした。患者会で知り合った夫にも自分からアプローチしました」

 「親が円形脱毛症だからといって、子どもが必ず発症するわけではありません。ただ発症しやすい体質が遺伝する可能性はあるので、娘が発症してしまうのではないかという不安はあります」

2011年、結婚式の日。自宅でウェディングドレス姿になり、式場に向かいました=武田さん提供
2011年、結婚式の日。自宅でウェディングドレス姿になり、式場に向かいました=武田さん提供

カツラの費用が大きな負担

 患者にとって、カツラの費用は大きな負担となっています。

 「一人一人の頭の形にあわせてつくる医療用カツラは、数十万円します。消耗品なので、私の場合、40万円のカツラを3年に1度のペースで買いかえています。保険適用されないので、全額自己負担です」

 「既製品のファッション用カツラは安いのですが、毎日着けていると、すぐにダメになるし、チクチクするし、強い風で外れる恐れもあります。医療用カツラの購入費に対し、少しでも公的な補助があると、患者はとても助かります」

 2009年に患者会の会長に就任しました。7月22日には患者会セミナーが東京都内で開かれます。

 「治療法が確立されていない中で、治すことに固執しない選択肢があることを知ってほしいです。セミナーでは、治療の情報だけでなく、日常の悩みやカツラの選び方、温泉の入り方のようなお役立ち情報を共有できるので、一人でも多くの患者やその家族に参加してほしいです」

「第50回円形脱毛症の患者会東京セミナー」
セミナーの詳細、申し込み方法は、NPO法人「円形脱毛症の患者会」のサイトに掲載されています。

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