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「あおたん」は方言?「わりかし」「じゃん」は… 東京の言葉を解説
出身地が異なる人たちと、一度は話題になる方言。東京の言葉は共通語と思われがちですが、江戸弁があり、さらには多摩など周辺の方言や、人の行き来に伴い地方から流入した言葉もあります。東京の様々な言葉を解説する「東京のほぉ~言」、今回は「あおたん」「じゃん」「わりかし」を紹介します。(三井はるみ・国立国語研究所助教、鑓水兼貴・元国立国語研究所非常勤研究員)
「あおたんできた」。転んでぶつけた子がそう言います。青黒く内出血した「青あざ」を指す、「あおたん」という言葉ですが、近年、広がっています。
最近の首都圏大学生の調査では、東京下町地域のほぼ全員が使用していました。隣接する千葉県西部でもよく使用されます。一方で山の手西部・多摩地域ではあまり使用されません。
元々、「あおたん」は北海道方言でした。語源ははっきりしていませんが、花札の「青短」と関係あるようです。1980年代ごろから都内で使用者がみられ、北海道出身の移住者から普及したと推測されます。俗語的なイメージから、あまり山の手では受け入れられず、下町中心に広がったようです。
しかし、80年代の調査で、奥多摩町氷川だけが使用率約8割と非常に高くなりました。これは奥多摩町の氷川鉱山に、北海道の閉山した炭鉱からの転職者が多かったことが影響したようです。移住と言葉が深く関係している例です。(鑓水)
「今年も6月じゃん!」。今ではすっかり東京のことばに溶け込んでいる「じゃん」ですが、元は山梨、長野、静岡などの方言「じゃんか」でした。東海道沿いに神奈川に流入し「か」が落ちて、1970年ごろから東京区部でも使われるようになりました。
75年に流行した歌「カッコマン・ブギ」。決めぜりふは「それが悩みの種ジャン」でした。当時の「じゃん」には、不良っぽいかっこよさと結びつくイメージがありました。その後、80年代半ばには、若年層を中心に広がり、くだけた言い方として定着しました。
一方多摩では、昭和の初めごろから「じゃんか」が使われていました。「おめえの目の前にあんじゃんか」。都心部に先駆けて、山梨や神奈川から直接伝わったと考えられます。
最近では、次世代の言い方「じゃね」が拡大中です。「じゃん」の様々な用法のうち、推測の意味の「じゃん」に取って代わろうとしています。(三井)
「わりかしいい出来だ」。「わりかし」は、自らの基準と比べる言い方で、「比較的」「案外」に近い言葉です。関東地方でよく使われますが、近年は「わりと」が多いようです。
1980年代の調査では、明治末期・大正生まれの都内の人は「わりかた」と言っていました。一方で昭和40年代生まれは「わりかた」は衰退し、「わりかし」だけになっていました。「わりかし」は1960年代の映画で流行したといわれますが、当時すでに東京で普及しており、俗語的に使われたのでしょう。
「わりかた」の「た」の音が「し」に変化したわけではなさそうです。東京では「向こう側」のことを「むこっかた」「むこっかし」などと言います。意味は違いますが、同じような音の連想で、「わりかし」に変わっても違和感が少なかったのでしょう。
「やっぱり」が「やっぱし」になるように、「し」で終わるとくだけた語感になります。このことが好まれた原因かもしれません。(鑓水)
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