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「コメント欄」いりますか? 韓国ネイバー「政治介入」疑惑で撤廃へ

韓国の巨大インターネットポータルサイト「ネイバー」が揺れています。きっかけは「政治との中立」が疑われる事件が相次いだことでした。

韓国「ネイバーニュース」のトップページ
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目次

 韓国のインターネットポータルサイト「ネイバー」(NAVER)は、人口約5000万人の国で、1日の訪問者数が3000万人と圧倒的なシェアを持っています。そんなガリバー的存在の「ネイバー」が揺れています。7月からニュースのコメント欄の廃止を決定、ニュース配信の仕組みも大幅に変えることにしました。きっかけは、大統領選や政治情勢を巡り、国家や政治勢力の露骨な介入が疑われた事件でした。韓国のネット環境を大きく変える変化。背景を探りました。(朝日新聞東京社会部記者・吉野太一郎)

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コメント欄が影響力の源泉

 ネイバーの影響力の源泉は、ニュースのコメント欄。ここが政治的な思惑で意図的に操作される事件が相次いで表面化し、ネイバー自体にも批判が集中しました。

 そして、ついに運営会社がコメント欄を事実上放棄する方針を打ち出したのです。

日本とも共通する構造

 一連の問題は、日本にも共通する事情が少なくありません。

 ネイバーのニュースは、新聞や通信社などメディア各社から配信を受けた記事をネイバーのサイトに取り込み、そこに読者がコメントを書き込みます。

 これはまさに日本のヤフーニュースと同じ形になっています。

韓国はニュースポータル大国

 人口約5000万人の韓国で、1日の訪問者数は3000万人のネイバー。うち約1300万人が「ネイバーニュース」を利用しています。最近の調査によれば、ニュースポータルとしてのシェアは66.5%で、2位のダウム(DAUM、22.5%)を大きく引き離すガリバー的存在です。

 ネットでニュースを見ている人の、実に93.2%がネイバーを通じてニュースを見ています。

韓国ではネットでニュースを見る人の77%がポータル経由
韓国ではネットでニュースを見る人の77%がポータル経由 出典:出典:韓国言論振興財団・ロイタージャーナリズム研究所「Digital News Report 2017 韓国」

 韓国のニュースポータルの影響力は大きく、主要36カ国を対象にした別の調査では、メディアのニュースサイトから直接ニュースを見ている人の割合はわずか4%に過ぎません(日本は16%)。実に77%が「検索またはポータル」からニュースを見ているといいます。

 ネイバーは、7月以降、ニュース配信の方式を大幅に変更することを発表しています。

 今後は「トピックス」にあたるトップページにニュースの見出しを表示しますが、クリックすると、ネイバーのサイト内の記事ページではなく、配信元各社のサイトへ直接リンクを飛ばす形になります。そして、コメント欄も各社に任せる方向に。

「ドルーキング事件」ネイバーにも批判

 背景には、大統領選の時期にコメント欄が組織的に操作された事件が明るみにでたことがあります。対立候補の陣営による操作でしたが、ネイバーの姿勢も批判の対象になりました。

 直接のきっかけになったのは、ここ数カ月、韓国で連日報道されている政治スキャンダル「ドルーキング事件」です。

 2017年5月の大統領選挙で文在寅大統領が誕生しましたが、この前後に与党「共に民主党」の関係者が特殊なプログラムを使って、文氏を支持し、対立候補や有力候補と見なされていた人を批判するコメントを大量に投稿したり、「そう思う」「そう思わない」のボタンを大量に押したりしていたことが判明したのです。

2017年1月12日、国連事務総長の任期を終えて退任し、韓国・仁川空港に到着後、記者会見する潘基文氏(中央)=東岡徹撮影
2017年1月12日、国連事務総長の任期を終えて退任し、韓国・仁川空港に到着後、記者会見する潘基文氏(中央)=東岡徹撮影 出典: 朝日新聞

 一例を見ましょう。2017年1月、国連事務総長だった潘基文氏が任期を終えて韓国に帰国します。大統領選の有力候補と見なされていましたが、空港到着直後から、電車の切符の買い方を知らない、面会した「セウォル号事故」遺族の名前を間違える、などの言動が次々に批判されて支持率が急落、ほどなく出馬辞退に追い込まれます。

 このとき、少なくとも2290個のアカウントが作られ、「ドルーキング」のグループとみられるアカウントが、ネット記事に潘氏を批判、中傷するコメントを大量に投稿していたことが、警察の捜査で明らかになりました。

 「ドルーキング」というハンドルネームを持つ民主党員のブロガーや、関与した数人が逮捕されました。「ドルーキング」が連絡を取り合っていた文大統領側近の現職国会議員にも、捜査は及んでいます。

2012年には国家機関が介入

2012年12月19日、大統領選で当選が確実になり、セヌリ党本部で支持者に笑顔を見せる朴槿恵氏=ソウル、代表撮影
2012年12月19日、大統領選で当選が確実になり、セヌリ党本部で支持者に笑顔を見せる朴槿恵氏=ソウル、代表撮影 出典: 朝日新聞

 実は同様の事件は2012年の大統領選でも起きていました。

 このときは朴槿恵・前大統領が、文在寅氏に得票率約3%の僅差で競り勝つ大接戦。しかし、その直前に国家機関である情報機関の国家情報院が、ツイッターや人気投稿サイトなどを舞台に、匿名アカウントを大量作成して朴氏に有利なコメントを組織的に投稿したり、文氏支持のコメントに「そう思わない」を大量に押していたりしていました。

 当時の国家情報院長を含む関係者が公職選挙法違反の疑いで起訴され、元院長には実刑判決が下っています。

与党に近い進歩系の新聞「ハンギョレ」は6月5日、ドルーキング事件と同様のプログラムを、野党も2006年の統一地方選や2007年の大統領選挙(現野党の李明博氏が当選)などで組織的に使用し、コメントやリアルタイム検索ワードに「世論工作」をしてきたという、野党関係者のインタビューを報じています。

「アメリカ同様、政治的な攻防」

 韓国のインターネットメディア「ハフポスト韓国版」のキム・ドフン編集長は「アメリカのフェイスブック同様、韓国も政治的な攻防を経て、ポータル自身が何らかの措置を執らざるを得なくなっている」と解説します。

 一方でネイバーは韓国内の検索で9割近いシェアを占めるため「ニュースが占めるトラフィックの割合はそれほど高くなく、むしろリスク回避のため早く外部リンク方式に移行したいが、配信料収入を当て込むメディア各社が難色を示している状態」(キム編集長)という事情もあるようです。

日本ヤフーも対策強化、でも…

 日本でもヤフーニュースなど、大手ポータルサイトにはコメント機能があり、連日、たくさんの投稿が寄せられています。2017年6月には、差別的な内容などが問題となり、大量に投稿するユーザーの投稿や、問題のある表現を非表示にするなど対策を強化しました。

 経済記事に対して専門家や一般の人が意見を述べ合う「NewsPicks(ニューズピックス)」でも、2017年1月、コメントを投稿する際のマナーを「コミュニティ・スタンダード」として明文化しています。

 対策が進む一方で、韓国の「ネイバー」と違い、コメント欄をなくすまでには至っていません。

 それでもコメント欄をつけるのか。

 韓国と同様、選挙時におけるコメントの問題が表面化した時、日本のインターネット事業者も、コメント欄の有無について判断を迫られそうです。

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