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2018年06月09日

噂の「電子国民」になってみた 飲み会程度の費用で得た「心の余裕」

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電子IDカードはカードリーダーにこう差し込む(画像は一部加工しています)

電子IDカードはカードリーダーにこう差し込む(画像は一部加工しています)

 この度、ロシアの隣国、エストニア共和国の「国民」になりました。どういうことかと言うと、「電子国民」「電子住民」とも言われる同国の「e-Residency」という制度への登録が認められたのです。人口減少が進む日本に嫌気がさして……というわけではありませんが、人生の選択肢は多い方が良いはず。なかなか自分の意思で「国民」になる機会ってありません。なぜ「国籍」を増やそうと思ったのか、そしてどんな意味があるのか。自分から他の国の「国民」になってみて見えたものとは……。

エストニアの首都タリンの街並み=2006年12月11日

エストニアの首都タリンの街並み=2006年12月11日

出典: 朝日新聞


多拠点居住を模索して

 私は以前から、「多拠点居住」という生き方を模索していました。

 日本では一番に東京に情報が集まります。転勤などで地方に住んだこともある経験から、将来的には地方と東京の良いとこ取りができる「多拠点居住」をしたい、と考えるようになりました。

 一方、最近はLCC(格安航空会社)も登場し、国内旅行より海外旅行の方が安く行ける状況にもなっています。

日本人滞在者が増えており、記者も多拠点居住地の一つとして検討しているマレーシアのペナン島。植民地時代の街並みと多様な文化が魅力=2004年7月25日

日本人滞在者が増えており、記者も多拠点居住地の一つとして検討しているマレーシアのペナン島。植民地時代の街並みと多様な文化が魅力=2004年7月25日

出典: 朝日新聞

 大学時代に歴史を勉強していたマレーシアには友達もいることから、「多拠点居住の一角に海外を加えても良いのでは」という気持ちが芽生えてきました。

 そんな折、電子政府化が進むエストニアの話を聞きました。

 面積は日本の9分の1程度の約4.5万平方キロメートル、人口は100分の1程度の約132万人(2017年1月)という小さな国ですが、日本では大相撲の元大関把瑠都の故郷として知られていると思います。

初優勝を果たし、放駒理事長から賜杯を受け取る把瑠都=2012年1月22日、東京・国技館

初優勝を果たし、放駒理事長から賜杯を受け取る把瑠都=2012年1月22日、東京・国技館

出典: 朝日新聞


安倍首相も「電子国民」

 この国では国民が「マイナンバーカード」のような電子IDカードを持ち、行政サービスを受ける際に使っています。

 そして、それを外国人にも広げる「電子国民」の制度を展開しています。

 エストニア公共放送の報道によると、安倍晋三首相も同国政府から電子国民カードをプレゼントされたそうです。

エストニアのラタス首相(右)との共同記者発表を終え、握手する安倍晋三首相=2018年1月12日、タリン

エストニアのラタス首相(右)との共同記者発表を終え、握手する安倍晋三首相=2018年1月12日、タリン

出典: 朝日新聞


欧州を舞台に活動できる会社設立が容易に

 「電子国民」の制度では本来の国籍は変わりません。永住権とも違うので実際に住むことについては別問題となりますが、大きなメリットとして、日本にいながら簡単にエストニアで会社を設立することができます。

 この制度の専用ページによると、5月18日現在、約150の国から約3万3千人が「電子国民」の申請をしていて、約5千の企業が立ち上がったようです。

 今のところ、私は起業する予定はありません。ただ、将来を考えると、エストニアは欧州連合(EU)の一員であり、ヨーロッパを舞台にビジネスができる地で会社を設立できる権利を持つことは人生の選択肢を広げるかも……。そう思い、試しに申請をしてみることにしました。

エストニア国籍のない「電子国民」は選挙への投票権はないが、電子行政の進むエストニアではインターネット投票の取り組みも行われる。2011年当時、実際の予行演習を前に、インターネット投票のやり方を教えてくれた選挙管理委員会のスタッフ=2011年1月13日、タリン

エストニア国籍のない「電子国民」は選挙への投票権はないが、電子行政の進むエストニアではインターネット投票の取り組みも行われる。2011年当時、実際の予行演習を前に、インターネット投票のやり方を教えてくれた選挙管理委員会のスタッフ=2011年1月13日、タリン

出典: 朝日新聞


申請費用は100ユーロ

 申請にかかる費用は100ユーロ(約1万3千円)。飲み会で見栄を張って後輩たちの分も出したくらいの金額と考えれば、それほどの額でもないと言えそうです。

 申請ページに、名前、生年月日、メールアドレス、カードの受け取り場所(日本に住んでいる場合は、基本的には、在東京のエストニア大使館になるでしょう)……。必要事項を書き入れていきます。

 英語が苦手な方は、グーグル翻訳などのお世話になれば、なんとかなるレベルです。ネットで「e-Residency」と検索すると、既に取った経験のある人が日本語で書いたブログも出てくるので、それらも参考にできます。

 申請の理由を打ち込む欄がありますが、迷うようであれば、「e-Residencyのファンだから」というものもあります。

 さらに詳しく理由を書き込む欄もありますが、私は「将来的にはエストニアで報道関係の会社を立ち上げることも検討しているが、今はエストニアの電子行政の仕組みに興味があるからだ」という趣旨のことを書きました。

東京都渋谷区にあるエストニア大使館。千駄ヶ谷駅や国立競技場駅から歩いて行ける

東京都渋谷区にあるエストニア大使館。千駄ヶ谷駅や国立競技場駅から歩いて行ける


申請から2週間で許可がおりる

 申請したのは3月5日。エストニア側から「申請してくれてありがとう(Thank you for applying for e-Residency.)」という自動応答メールが英語で届きました。

 ついで日本時間の3月14日、「エストニア警察と国境警備隊が申請を受け付けました(Estonian Police and Border Guard Board has received an application for e-Resident Digi-ID)」などと(英語、ロシア語、エストニア語の3ケ国語で)書かれたメールが届きます。

 担当部署が受け取ったのはエストニア時間で3月13日と書かれていたので、申請から担当部署に届くまで、ちょっとタイムラグがあるんですね。

 3月20日には「電子国民の資格が与えられました(Estonian Police and Border Guard Board has granted e-Residency)」というメールが(これまた3ケ国語で)届き、何とか認められたことが分かります。何だかんだで嬉しいものです。

e-Residencyを巡るやりとりではロシア語も記されていたが、エストニアはかつて旧ソ連の一部だった。ソ連北西部のバルト海沿岸地方は当時、「ソ連の中の欧州」とも呼ばれたとのこと。タリン市民は、街角の花売りの屋台にチューリップの花を見つけると、春の到来を間近に感じたそうだ=1986年3月

e-Residencyを巡るやりとりではロシア語も記されていたが、エストニアはかつて旧ソ連の一部だった。ソ連北西部のバルト海沿岸地方は当時、「ソ連の中の欧州」とも呼ばれたとのこと。タリン市民は、街角の花売りの屋台にチューリップの花を見つけると、春の到来を間近に感じたそうだ=1986年3月

出典: 朝日新聞

連絡がなかなか来ず、やきもきも

 メールによると、受け取り地(私の場合は東京のエストニア大使館)に書類が届いたら連絡が来るはすでしたが、ここからが時間がかかりました。

 過去に取った人のブログによると、先ほどのメールが届いてから20日程度で連絡が来たようです。一方で、今は申請者数が増えて、時間が掛かっているという話もあります。

 5月に入っても連絡が来ないので、e-Residencyの担当窓口にメールをしたところ、何日か待って、「大使館に聞いてください」との回答がありました。

 そのメールが届いた5月9日、即座に大使館に尋ねたところ、11日に「今届きました。平日の10時から17時に大使館で書類を受け取れるので、いつ来るか教えてください」というメールが大使館のスタッフから届きました。

 大使館スタッフからのメールを受けて15日、大使館で受け取った、という次第です。

記者が取得したe-Residencyの電子IDカード(画像は一部加工しています)

記者が取得したe-Residencyの電子IDカード(画像は一部加工しています)

大使館でのやりとりは英語

 大使館では、スタッフに挨拶し、パスポートを渡し、両手の人差し指を登録すると、英語での使用法の説明の後、電子IDカードやカードリーダーなど一式を受け取れます。

 その際、改めて「どうしてe-Residencyの申請をしたのですか」とも聞かれましたが、申請時と同じことを伝えました。

 その日の夜11時から電子IDカードが使えるようになり、カードとカードリーダーを使うためのアプリをダウンロードした上でパソコンに差し込むと、無事に認識してくれました。

電子IDカードはカードリーダーにこう差し込む(画像は一部加工しています)

電子IDカードはカードリーダーにこう差し込む(画像は一部加工しています)


他の電子国民ともつながりたい

 国籍は変わらないとはいえ、別の国の「国民」になる中で、あらためて日本の現実を考えてしまう瞬間もありました。

 日本には地震や原発のリスクがある上、一時期より減ったとはいえ今でも年間2万人以上が自殺しています。

 ちょっとした発言でネット炎上するなど、世の中がギスギスしていると感じることが少なくありません。

教育用アプリを入れた実際のスマートフォンで、ネットのトラブルを疑似体験する児童たち=2017年10月24日、名古屋市中村区

教育用アプリを入れた実際のスマートフォンで、ネットのトラブルを疑似体験する児童たち=2017年10月24日、名古屋市中村区

出典: 朝日新聞

 不安の多い日本の将来を思うと、「電子国民」という形ではあっても、日本以外に拠点を持つことが、人生のリスク分散につながると思うようになりました。

 「電子国民」になると、やはり実際のエストニアにも足を運んでみたくなるものです。

 夏休みの際にでも訪れ、「電子国民」になったことで何かメリットがあるのか、なども試してみたいと思います。

タリンの旧市街を一望できる展望台の双眼鏡で遊ぶ観光客ら=2017年7月11日

タリンの旧市街を一望できる展望台の双眼鏡で遊ぶ観光客ら=2017年7月11日

出典: 朝日新聞デジタル

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記者が取得したe-Residencyの電子IDカード(画像は一部加工しています)とカードリーダー
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