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話題

図々しいことを直球で言うユーモア キンチョウの新聞広告が深かった

KINCHOこと大日本除虫菊(大阪市)の新聞広告が、ネット上で話題になっています。

新聞広告をキリトリ線に沿って切り抜いてみました。角度によっては本物があるように見えます
新聞広告をキリトリ線に沿って切り抜いてみました。角度によっては本物があるように見えます

目次

 KINCHOこと大日本除虫菊(大阪市)の新聞広告が、ネット上で話題になっています。「買うまでが、広告です。」という拡散を促す強気なキャッチコピーや、はさみで切り取ると立体的に見える仕掛けなど、いくつかの工夫が施されています。「拡散してほしい臭がすると拡散したくなくなるということを意識した」という取り組みについて聞きました。

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ゴキブリのイラストが描かれているので目立つところに置きたくないという声に応えて発売された脱皮缶
ゴキブリのイラストが描かれているので目立つところに置きたくないという声に応えて発売された脱皮缶 出典: 大日本除虫菊提供

「買うまでが、広告です。」


 先月25日にツイッター投稿された画像。そこに写っているのはKINCHOの新聞広告です。

 中心には、外装フィルムをはがせるゴキブリ用殺虫スプレーの画像が置かれ、横には大きく「拡散」の文字があります。

 そして、下の方にはこんな文章が書かれています。

 買うまでが、広告です。

 企業が広告を出す。たとえばこの新聞広告。あなたは読者として見ています。それだけでは何も生まれません。

 へえと思ったら、お店で買ってみる。そうしてはじめて、広告は広告としての使命を全うするわけです。

 経済の敵は、その無関心。わかりますよね、企業からの単なる一方通行メッセージの虚しさたるや。

 さあ、考えてもみてください読者の役割。

 金鳥は、ゴキブリのイラストさえ不快だというお客様の声にお応えして、外装フィルムをはがせる「脱皮缶」を開発しました。

 いわば、パッケージのゴキブリをも退治したと言えましょう。

 さて、賢明な日本経済新聞の読者のみなさまなら、おわかりでしょう。

 自らがみな発信源となれるいま、さらに成熟した読者の役割とは何か――。

 拡散するまでが広告です。

 ※今回に限り、買ったように見えるサービスをご用意しました。キリトリ線に沿ってハサミでていねいに切り、スマホなどでいい角度からうまく撮影すると買ったように見えます。
日経新聞に掲載された広告
日経新聞に掲載された広告 出典: 大日本除虫菊のホームページより

新聞ごとに微妙な違い


 やや強気な文章で、「この商品を買って」「拡散させて」というメッセージを発しているように読めますが、キリトリ線に沿って切ると立体的になり、買ったようにみえる工夫など、拡散したくなる仕組みも施されています。

 ツイッター上では実施に切り取って写真を投稿した人が相次ぎ、「この広告は切りたくなった」「本当に買ったように見えた」「デジタル時代のようなことを言いつつ、アナログなことをさせるあたりが興味深い」といったコメントが寄せられました。

 投稿を見ていると、さきほどの日本経済新聞だけでなく複数の新聞に掲載されたようで、新聞社名だけでなく「拡散」の文字が「買う」「脱皮」となっているものもありました。

こちらは読売新聞の掲載された広告。脱皮缶の横の文字が日経新聞とは異なっています
こちらは読売新聞の掲載された広告。脱皮缶の横の文字が日経新聞とは異なっています 出典: 大日本除虫菊のホームページより

宣伝部の担当者に聞きました


 どういった狙いで、この広告を制作したのか? KINCHOの宣伝部の担当者に話を聞きました。

 ――新聞ごとにデザインが異なるのでしょうか

 「買うまでが、広告です。」というキャッチコピーは同じです。違っているのは、立体文字のコピーで、「買う」「脱皮」「拡散」の3種類があります。

 ――あえて新聞ごとに変えた狙いは

 SNS上で拡散した時に違うデザインのものがあると、「あ、ほかの文字のもあるんだ」と、より楽しんで頂けるかと思いました。

 ――「買うまでが、広告です。」を通じて伝えたかったメッセージは

 知ってもらう、好きになってもらう……広告の役割は様々ありますが、最終的な目的は買ってもらうことです。

 そのために、あれこれ工夫するのが広告ですが、今回は、これをあえて身もふたもなくストレートにメッセージすることをアイデアとしました。

 小学生の頃、誰もが耳にしたであろう先生の名言「家に帰るまでが、遠足です」をヒントに、まことしやかな面持ちで、図々しいことを直球で言う。厚かましくも知的なユーモアを狙ったつもりです(笑)。

キリトリ線に沿って切り、スマホで角度を調整しながら撮影すると買ったように見える仕掛けです
キリトリ線に沿って切り、スマホで角度を調整しながら撮影すると買ったように見える仕掛けです

金鳥の広告ならと


 ――強気なメッセージと受け止める人もいるなかで、「ここまで押されるとすがすがしい」と好意的な声も上がっています

 読者の方も、「金鳥」の広告なら、大真面目に捉えず、「また何かやってきたな」という準備の上でご覧になって頂けたのかなと思います。

 ユーモアであると分かりやすくするために、「読者の役割とは――」という導入タイトルや、さらなる読者の役割として「拡散するまでが広告である」といったメッセージ、買ったように見えるサービスなど、何重もの真顔シュールなボケコピーワークを連発することで、「ああ、やっぱりユーモアでやってるんだ」と確信して頂けるようにと考えました。

 その上で、こんな時代にアナログVR風トリックアートにして、「まずはハサミで切り取って下さい」、「カメラで撮って欲しい」、というビジュアルアイデアを採用したのも、「誰がやるんだ!」とツッコまれたいなという狙いでした。

 そんな中で実際にやって頂けた方々、本当にありがとうございました。

過去には、無数の蚊に振られた数字をつなぐと「ひま?」の文字が浮かび上がる広告を出したことも
過去には、無数の蚊に振られた数字をつなぐと「ひま?」の文字が浮かび上がる広告を出したことも

自戒を込めて


 ――話題になったことについては

 広告の仕組みはどんどん高度化していますし、読者の方も読者として高度化している状況で、「企業のメッセージにだまされないぞ、簡単にはのってやらないぞ」という気持ちが年々高まっていると思います。企業は企業で、どれだけ拡散されたか合戦になりがちです。

 「拡散するまでが、広告です」は、単に拡散を促す目的だけではなく、そこに自戒を込め、「世の中、そういうことになってますよね」という、自虐コピーでもあります。

 拡散よりも、本当はもっと見た人の心に直接刺さりたい、新聞広告を見て「これ面白いな」と思ってもらいたい、せっかく広告を通して『金鳥』と接して頂けたなら、少しでもその時間を楽しんで頂きたい、という思いを持っています。

 「拡散してほしい臭」がすると拡散したくないという潮流も理解の上でしたが、結果、この一方的な意見広告を理解して頂き、そして多くの方に拡散して頂けたことは非常に嬉しく思います。「読者の役割」を果たして頂いた皆様方に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。そして、買って下さい!

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