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役所なのに「炎上してもいい」消費者庁がロバート秋山で挑んだ動画

ロバートの秋山竜次さんが出演する消費者庁の動画
ロバートの秋山竜次さんが出演する消費者庁の動画 出典: 消費者庁のツイッターから

目次

 誰もが恐れるネット上のトラブル。中でも、国の役所は絶対避けたいはずです。ところが、ロバートの秋山さんら芸人を起用した動画を作った消費者庁は、トップが「炎上してもいいから」とGOサインを出して、公開しました。その最初のメッセージは、「風呂に入らない月間」。何だそれ? 「従来の啓発動画にはしたくなかった」という若手官僚の思いを聞きました。

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政策をほぼ説明しないPR動画

 4月末、消費者庁の公式ツイッターアカウントがこんな動画を投稿しました。



 動画では、お笑いトリオ「ロバート」の秋山竜次さんが、神社のような場所で、今までやったことがあるという「月間」を一人で語り出します。

 小学校のころに「風呂に入らない月間」をやったら、お母さんにボロクソ叱られたこと。
 最近は、思いや気持ちをゼロにする「邪念ゼロ月間」をやっていること。

 秋山さんが「それはそうと、5月はナニ月間だ?」と話すと、「5月は消費者月間です」の文字が画面いっぱいに現れます。
 
 でもその後、動画は終わり。
 いったい「消費者月間」って何?という疑問がのこります。

消費者庁に聞いてみた

 なんで今回のような動画を企画したのか、消費者庁の担当者で、消費者教育・地方協力課の梅田政徳さん(34)と山本梨加さん(27)に聞きました。

消費者庁の梅田政徳さん(左)と山本梨加さん
消費者庁の梅田政徳さん(左)と山本梨加さん

 

記者

役所の政策PRというと、かたいイメージがありますが、今回の動画はちょっと違いますね

 

梅田さん

ありがとうございます。今回の動画は、主に若い人たちにPRするために作りました

 

記者

そもそも「消費者月間」って何のことでしょうか?

 

梅田さん

ネットショッピングのトラブルや、環境や社会に配慮された商品をすすんで買うといった、消費者をとりまくさまざまな問題について伝える取り組みを全国で集中的にやる期間のことです

 

その「消費者月間」のPRで、吉本興業さんと協力し、4本の動画を企画。ロバートの秋山さん、千鳥の大悟さん、友近さん、ゆりやんレトリィバァさんの4人に出演していただきました

「従来の啓発動画」にはしたくなかった

 

記者

でも、ロバートの秋山さんはそんな説明はしないし、「消費者月間」という言葉すら口にしませんね

 

山本さん

今回の動画は、まず若い世代の人にSNSで拡散してもらうことを目的にしていました

 

まず最初に考えたことは、30秒という見やすい長さです。その秒数で消費者月間の内容を語ってもらうのは難しいし、真面目にたくさんの内容をつめこんでも見てもらえないと思いました。

 

いわゆる「従来の啓発動画」にはしたくなかったんです
消費者庁が入っている建物(東京・霞が関)。1988年から、毎年5月は「消費者月間」
消費者庁が入っている建物(東京・霞が関)。1988年から、毎年5月は「消費者月間」

お役所の悩み①説明口調になりがち

 

記者

「従来の啓発動画」ってどういうことでしょう?

 

梅田さん

役所でよくあるPRは、伝えたいメッセージをたくさん盛り込んでしまうんです

 

そうすると、内容が説明口調になりがちです

 

記者

カタいお話になってしまうんですね

 

梅田さん

山本さんとは違って、私みたいな役所の人間だと、消費者月間の目的をカチッと話してもらおうという発想になっちゃう

 

内容が大事でも、途中で飽きられてしまうんですよね

 

記者

あれ、山本さんも役所の人間じゃないんですか?

 

山本さん

実は私はイオンから消費者庁に出向してきたんです

 

記者

民間企業のご出身なんですね

 

山本さん

出向して、消費者庁のPRをいろいろ見てきましたが、消費者庁のことを知らない人、特に若い世代にとって難しそうな内容もありました

 

なので今回は、内容を理解してもらうより、まずは「おもしろそう」と見てもらって、「消費者月間」という5文字をちょっとでも覚えてもらえればいいなと思いました。そんなコンセプトを考えて、吉本興業さんと内容を練っていったんです
伝えたいことは、本当はたくさんある
伝えたいことは、本当はたくさんある 出典:消費者月間特設ページ

お役所の悩み②興味がある人しか見てくれない

 

梅田さん

従来のPRだと、消費者問題に興味がある人しか見てくれないということも悩みの一つでした

 

記者

興味がある人って、たとえばどんな人でしょう

 

梅田さん

例えば、消費者トラブルの相談をうけつける消費者団体の方々です。若い人だと、消費者問題を勉強している学生くらいだと思います

 

記者

消費者庁がPRしたいことを、すでに知っているような方々ですね

 

梅田さん

もちろん消費者団体の方々を通じたPRも大事です

〓名前〓

でも今回は、従来のPRでは声が届きにくい、若い世代に直接伝えたかった。そこで、若い人たちに人気のある芸人さんがいる吉本興業さんと協力することになりました

 




お役所の悩み③ふざけすぎたらいけない?

 

記者

でも役所のPRというと、お堅いイメージがあります。ふざけすぎたらいけないんじゃないか、と迷うようなことはありませんでしたか

 

山本さん

実は少しありました

 

ロバート秋山さんの「風呂に入らない月間」は、元の台本にはなかったんです

 

記者

元は例えばどんなセリフがあったんですか?

 

山本さん

例えば「他人を愛する月間」です

 

記者

「他人を愛する月間」! だいぶ変わりましたね(笑)

 

山本さん

撮影には立ち会わなかったので、完成した動画を見たときに正直、びっくりしました

 

とても面白いのですが、国の役所が作る動画に「風呂に入らない月間」という内容が入っていて、はたして大丈夫なのかな・・・と、ふと考え込んでしまいました

 

記者

大丈夫だとは思いますが・・・

 

山本さん

でも、どのような印象をもつかは皆さん様々なので、漠然とした不安はありましたね

 

記者

はじめから役所勤めの梅田さんも、同じような葛藤はありましたか?

 

梅田さん

私は逆に、気にしませんでしたね

 

むしろ、私たち役所が考える発想からは、一歩抜け出さないといけないという思いがありましたから

トップも後押し 「炎上してもいいから・・・」

 

梅田さん

打ち合わせで動画を確認した長官(消費者庁・岡村和美長官)からも、今回のPR動画について、「炎上してもいいから、自分たちの世代に届けようと仕事をして」と言われました

 

記者

現場にとって励みになりそうですね

 

梅田さん

もちろん最初から炎上するものを作ろうとは思っていませんし、今回の動画は炎上しないと思います

 

ただ、そういう覚悟というか、「自由な心意気でやっていいよ」という理解が上層部にもありましたね
定例の記者会見に出席する消費者庁・岡村和美長官=5月
定例の記者会見に出席する消費者庁・岡村和美長官=5月

消費者って誰のこと?

 

山本さん

ロバート秋山さんは知っていても、消費者庁や消費者月間を知らない人は多いはずです。この動画が、そういう人たちにつながるきっかけになればと思います

 

記者

そういえば、私も「消費者庁の取材を担当している」と友人に話しても、「ショウヒシャチョウ?」という反応をする人が多いです。ちょっとさびしい・・・

 

山本さん

そもそも「消費者」という言葉自体が、あまり身近に思えない印象がありますよね

 

梅田さん

消費者庁の人間からすると、新鮮な指摘ですね。言い換えるなら・・・「生活者」とかでしょうか

 

記者

具体的なシーンを想像したほうが、わかりやすいかもしれませんね

 

山本さん

食事を買って食べることとか、服を買うとか。ネットショッピングで「ポチッ」とすれば、消費者ですね

 

梅田さん

スマホゲームの課金も、そうですね



知名度約3%の「ホットライン」

 

記者

さっきからちょっと気になってたんですが、お二人の背景にある「188」って何ですか?

 

梅田さん

「いやや!」と読みます。消費者ホットラインという電話番号です。消費者月間でもPRしてます

 

記者

なんで関西弁(笑)どこにつながるんですか?

 

梅田さん

近くの消費生活センターなど、相談窓口につながります。消費者が関わるトラブルについて、知識が豊富なプロに、解決に向けた相談ができます

 

記者

あんまり知らない番号です

 

梅田さん

2016年度の調査では、「名前」と「番号」、「内容」の全てを知っている人は、3.3%でした

 

記者

110番や119番とは、えらい違う知名度ですね

 

梅田さん

低いと言わざるをえませんね

 

トラブルの解決方法をネットで探す人もいると思いますが、そこで偽の情報にひっかかってしまうと、二次被害にもなりかねません

 

正しい情報を得るために、「188」はぜひ覚えておいてほしい番号です

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