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文化と教養のモビルスーツ?! 移動図書館車、老舗工場のこだわり

福岡県八女市立図書館に納める移動図書館車の製作風景
福岡県八女市立図書館に納める移動図書館車の製作風景

目次

 移動図書館車を見たことがありますか?私は今、はまっています。何千冊もの本を積んで地域を巡る「動く図書館」のような車です。ちょっと懐かしい音楽とひときわ目立つ派手な色使いで、やってくると、たちまち子どもからお年寄りまで人だかりができる人気者。各地で見てきた移動図書館車について夢中で話していると、ガンダム好きのある先輩が言いました。
 

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 「文化と教養のモビルスーツやな」

 確かに。

 「普通の四角い車が、たくさんの本を載せただけで、たちまち文化の担い手、教育の下支えになる。この変貌にロマンがある」

 確かに。
 

 そういえば、どれもなんだか個性的。その秘密を知りたくて、老舗の工場を訪ねてみました。(朝日新聞文化くらし報道部記者・上田真由美)
【関連リンク】移動図書館、なぜいま注目? 震災機に再評価の動きも:朝日新聞デジタル
大分県豊後大野市図書館で活躍する移動図書館車「にじいろ号」=豊後大野市図書館提供
大分県豊後大野市図書館で活躍する移動図書館車「にじいろ号」=豊後大野市図書館提供

1080台、全てオーダーメイド

 さいたま市、大宮駅から車で10分ほど。首都高速埼玉新都心線沿いに、「林田製作所」はひっそりとありました。創業1960年。トタン屋根の大きな倉庫のような工場に入ると、キーン、ジュッ、ジュッ、ジュッと金属音が重なり合っています。天井からぶら下がっているのは、鎖や名前のわからない器具。全体的に灰色と茶色。なんだか「昭和」の世界に紛れ込んだ気分です。

 つなぎ姿の職人さんが、裸のトラックのようなものに火花を散らしていました。5月に福岡県八女市立図書館に納入する予定の車だそうで、これがここで作る1080台目の移動図書館車だといいます。

 案内してくれた取締役の林田理花さんは「全てがオーダーメイド。一つとして同じ物はないんですよ」と言います。つまり、全部手作り。工場長の塩澤和夫さんは「トラックの頭しかないやつから作るからね」。そんな言葉で製造工程を教えてくれました。
 

【動画】完全手作り!移動図書館車を1000台作った「林田製作所」=2018年3月7日、上田真由美撮影

トラック改造か、バス改造か

 図書館からの注文を受けると、まずはどんな図書館車が欲しいのか、念入りに打ち合わせをします。側面の扉を開くと本が並んでいるタイプか、車の中に入って書架から本が選べる作りにするか、貸し出しカウンターを車内に備え付けるか、天窓をつけるか……。

 イメージを固め、トラックを改造するのか、バスを改造するのかを決めます。改造する、と言っても、トラックの場合、仕入れるのは運転席のある「頭の部分」と荷台を載せる骨組みだけのもの。そこから、職人さんたちが要望にあわせて新たに骨組みを載せていき、頭の部分と丁寧につなぎ合わせるのです。この日、職人さんが火花を散らしていたのはこの工程でした。それから次第に板を張り付けていき、書棚や机を設置。塗装して、完成です。

福岡県八女市立図書館に納める移動図書館車の製作風景
福岡県八女市立図書館に納める移動図書館車の製作風景

完成まで6カ月

 打ち合わせから完成までの標準的な期間は6カ月くらいですが、自治体の予算削減のあおりを受けて計画が途中で止まってしまい、何年もかかることも。値段ももちろん様々ですが、大型で1800万円程度だそうです。「でも、丈夫に作ってあるので20年は使えます」と林田さんは言います。「長持ちする分、なかなかたくさん売れないんですけどね」

 作っている途中で新たな注文が付け加わることも度々だそうです。本来なら予算オーバーで見積もりをし直したいところですが、腕が自慢の職人さんたちは、うっかり要望に応えてしまうのが悩みの種だとか。

福岡県八女市立図書館に納める移動図書館車の製作風景
福岡県八女市立図書館に納める移動図書館車の製作風景

その土地ならではのデザイン

 移動図書館車の多くは「ひまわり号」「にじいろ号」のように愛称がつき、ハイビスカスやまちのゆるキャラなど、その土地ならではの模様をつけて走ります。そういえば、埼玉県川口市立図書館の「あおぞら号」は、児童から公募した絵で彩られていました。

 顔ともいえる車体のデザインは、お披露目直前まで伏せられることもしばしば。中には、「市民をびっくりさせたいので、車体を隠して運んできてくれないか」なんて相談もあったそうですよ。それだけ、楽しみにされているんですね。

 塩澤工場長は「1台1台違って、お客さんの要望もあるからね。あわせるのが大変」と言いつつ、照れくさそうに笑いました。「でもやっぱり走っているのを見るとね、ああ、うちのだなって、ね」

八女市立図書館に納める移動図書館車の完成予想図=八女市立図書館提供
八女市立図書館に納める移動図書館車の完成予想図=八女市立図書館提供

図書館がやって来る意味って?

 インターネットで注文すれば、すぐに家まで本が届く今、それでもわざわざ図書館がやって来る意味ってありますか?尋ねてみると、林田さんはちょっと驚いた顔をしました。

 「子どもが、自分の意思で自分の目で見て、自分で選んで本をつかむ。親や学校から与えられたものじゃなくて、自分で本の中に入っていって選ぶ。本を手に持って、本の重みを感じながら、わー楽しいなって思うでしょ」

 確かに、取材では、選ぶ楽しさを味わう人たちに出会いました。図書館車の棚から本を引っ張り出してはぺらぺらとページをめくって少し読み、また返して、次の本を手に取る。そんなふうに念入りに本を選ぶおじいさん。児童文学の棚をじっくり眺め、「こういうの読むと心がほっとするの」と「ゲド戦記」を借りていったおばあさん。自分用の絵本を選び終え、お母さんの本まで選んであげようと張り切る男の子……。

1500冊載せて団地を巡る岡山市立図書館の「あおぞら1号」は車内に入って本を選ぶことができる=3月8日、岡山市
1500冊載せて団地を巡る岡山市立図書館の「あおぞら1号」は車内に入って本を選ぶことができる=3月8日、岡山市

南アフリカで「第二の人生」も

 林田さんには、夢があるそうです。もし予算をたっぷり使えて好きな移動図書館車を作れるのなら、車内に入ったとたん、壁や天井に青空が広がっているような、そんな内装の車を作ってみたい。「楽しいなって感じてもらいたいの」

 「引退」した移動図書館車の中には、南アフリカで「第二の人生」として活躍している車も10台以上あるそうです。国際支援をする団体が買い取り、林田製作所での修理・改造を経て、寄付を続けているのです。

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