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2018年04月11日

「ふつうに食べる」ができない…摂食障害「ささいな一言」きっかけ

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「食育」の活動に取り組むようになって、過食することが減ってきた

「食育」の活動に取り組むようになって、過食することが減ってきた

出典: 金子さん提供

 「ふつうに食べることがこんなに難しいなんて、思ってなかった」。都内に住む会社員の金子浩子さん(28)は大学2年生の頃から7年にわたって摂食障害に悩まされた。拒食と過食嘔吐を繰り返し、体重の増減幅は33キロにもなったが、「食育」のイベントを主催するようになってようやく「揺れ」が小さくなってきた。今でもストレスがたまると過食してしまうことがある。「治りかけても、まだ揺れている人がいます。そんな人たちがつながれる『場』を作れたらいいなと思います」


「太ってるから治りが遅い」一言がきっかけで

 小さな頃から食べることが好きで、中学時代は陸上部だった。

 「その頃はガリガリでした。高校に入って太っても、特に気にしてなかった」

 東京の薬学系の大学に入学して独り暮らしを始めた。股関節の持病で、2年生になる春休みに手術を受けた。術後にうまく歩けなかったこともあり、体重が増え、155センチ57キロになった。

小さな頃は大好きだった「食べること」に苦しんだ金子さん

小さな頃は大好きだった「食べること」に苦しんだ金子さん

 同じ病気の患者が集まる会で、参加者の中年男性から「太っているから治りが遅いんじゃない?」と言われた。

 「そうなのかな」
 
 ジムのランニングマシンで走り始めた。こんなに走って疲れたのに、マシンに表示されたカロリー消費量は「サラダ1皿分」。
 
 「食べるってカロリーをとるってことなんだ」
 
 当時好きだった人に「やせた方がいい」と言われたこともあって、ダイエットを始めた。

【摂食障害になるきっかけは……】摂食障害に悩む人の正確な統計はない。ただ、病院にかかっていない人を含めると、増加傾向にあるという指摘もある。周囲からの「太った?」といったささいな一言や、やせていることが「美しい」「正しい」という考えをきっかけに摂食障害になることが多く、医師らは「体重への過度なこだわりを持つようになる」と指摘する。

ダイエットを始めた大学2年生の頃の金子さん

ダイエットを始めた大学2年生の頃の金子さん

出典: 金子さん提供

どんなにやせても満足できない 体重は34キロに

 お弁当箱を小さくして、半分はキャベツの千切りで埋める。ジムでバイクマシンをこぎ、プールで泳いで、半身浴をする。

 体重はするすると減って、40キロ台に。生理もとまってしまった。けれど、どんなにやせても満足できなかった。

 リバウンドが恐ろしくて、頭の中はいつも「やせなきゃ」「やせなきゃ」。

 大学4年生になって34キロまでやせた。「拒食症かも」という思いが頭をよぎったが、ネットの掲示板には「モデル体形」「やせたい」という声があふれていた。逆に「私はやせられた人なんだ!」という自信になった。

1カ月間、バックパッカー生活を送った大学3年生の頃。食事は少ししか食べず、体重は35キロだった

1カ月間、バックパッカー生活を送った大学3年生の頃。食事は少ししか食べず、体重は35キロだった

出典: 金子さん提供

 おしりの骨が浮き出て、いすに座ると痛い。頭がぼーっとして、体力がもたない。そんな中、アルバイトをしていた選挙事務所の候補が落選した。自分が失敗したように感じた。

 「やせたって、どうせだめな人間なんだ」

 一転、過食になった。

 家にあった乾燥のりやコーンフレークを口に詰め込んだ。「満腹感」という感覚がなくなっていて、あるのは「食べてしまった」という「罪悪感」だけ。

 しだいに、思い切り食べたあとに吐くようになった。

 体重は上下を繰り返した。大学の友人やゼミの仲間は体形にはふれず、居場所がないと思った。大学を卒業する頃には、体重が67キロになっていた。

【数字による達成感……】若い女性だけではなく、男性や子ども・高齢者が摂食障害になってしまうケースもある。「体重」は数字が見えるので、達成感を得やすい。金子さんも何度も体重を測って、どんどん食べる量を減らし、運動を続ける毎日を送った。過食嘔吐に苦しんでいる時も、体重を測り続けた。

食べる量を減らしていた大学3年生の頃の金子さんのお弁当

食べる量を減らしていた大学3年生の頃の金子さんのお弁当

出典: 金子さん提供

過食に転じて体重増加 主治医と出会い治療開始

 独り暮らしは続けられなかった。大学院に進むのをきっかけに、群馬の実家へ戻った。

 入学時の健康診断で「死にたいと思うことがある」「10キロの体重増減がある」と答えた。大学の精神科の医師から「摂食障害ではないですか」と声をかけられ、「そうだったんだ」と腑に落ちた。

 それでも、はじめは打ち解けたいとも思わず、週1回のカウンセリングの時間が早く終わればいいと感じていた。

 半年ほどして、「通ったって、全然良くならないじゃん」と声を荒らげると、「認知行動療法を試してみようか」と提案された。

 何かに怒ったとき、どうしてそう感じるのか、本当の理由は。自分の気持ちを因数分解するように、ほぐしていった。

 すると、「さみしいと思っている」「自分が生きていていいのか分からない」という心の底にある思いが分かるようになってきた。それを細かくメモに残し、カウンセリングに通い続けた。

金子さんが治療の経過を細かく書いたメモ。「拒食や過食はSOSのサイン」と記した

金子さんが治療の経過を細かく書いたメモ。「拒食や過食はSOSのサイン」と記した

 4年前の春、製薬会社に入社した。自分ではほとんど良くなっていたと思っていたが、半年間の合宿型の研修では、同期と同じものが食べられず、かげで吐いてしまった。

 合宿後も、太るのが怖くて毎朝10キロ走ってから出社。希望の職場に配属されず「やっぱり自分はダメだ」と思ってしまう。

【長期化するケースも……】摂食障害の治療は長期化することが多い。日本摂食障害協会の鈴木眞理さんは、摂食障害を「人生の不安の病気」と呼ぶ。カウンセリングに時間をかける必要があるが、小児科・内科・産婦人科医による面接の診療報酬は、何時間かけても80点(初診は110点)と低い。医師が診療に積極的にならない現状がある。

自身の体験をまじえながら「食」について伝える金子さん

自身の体験をまじえながら「食」について伝える金子さん

出典: 金子さん提供

食べられなくても、食べてもらう喜び 「食育」取り組み

 「食」に悩まされた金子さんを救ってくれたのは、「食」だった。

 「自分で食べることはできなくても、誰かが自分の作ったものを食べてくれるのはうれしいんです」

 実家で家族のために料理を作ると、喜んでもらえる。「こんな自分でもできることがある」と感じた。

 子どもたちに食の大切さや楽しさを伝えたいと、友人たちと5年ほど前から食育ワークショップを開く団体「キッチンの科学プロジェクト」で活動を始めた。

 光るグミを作ったり、タマネギの皮で布を染めてみたり。科学の知識と、食育を組み合わせたイベントだ。

 成功し、アンケートに「また会いたい」「楽しかった」と書かれていると、励みになった。

 気づくと、だんだんと過食する機会が減っていき、ここ3年ほどで嘔吐もなくなった。体重の増減も落ち着いてきた。

自宅のキッチンで料理する金子さん。時間がある時は、かつお節からだしをとる

自宅のキッチンで料理する金子さん。時間がある時は、かつお節からだしをとる

 「今でも過食してしまうことはあります。だから、リビングから遠いところに食べ物を置いたり、まずはスープでおなかいっぱいにしたり。でも、そんな自分でもいいのかな、って思えるようになってきました」

 摂食障害を経験した人たちが参加する料理教室も開く。症状が落ち着いてきた一方でまだ不安な頃、参加したり交流したりできる「場」がないと考えたからだ。

 「引きこもって過食嘔吐していた摂食障害から、社会復帰できるぐらいに改善してきたといっても、まだ揺れている人が多いんです。そんな人が安心して参加できるイベントやつながりが、もっとあればいいなと思います」

           ◇
 食べられなかったり、逆に食べ続けてしまったりして悩む人へ、なかなか支援の手が届いていません。朝日新聞医療サイト「アピタル」では、連載「やせたい私 摂食障害のいま」(http://www.asahi.com/apital/healthguide/yasetai/)で摂食障害の現状や専門家インタビュー、当事者の思いを紹介していきます。


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