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「日米朝」首脳会談もあり?対北朝鮮ジェットコースター外交はどこへ

5月に予定される米朝首脳会談で相まみえる、トランプ大統領(右、2018年3月)と金正恩・朝鮮労働党委員長(左、2015年12月)。動き出した対北朝鮮外交に安倍晋三首相(中央、2018年3月)も対応を迫られている。
5月に予定される米朝首脳会談で相まみえる、トランプ大統領(右、2018年3月)と金正恩・朝鮮労働党委員長(左、2015年12月)。動き出した対北朝鮮外交に安倍晋三首相(中央、2018年3月)も対応を迫られている。 出典: 左はロイター、中央と右は朝日新聞

目次

 核・ミサイル問題をめぐる緊張から一転、北朝鮮との首脳会談へ米国、韓国、中国が雪崩を打っています。まさにジェットコースターのような展開で、「乗り遅れ」感のある日本の国会では「いっそ米朝首脳会談に同席すれば」との声も。「日米朝」首脳会談? でもあえて考えてみると、日本が北朝鮮との対話を急ぐべきかどうか、その得失が見えてきます。(朝日新聞専門記者・藤田直央)

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安倍氏「否定するものではない」

 「4月に訪米された時に、俺も一緒に金正恩氏に会うよ、とトランプ大統領に言ってみたらどうでしょうか」。3月26日の参院予算委員会。民進党の白真勲氏にそう聞かれた安倍晋三首相は「外交上は通常考えられない」と答えましたが、「日米朝という形の首脳会談も否定するものではない」とも語りました。

 拉致問題や、日本には届く中距離ミサイルといった懸案が置き去りにされないよう、常識にとらわれずいい手を探れないものか。安倍氏のそんな心の揺れが感じられました。5月とされる米朝首脳会談自体がそもそも史上初のことで、常識が通じない世界に入ろうとしているのかもしれません。

参院予算委員会で答弁する安倍晋三首相=3月26日
参院予算委員会で答弁する安倍晋三首相=3月26日 出典: 朝日新聞


 そこで思い切って、金正恩・朝鮮労働党委員長とトランプ氏の会談に安倍氏が加わる、日米朝首脳会談の現実味を考えてみます。

一見、日本にはよさそう

 もし実現すれば、一見、日本にはよさそうです。安倍氏は4月中旬に訪米しますが、それは拉致問題が膠着して日朝首脳会談が難しい中で、米朝首脳会談に臨むトランプ氏に日本の立場をインプットするためです。それなら米朝首脳会談に同席してしまえば、間接話法でなく金氏に直に言えます。

 また、米朝首脳会談の場所はまだわからないのですが、第三国の可能性があり、安倍氏が加わるなら日本に誘致しやすくなります。米朝間では実は1950年代にあった朝鮮戦争の休戦状態が続いており、首脳が「敵国」に行くのは相当厳しいのです。もちろん日本で開くにしても警備などの準備が大変ですが。

1950年秋、戦車や米兵部隊を満載して韓国沖を仁川上陸作戦へ向かう輸送艦隊。朝鮮戦争は同年に北朝鮮が韓国へ侵攻して始まり、米主導の国連軍が韓国を支援。中国も北朝鮮を支援して参戦し、53年に中朝と国連軍が休戦協定を結んだ。犠牲者は数百万人とも言われる。
1950年秋、戦車や米兵部隊を満載して韓国沖を仁川上陸作戦へ向かう輸送艦隊。朝鮮戦争は同年に北朝鮮が韓国へ侵攻して始まり、米主導の国連軍が韓国を支援。中国も北朝鮮を支援して参戦し、53年に中朝と国連軍が休戦協定を結んだ。犠牲者は数百万人とも言われる。 出典: 朝日新聞
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 ただ、安倍氏が同席するのであれば重い責任が伴います。もし北朝鮮の核廃棄についてトランプ氏と金氏で話が進み、1990年代の米朝合意のように日本も費用を負担してくれないかとなったら、その場でどう判断するか。日本にとっての懸案を解決する道筋も合意にねじ込む手腕が問われます。

米国はトランプ氏次第

 では米国にとってはどうでしょう。米国が入る3カ国首脳会談と言えば第2次世界大戦末期のヤルタ会談などが有名です。ただ、戦争で協力する国同士ならともかく、休戦状態にある北朝鮮と、しかもお互いの核兵器の扱いがからむ、国益に直結する交渉です。第三国を参加させることは普通は考えられません。

マニラからの帰途、米大統領専用機エアフォースワンに乗り込むトランプ氏。金正恩氏との米朝首脳会談にはどう臨むのか=2017年11月14日、マニラのニノイ・アキノ国際空港
マニラからの帰途、米大統領専用機エアフォースワンに乗り込むトランプ氏。金正恩氏との米朝首脳会談にはどう臨むのか=2017年11月14日、マニラのニノイ・アキノ国際空港 出典: ロイター

 ただ、今の米国外交は普通ではありません。トランプ氏は3月、史上初の米朝首脳会談に応じることをOKすると、外交担当の閣僚や大統領補佐官の交代をすぱっと決めました。一方で安倍氏はこれまでトランプ氏と電話を含め20回以上話し合い、北朝鮮問題で助言を続けています。トップダウンの米大統領が、安倍氏にアドバイザーとして同行を求める可能性が全くないと言い切れるでしょうか。

北朝鮮は嫌がるかも

 日米朝首脳会談を最も嫌がりそうなのは北朝鮮です。米国からの自衛を理由に核兵器を開発してきた北朝鮮にとって、米国との首脳会談には、建国以来三代にわたる世襲の金体制の命運がかかります。トランプ氏とのディール(取り引き)に集中したいのに、第三国の首脳、しかも対北朝鮮強硬派で知られる安倍氏が入れば、ややこしいだけでなく不利になります。

韓国大統領府の鄭義溶・国家安保室長(左)と平壌で3月5日に会い、握手する北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長。朝鮮中央通信が6日に配信した。ソウルに戻った鄭氏は6日に「4月末の南北首脳会談開催」を発表し、8日にホワイトハウスを訪問。金氏が会談を望んでいると鄭氏から聞いたトランプ米大統領は、5月までにと応じた。
韓国大統領府の鄭義溶・国家安保室長(左)と平壌で3月5日に会い、握手する北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長。朝鮮中央通信が6日に配信した。ソウルに戻った鄭氏は6日に「4月末の南北首脳会談開催」を発表し、8日にホワイトハウスを訪問。金氏が会談を望んでいると鄭氏から聞いたトランプ米大統領は、5月までにと応じた。
出典: ロイター


 しかし今回、米朝首脳会談を申し出たのは金氏の方です。トランプ氏が安倍氏の同行を条件とし、北朝鮮にもいいことがあると持ちかけたら――。例えば、金氏は日本からの経済支援を期待するかもしれません。2002年に当時の小泉純一郎首相と金正日総書記(金正恩氏の父)が結んだ合意文書には、「国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議する」とあります。

2002年9月17日、平壌で初の日朝首脳会談を終え、お互いに署名した日朝平壌宣言を交換、握手する小泉純一郎首相と金正日総書記=百花園迎賓館
2002年9月17日、平壌で初の日朝首脳会談を終え、お互いに署名した日朝平壌宣言を交換、握手する小泉純一郎首相と金正日総書記=百花園迎賓館 出典: 朝日新聞


 もちろん日米朝首脳会談は奇策です。日本にとっても、国益がぶつかり合う首脳会談は二国間が基本なのです。でも、こうした奇策をあえて考えて頭をほぐすと、4月末の南北(韓国と北朝鮮)首脳会談、5月の米朝首脳会談の後で日本が北朝鮮との首脳会談を考える場合、気をつけるべきことが見えてきます。四点にまとめてみました。

・北朝鮮からの脅威として日米韓が共有する核問題の解決に向け、日本は南北、米朝の首脳会談に協力を惜しまない。
・韓国と米国に、拉致や中距離ミサイルといった日本の懸案をしっかり意識させ、北朝鮮との首脳会談に臨んでもらう。
・南北や米朝の首脳会談で、北朝鮮が核・ミサイル廃棄に応じる場合の費用分担や経済支援が議論されるかもしれない。
・その後に日朝首脳会談があるとすれば、北朝鮮の非核化を支援しつつ、日本の懸案をいかに解決するかが焦点になる。

韓国大統領補佐官の自負

 今回の米朝首脳会談へは韓国が橋渡しをしました。文大統領の特別補佐官で、過去二度の南北首脳会談にも随行した文正仁氏は、3月31日の早稲田大学での講演で「朝鮮半島の平和と安定へ、南北、米朝、そして日朝へと対話の好循環を作りたい」と話しました。

 外交の世界ではよく「バスに乗り遅れるな」と言われますが、その運転手は韓国だという自負がにじみました。

北朝鮮との対話を進める韓国の文在寅政権の姿勢について語る文正仁・韓国大統領特別補佐官=3月31日、東京都新宿区の早稲田大。藤田直央撮影
北朝鮮との対話を進める韓国の文在寅政権の姿勢について語る文正仁・韓国大統領特別補佐官=3月31日、東京都新宿区の早稲田大。藤田直央撮影


 ただ、南北と米朝の首脳会談が決まり、一方で金氏が北朝鮮トップとして初の訪中で習近平国家主席と会談した3月は、バスというよりジェットコースター、しかも行き先はよくわからないというめまぐるしい展開でした。

韓国の文大統領(左)は2月10日、平昌五輪にあわせ訪韓した北朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員長(右)と、金正恩委員長の実妹の金与正氏と大統領府で会談した。韓国はこれを機に、4月末の南北首脳会談の発表、その後の米朝首脳会談に向けた仲介へと一気に動く。
韓国の文大統領(左)は2月10日、平昌五輪にあわせ訪韓した北朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員長(右)と、金正恩委員長の実妹の金与正氏と大統領府で会談した。韓国はこれを機に、4月末の南北首脳会談の発表、その後の米朝首脳会談に向けた仲介へと一気に動く。 出典: 東亜日報


 北朝鮮に厳しい態度を取る日本は、3月にはジェットコースターに乗り損ねた訳ですが、結果的にはよかったのかもしれません。

 北朝鮮に対して日本が抱える「拉致・核・ミサイル」の懸案のうち、核・ミサイルについては米韓も共有しています。南北と米朝の首脳会談で進展がなければ、「対話のための対話」は「核・ミサイル開発の時間稼ぎ」に使われると指摘してきた日本としては、北朝鮮と対話を進めようがありません。

 逆に「核・ミサイル」で進展があれば日朝首脳会談を開きやすくなり、「拉致」にウエイトを置けるようにもなります。南北と米朝の首脳会談を通じ、その見極めができるわけです。

拉致問題で試練の安倍氏

 しかし、5月までに二つの首脳会談が首尾よくいった場合、日朝は試練にも直面します。対北朝鮮外交の雪解けへと国際社会が動き出す中で、拉致問題をいかに解決へ導くかです。

 2002年の首脳会談で金正日氏は拉致を認め謝罪しましたが、北朝鮮からもたらされた「8人死亡、5人生存」という情報に、日本国内では衝撃が走りました。

2002年9月17日に平壌で行われた初の日朝首脳会談について伝える、翌日の朝日新聞朝刊
2002年9月17日に平壌で行われた初の日朝首脳会談について伝える、翌日の朝日新聞朝刊 出典: 朝日新聞

 その後、生存とされた5人は帰国しましたが、日本政府は「8人死亡」の根拠が示されていないとして、全員が生きている前提で北朝鮮に再調査と帰国を求め続けています。拉致問題も日朝国交正常化交渉も進展のないまま、初の首脳会談から16年になります。

 安倍氏はその最初の首脳会談に官房副長官として同席しました。官房長官を経て首相となるまで、一貫して北朝鮮に厳しい姿勢をとってきました。2012年に再び首相になると、拉致問題を内閣の最重要課題に掲げ、「拉致被害者全員の帰国」を訴えています。


 冒頭に触れた3月26日の参院予算委でのやり取りで、安倍氏は私が見たことのない沈痛な面持ちで反省を述べました。

 「拉致問題には初当選以来ずっと関わって参りました。被害者のご家族が年々お年を召される中で、痛恨の極みであります。結果が出ていないことは深刻に受け止めなければならない」

 そして、北朝鮮との首脳会談にこう条件をつけました。

 「やる以上は拉致問題について、彼らがコミットする形において、成果がある程度見込まれる可能性がなければならない」

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