お金と仕事
NPOの20年「ねずみ講」と言われた時代も…市場規模5千億円に
日本には5万を超すNPO法人があります。NPOを立ち上げる人、NPOに就職・転職する人も、必ずしも珍しくなくなってきました。NPOなど公共にかかわる仕事をしたい人のための学校を運営するNPO「グラスルーツジャパン」(東京都千代田区)の谷隼太代表理事(33)は、「これからNPOに頼らざるを得ない時代が来る」と言います。どういうことでしょう?
「私がこの世界に入ったのは、大学生だった約10年前。NPO法人を通じてソーシャルビジネスの会社で長期インターンをしました。まだ、ソーシャルビジネスや社会起業家といっても、ネットワークビジネスや『ねずみ講』と間違われるような時代でした」
民間の非営利活動を後押しするNPO法(特定非営利活動促進法)が成立したのが、1998年。その後、ビジネスで社会課題を解決しようとする「社会起業家」も話題になりました。
谷さんはその頃、インターンをしていた会社に新卒で入社しましたが、当時はまだまだ珍しかったそうです。
「周囲には『お前、大丈夫か?』って思われていました。社会をよくするための仕事をしたい、ということも気恥ずかしくてあまり周りに話せませんでした」
周囲からは、「政治家や公務員にならないの?」とも言われたそうです。
「私、民間の政治塾の経営者をしたこともありますが、国会議員になるには数年間の準備期間と数千万円のお金がかかります。地方議員なら平均1~2年と数百万円。それでやっと当選しても次は落選するかもしれないし、落選するとまたゼロからのスタート」
「でも、そのお金と時間があったら起業できます。例えば、教育を変えたいなら、教育に携わる事業を立ち上げて、アドボカシー(政策提言)をして現場の声を届けていく方が早いし、変なしがらみもなく活動できるんです」
とはいえ、NPOやソーシャルビジネスって食べていけるものでしょうか。
「収益があがるようにするマネタイズや活動資金を集めるファンドレイジングのノウハウも蓄積されてきました。格安でシェアオフィスを借りることもできますし、起業に必要なコストも相当下がっています」
「もちろん創意工夫は必要ですが、儲からないと思われている事業だって、3年ぐらい頑張ればファンドレイジングなども含めて自分1人くらいはなんとか食べていけるようになるものです。重要なのは簡単に諦めないことと、揺るがない信念じゃないでしょうか」
このインタビューも、「グラスルーツジャパン」が入居するシェアオフィスで行われました。
「いまNPOは全国に約5万団体あり、市場規模は約5千億円と言われています。単純に平均すると年商1千万円で、人件費だけなら1~2人の常勤職員を雇える計算です。みんなが稼げているわけではありませんが、食べていけない団体ばかりというわけではありません」
谷さんはむしろ、「これからNPOに頼らざるを得ない時代が来る」と言います。
「地方では人口減少が進み、限界集落では地方自治体がこれまで通りの公共サービスを維持できなくなってきています。これからますます自治体だけで地域の課題を解決できなくなっていくでしょうから、自治体はやる気のある民間の人や団体がいれば連携していく必要がありますし、いい公共サービスのモデルがあれば採用したいんです」
「待機児童の問題では、NPO法人フローレンスさんが始めた小規模保育が全国に広がりました。地域の住民が学校運営などに参加するコミュニティースクールは、東京都三鷹市の学校から始まった活動です。このような新しい公共サービスのモデルをつくることが、NPOの大切な役割のひとつになっていくのではないでしょうか」