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お金と仕事

「山崎50年」が3千万円に 実はオープン、海外オークションの世界

香港のオークション会場の様子©Sotheby's
香港のオークション会場の様子©Sotheby's

目次

 サントリー酒類(現サントリースピリッツ)のシングルモルトウイスキー「山崎50年」に、香港のオークションで1月、3250万円という値段がつきました。2011年の発売当時は150本限定、1本100万円で売られていた品です。売る側が値段を決める一般的な小売りと違い、売る側と欲しい人との間のバランスで決まるオークションの世界ならではです。高額な美術品や宝石が取引され、近寄りがたい存在のオークションの世界について教えてもらうべく、このオークションを主催した「サザビーズ」の日本法人を訪ねました。

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山崎50年
山崎50年 出典: 朝日新聞

出品者と落札者は非公開

 東京・麹町のオフィスで出迎えてくれたのは、平野龍一社長。東洋美術の古美術商の3代目で、その審美眼を買われ、2012年に中国美術のスペシャリスト兼副社長としてサザビーズジャパンに入社し、16年に社長に就任しました。

 平野さんによると、「山崎50年」を誰が出品し、誰が買ったのかは、残念ながら非公開とのこと。ただ意外なことに、売買には特別な資格は必要ないそうです。ネットオークションとの違いなどについて、話を聞きました。

サザビーズジャパンの平野龍一社長
サザビーズジャパンの平野龍一社長

50万円くらいの品から取引

 ――オークションというととても近寄りがたいイメージがあったのですが、実際は「誰でも参加できる」そうですね。

 身分証明書の提出や銀行残高の確認などはありますが、登録さえすれば、よほどのことがない限り、誰でも入札に参加できます。基本的にはネットのオークションと同じ。我々はあくまでプラットホームです。今はロンドンやニューヨーク、パリ、香港など世界9カ所でオークションが開かれています。ネットや電話で参加することもできます。

 一番安い品だと50万円くらいから。場合によっては、小売りで買うよりお得な場合もあります。

 ――日本では開催していないんですか

 今はやっていません。香港のように、顧客が多いと見こまれれば開催される可能性もありますが、取引はどこのオークションも基本的に英語。それが一番の障壁かもしれません。日本法人ではその代理業務をやっていますので、日本語で全ての手続きができます。

ネットとの違い、「スペシャリスト」の存在

 ――ネットでのオークションが急成長していますが、影響はありますか。

 日本ではそうでもありませんが、世界的には美術品などの市場は非常に活況で、単体の価格はバブル期と比べても、全体的に格段に上がっています。海外では、昔から絵画を金融資産の一つとしてみなしており、美術品愛好家以外でも買い求める方が増えていることも要因の一つです。

 個人的には、ネットでオークションというシステムになじむ人が増えることは、オークションを知ってもらうという意味でプラスだと思います。日本では、美術品にしても、画廊などの小売りが主流で売る側が値段を付ける。一般の人が自分で値段を付けるオークションの仕組みが浸透すればいいなと思っています。

 ――ネットと違う点は何ですか。

 一番は、スペシャリストといわれる専門家の存在。私自身は中国美術を専門としていますが、サザビーズでは、印象派・近代、現代美術、時計、宝石など70の分野に分かれています。一つの分野につき、多くても世界で十数人しかおらず、膨大な知識を持っていて、引退後に有名大学の教授になった人もいます。

 例えば、絵画なら、画家に関する知識や時代背景はもちろん、誰が保有していたか、今の市場での価格など最先端の情報にも精通していて、どんな作品を集めたらいいかなどの助言もしています。科学的に分析する機関もあり、X線撮影することもあります。高額商品を買う際には安心感がありますし、自分でそろえるより、いいコレクションができると思います。

 作品の査定には様々な能力が発揮されます。例えば、銀食器なら幼少期から日常の中で使っていて、なめるだけで質の違いがわかったり、時計の音を聞いて「あと1カ月くらいで止まる」と宣言したと思ったら、本当に止まったり。ある時、楽譜の専門家がじーっと楽譜を見つめていたので、何をしているのか聞いたら、「頭の中で18世紀のオーケストラを演奏している」と。驚きました。

香港のオークション会場の様子©Sotheby's
香港のオークション会場の様子©Sotheby's

「こんなに高くなるのか」と驚くことも

 ――オークションカタログに載っている落札予想価格から大きく予想が外れることもあるんですよね。

 そこがオークションの面白さでもあります。どうしてもほしい人が少なくとも2人いれば、価格は上がっていきます。例えば、偶然に「しし年」生まれの人がオークション会場に2人居合わせ、出品されたイノシシの置物を手に入れるために競り合う、なんてこともあるわけです。それは査定の価値とは全く違うもの。個人的には、「こんなに高くなるのか」と驚くこともあります。

 ――オークション会場は、誰でも入れるそうですね。日程さえ合えば、観光の一貫として入ることもできるのですね。

 そうです。しかも、オークション前の下見会では現物を見たり、触ったりすることもできるし、宝石なら身につけてみることもできるんですよ。あと、世界中から専門家が集うので、貴重な情報交換の場でもあります。美術品に興味がある方にとっては、勉強するにはもってこいの場です。

 何より、あの熱気は独特。一度体験したら忘れられません。ぜひ、一度味わってほしいですね。

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