連載
#21 平成家族
「やっぱりお母さんの世界か」 イクメンだから感じる違和感、でも…
「イクメン」という言葉が浸透した平成の子育て、父親も「保活」するという話をよく聞きます。時に「蚊帳の外」の扱いを受けることもありますが、育児の世界にどっぷりはまってみると、そこには男も女もない子育ての大変さがありました。それを分かち合ったゆえに築かれる夫婦の関係性もあるようです。(朝日新聞東京総局記者・向井宏樹)
ある日、電通のコピーライター、魚返洋平さん(37)の元に1通のメールが届いた。差出人は入園の問い合わせをしていた保育園。園側とのやりとりは魚返さんがずっと担当してきたが、文頭の宛名はなぜか妻の名前だった。
「保育園ですら、保活は母親がするものという先入観があるのでは。保活する父親がいてもおかしくないはずなんですけどね」
魚返さんは昨年7月から6カ月の育休を取得。同じく育休中の妻と一緒に育児をし、昨年6月に生まれた長女を保育園に通わせるため、保活した。
住まいは都内でも待機児童数が多い激戦区。保活を成功させるため、計20カ所の園を見学して回ったが、「育休中じゃなければ到底回りきれなかった」。
いざ入園申請。魚返さんは「実際に足を運んでいなかったら、選べなかった。保活する男性はまだ少なく、入れればどこでもいいと思ったり、保活を妻任せにしたりする家庭は多いかも」と振り返る。
建設会社に勤めるパパ(41)は3人の子どもの保活に積極的に携わり、現在2人を保育園に通わせている。保活経験が豊かな分、疎外感を感じる場面にも何度か出くわしてきた。
「お母さんたち、いいですか?」
入園式などでも園側が呼びかける相手はいつも母親たち。「仕事の調整を付けて参加したのに、やっぱりお母さんの世界かという寂しさはある」。男性の姿が少ないがゆえに、こうした状況が生まれるのは分かっている。ただ、それを言い訳に父親たちがより育児から遠ざかってしまうのではと懸念している。
とはいえ、このパパも最初からイクメンではなかった。第1子の保活が無事に終わり、2カ月後に妻が育休から復帰するタイミングで衝突が起きた。
仕事柄、会食の機会が多く、その日も何げなく夜の予定を伝えた。すると妻から「待った」がかかった。「このままだと安心して復職できないよ。いまのあなたは戦力外です」
妻にすれば帰宅時間がまちまちな夫を育児や家事の要員としてはカウントできない。ならば仕事に専念する、という男性も多いかもしれないが、このパパは違った。20年近く野球にのめり込んだ経験から「子育てでベンチ入りもできないなんていやだ」。
まず、子どものお迎え当番を名乗り出た。会社から自宅近くの保育園まで2時間ほど。お迎えの時間にあわせて早めに帰宅する代わりに、朝4時半に起きて始発で出社する生活を6年間続けた。
「きょうは早く帰ってきて欲しい」「育休をとって欲しい」――。女性側のお願いに「仕事があるから無理だと条件反射してしまう気持ちは分かる」と理解を示す。ただ、男性が変わらなければ、あきらめてしまう女性も多く「逆の立場だったら自分も協力してと思うはずだ」。
結局、このパパが6年間で飲み会に行ったのは幹事役を任された1回きり。その分、家族との時間を大切にした。「できた!」。子どもたちが昨日までできなかったことを乗り越えた瞬間にも立ち合えた。時短勤務で子育てしていた妻が昇進したときには、思わずうれし涙がこぼれた。
「自分の中に見えないお化けをつくらないで欲しい」とこのパパは思う。育休取得を相談したら上司ににらまれないか、早く帰りたいと持ちかけたら出世に響かないか――。未知なる〝お化け〟のような存在と戦わなくても、「上司や会社に聞いてみたらすんなり通るかもしれません」。
育児と仕事の両立は確かに大変かも知れない。このパパの周りにも育児参加する男性が少なく1人悩んでいたが、SNS上に同じような仲間がいることを知り救われた。このパパは言う。「自分自身に言い訳せず、勇気を出して、一歩踏み出してみませんか」
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取材班は、保活や保育士の仕事についての体験談、ご意見をお待ちしています。メールseikatsu@asahi.comかファクス03・5540・7354、または〒104・8011(住所不要)文化くらし報道部「保育チーム」へぜひお寄せ下さい。
この記事は朝日新聞社とYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。家族のあり方が多様に広がる中、新しい価値観と古い制度の狭間にある「平成家族」。今回は「保活」をテーマに、その現実を描きます。
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