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ユニセフ異例の「白紙声明」 発案者が語った「率直すぎる本音」

ユニセフが出した「白紙声明」。10行分ほど、真っ白な空間が埋まっている
ユニセフが出した「白紙声明」。10行分ほど、真っ白な空間が埋まっている 出典: ユニセフ

目次

 市民に死傷者が出続けているシリアの内戦に対して、国連児童基金(UNICEF、ユニセフ)が出した声明が、話題を呼んでいます。その内容はなんと「白紙」。思い切った内容で世界中のメディアに報じられました。一体どんな意味を込めたのか、発案した担当者に直接聞いてみました。(朝日新聞国際報道部記者・軽部理人)

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「怒りを表現する言葉、もうない」

 ユニセフは子どもたちのために水や食料、薬などを届けたり、暴力や虐待から子どもたちを守ったりする活動を世界中でしている国連機関です。

 ヨルダンにある中東・北アフリカ地域事務所のヘルト・カッペラエレ代表名で2月20日、ある1通の声明を発表しました。シリアの首都ダマスカス近郊にある東グータ地区での空爆が激化していることに伴い、大勢の市民が殺されていることを受けたものです。声明は「殺害された子どもたち、その母、父、最愛の人々のことを正しく表現する言葉はない」と冒頭にあり、そのあとは真っ白な空白が10行分ほど続きます。

 最後には読み手向けの注釈があり、「ユニセフは白紙の声明を発表した。子どもたちの苦しみと我々の怒りを表現する言葉はもうない」との怒りを表明。名指しは避けているものの、現在も空爆を続けるシリアのアサド政権側への強い批判になっています。

シリア・東グータ地区で、空爆によってけがをした子どもを抱える男性=2月7日、ロイター
シリア・東グータ地区で、空爆によってけがをした子どもを抱える男性=2月7日、ロイター

 「シリアには正義がありません。何も機能していません。たくさんの人々、特に子どもが大勢亡くなっている現状に対し、それを非難する言葉を我々は出し尽くしてしまいました。だからこそ今回は、声明を『白紙』としたのです」

 今回の「白紙声明」を起案した一人、ユニセフ中東・北アフリカ地域事務所の広報責任者ジュリエッタ・トウマさん(37)は、時折ため息をつけながらそう話しました。

 シリアでの内戦が激化した2013年以降、ユニセフは150以上のプレスリリースを出してきたそうです。紙だけでなく、時には動画だったり、子どもたちの音声を公開したり……。

 ですが、目に見えて大きな効果はありません。ないどころか、被害は日に日に悪化しています。


 国際電話での取材だったため、ジュリエッタさんがどのような表情を浮かべていたかは分かりません。でも、その声のトーンからは、疲れと憤りがありありと感じられました。

 特に印象深かったのが、「言葉を出し尽くした」と述べていたこと。英語では "run out of"と述べており、「使い果たす」などの意があります。どれだけの言葉を発し続けても、暴力の連鎖が止まらないことに嘆いた果ての "run out of"だと想像します。

1週間で127人の子どもが死亡

シリア・東グータ地区で、けがをした男の子を抱える男性=2月21日、ロイター
シリア・東グータ地区で、けがをした男の子を抱える男性=2月21日、ロイター

 2011年に内戦が勃発したシリアでは、現在までに30万人以上人が死亡し、難民は500万人を越えています。アサド政権軍と反体制派、クルド系部隊などが入り交じり、悲劇を生み続けています。

 今年に入ってからは、東グータ地区での空爆が止まりません。同地区は反体制派が支配していて、アサド政権軍側が4年間にわたって包囲しています。

 反体制派の在英NGO「シリア人権監視団」によると、2月の18日から25日にかけて、空爆によって519人の市民が死亡。そのうちの127人が子ども、75人が女性でした。けが人は2541人ですが、同地区では医薬品も不足しており、医療体制は崩壊状態にあります。24日には国連安全保障理事会で、シリア全域での停戦決議が採択されましたが、同地区では25日にも空爆が続き、停戦実現への見通しが不透明な情勢です。

「勝者なんていない、全員が敗者」

アサド政権軍側が包囲して荒廃する前の、シリア・東グータ地区の様子=2012年11月、ロイター
アサド政権軍側が包囲して荒廃する前の、シリア・東グータ地区の様子=2012年11月、ロイター

 ジュリエッタさんは、電話でこうも述べました。「勝者なんていません。アサド政権も反体制派も、亡くなった兵士も住人も子どもも、みなが敗者なのです」

 白紙の声明はジュリエッタさんにとって、何年も頭の中に描いていた構想だったとのこと。

 「なぜ子どもたちは殺されなければいけないのか。彼らが何をしたのか。子どもたちの明るい未来作りに、大人たちは責任を持っています。子どもたちの笑顔を取り戻さなければいけません。これ以上新たな声明を出したくはありません」

シリア・東グータ地区での惨状について、ユニセフが今回出した「白紙声明」(左)と、2月8日に出した声明
シリア・東グータ地区での惨状について、ユニセフが今回出した「白紙声明」(左)と、2月8日に出した声明 出典:ユニセフ

 今回の「白紙声明」がどのぐらいの効果を生むか、もちろんジュリエッタさんにも分かりません。ですが、今回の声明に内戦の当事者たちが心を新たにして、協議のテーブルに着くよう願っていると言います。

 ジュリエッタさんは最後に、力を込めてこう述べました。

 "Enough is enough(もうたくさんだ)"

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