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こういう本屋が増えて欲しい… 文庫の棚「お客さま目線」でひと工夫
書店の文庫本コーナーの「ある工夫」がネット上で注目を集めています。
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書店の文庫本コーナーの「ある工夫」がネット上で注目を集めています。
【ネットの話題、ファクトチェック】
書店の文庫本コーナーの「ある工夫」が注目を集めています。著者名の五十音順の仕切りを、横からではなく正面から見えるように設置しているのです。ちょっとした変更ですが「これぞお客さま目線」「こういう本屋が増えて欲しい」と話題になっています。手がけたのは「仕掛け番長」と呼ばれる名物書店員。ポップ作りや陳列だけでなく、復刊から原案まで手がける彼に詳しく話を聞きました。
今月13日、こんな文言とともに、文庫本の書棚を写した画像がツイッター投稿されました。
売り場を理解すると仕切りって横向かんと読めないからお客さんいちいち横向いて確認してる事とか気付く。
— 仕掛け番長 栗俣力也 (@maron_rikiya) 2018年2月13日
だから仕切りを真っ直ぐからも見れる様に作り変えた。これだけで差しの売り上げ上がったんだよね。 pic.twitter.com/8G5B6y10Ts
文庫本の棚は、著者名ごとに「あいうえお順」で並んでいることがほとんど。本と本の間に「あ」などと仕切りが挟み込まれています。
これだと、横から棚を見たときは区切りがわかりやすいものの、いざ棚を正面にすると横を向くことになります。
このツイートに対して、「これほんま有り難いです」「こういう本屋さん、増えて欲しい」「教科書に載っていいくらいのお客さま目線」といったコメントが寄せられ、リツイート・いいねともに3千を超えています。
画像を投稿したのは、TSUTAYA三軒茶屋店の栗俣力也さん(34)です。
「この画像は、私が有楽町の店で働いていた時に手がけたもので、もう7~8年ほど前になります。もちろん三軒茶屋でもやっています」
検索ではネットには勝てない。でもネットが嫌いな人、使えない人もいる。そんな中で「いい売り場とは何か」を考えたという栗俣さん。
1週間かけてお客さんの行動を観察。そんな中で気づいたのが、文庫コーナーで首を横にしながら仕切りを探している人の姿でした。
「正面から見えるようにするだけでなく、見やすい色や、文字の大きさにもこだわりました。また、文庫も出版社ごとに分けるのではなく、全部一緒にして並べています。文庫は出版社ではなく作者で探す人が多いですから」
書店としては出版社ごとに分けた方が管理が楽ですが、買う側のニーズに合わせて並び替えたそうです。
デザイン専門学校を卒業後、SEGAに入社。UFOキャッチャーの設置場所や設定などについて考え抜いたことが、今に生きているといいます。
「どんな景品を置くか、フロアのどこに置くか。どの台の設定を取りやすくすれば、全体として取りやすいお店という印象を持ってもらえるか。とても勉強になりました」
子育ての時間を確保するためにSEGAを退社し、アルバイトとして「TSUTAYA BOOKSTORE 有楽町マルイ」で働くことに。そこで本の担当を任されました。
「もともと本が好きでしたし、有楽町は女性のお客様が9割と、ちょっと変わったお店だったので、いろいろな発見がありました」
テナントとして入っている店舗で、周りには服を売っているお店ばかり。服を売る場合は、売りたいものは目線に近い位置に置かれますが、書店では売りたい本は「平積み」といって下から積み上げます。
「有楽町では高い目線の位置に置かれた本がよく売れたんです。他のお店を回ってきた目線のままだからということなんだと思います」
他にも気づいたことが「表紙を見せた状態で何冊並べると売れ行きが伸びるか」。1冊ずつ増やして試したところ、6冊を超えると急にお客の足が止まり、売り上げがアップするということでした。
「これに関しては、文庫や漫画といった区別なくそうでした。はっきりとした理由はわかりませんが、有楽町に限らず他のお店でも有効でした」
2013年に社員になった栗俣さん。こうした店頭での工夫だけでなく、絶版本を復刊したり、原案から協力したりで、書籍関係者からは「仕掛け番長」と呼ばれています。
絶版となっていた「人喰いの時代」という本。栗俣さんは「今の時代が求める内容。売れる」と版元に働きかけて、リニューアルして復刊。当初2000冊でスタートしましたが、順調に売れて3カ月で4万部を突破したそうです。
昨年12月に発売された小説「たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に」(著者・佐藤青南さん)では原案を担当。
「書店の意見を企画段階から取り入れた作品を書いてもらえませんか?」と佐藤さんに依頼して書籍化しました。
そんな栗俣さんが考える書店員とは「一番お客に近い業界関係者」です。
「完璧すぎる作品って売れないんです。僕ら書店員の仕事は、完璧なものを作った作者と、実際にそれを手に取る読者の間に入って、その距離を埋めることです」
この考え方を「スナック理論」と名付けた栗俣さん。
「スナック菓子ではなく、飲み屋のスナックです。サービスを提供する側とされる側が一緒になって楽しむところが似ていると思うんです。これが今、書店員に求められているかたちなんじゃないでしょうか」
若い人たちからは、「やりたいことが見つからない」「書店員になってもその先の目標がない」といった声を聞くことがあるそうです。
「店頭で本を勧めるだけでなく、もっといろんなことができる。僕がやってることを見て、そう思ってもらえたらうれしいです。近いうちに、また楽しいことを企画しているので、気にしておいてください」
◇ ◇ ◇
3月には、江國香織さんの既刊「ウエハースの椅子」を栗俣さんがプロデュースして売り出します。装丁を一新して、帯コピーには「今だからこそ響くこの作品のポイント」を栗俣さんが考えたそうです。
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