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「新曲ランキング」って必要? オリコン改革が突きつけた「現実」
CDランキングで知られるオリコンが、ダウンロードやストリーミング再生回数などを合算した複合ランキングの新設を検討していることがわかりました。アイドルの特典商法などの影響で、CDランキングのみで流行を追えない現状が背景にあるようです。専門家は、新しい音楽の楽しみ方がチャートそのものの存在意義をぐらつかせている、と指摘します。音楽と社会の関係に詳しい武蔵大学の南田勝也教授(社会学)に話を聞きました。
――オリコンがランキング改革を進めているという報道を受け、改めて音楽チャートに関心が集まっています
「様々な文化ジャンルの中で、チャートのことを気にするのは音楽ぐらいですよね。毎週どころかデイリーチャートまで発表しているわけです」
「歴史的に、音楽チャートは音楽シーンの伝説作りに重要な役割を果たしてきました。例えば、米国に上陸したビートルズが、1964年4月4日のビルボードのシングルチャートで1位から5位を独占し、全米に衝撃を与えました」
「また、フォーク歌手だったボブ・ディランが、エレキギターを手にしてロックに転向した際に、そのことを象徴する曲『LIKE A ROLLING STONE』がビルボードチャートで2位を記録しました。フォークファンからは裏切り者扱いされましたが、大衆は支持するという、いわばロック転向のお墨付きをチャートが与えたのです」
「英国だと、90年代のブリットポップ全盛時代、オアシスVSブラーの対決がクローズアップされました。95年8月に、両者が同じ日にシングルを発表することになり、『どっちがチャート上で勝つ?』とBBCも含めたメディアが、注目したわけです」
――ポピュラー音楽の歴史にチャートあり、ですね
「私が高校生だった1980年代、FM情報誌が複数発行されていました。『FM fan』にはビルボードチャートが、『FM STATION』にはキャッシュボックスのチャートが載っていた。私は、『FM STATION』派だったのですが、その雑誌を買って、毎号のチャートの折れ線グラフをノートに作っていました。自分の好きなミュージシャンのチャートの浮沈具合を追っていた。そんな人は結構いたと思う」
「チャートというのはその時々の売り上げを示す以外に、複合的な楽しみを音楽ファンに与えていたと思う。自分の好きなミュージシャンがチャートを上昇していくのは嬉しい……。そんな感覚を与えてくれた」
――音楽以外はチャートとは無縁ですか?
「もちろん、小説などの出版物でも、大手の本屋さんに行くと『今週の売り上げベスト10』みたいなものがディスプレイされています。けれども、買う側はそこまで気にしません」
「人は好きなものがあったら、その好きなものを楽しむことが全てであって、それが『どれぐらい売り上げた』『何位に入ったか』というのは普通気にならないはずです。ところが、音楽に限っては、『今週いくら売れて、何位に入った』かが話題になる」
――なぜチャートは音楽とこれほどまでに親和性があるのでしょうか
「米国では戦後まもなく、芸術・芸能の文化作品が、商業主義、コマーシャリズムに包摂される形で流通していったわけですが、とりわけポピュラー音楽は、即時性の高い文化ジャンルでした」
「本は買って読むまで時間がかかる。映画はわざわざ映画館まで足を運んで見ないといけない。でも音楽は、何よりもまずラジオを通してタイムリーに受容できた。それはチャートと相性がいい。今週のトップ10みたいなチャートは、ラジオがチャート会社からの提供を受けて放送していて、それが人気番組になっていた。大衆社会に素早く浸透する回路を持っていたのです」
――そんな音楽チャートが、ここ10年、日本では機能しづらくなっている
「いい曲が売れてそれがチャートに反映される。そうした構図が、健全に成り立っていた時代はよかったが、今はシステム的に動脈硬化を起こしていますよね」
「日本では、アイドルなどの特典商法で、一人の消費者に複数枚買わせる行為が定着した結果、チャートの操作が容易になった。特典をつけることは、『モノ』が売れない現代においてアーティストの人気を保つために必要不可欠な販売手法」
「音楽プロデューサーの秋元康さんあたりは、その点を自覚しつつやっているのでしょう。でも、それはチャートの信頼性をそぎ落としていきましたよね」
――だからこそ、チャートを複合化して、時代にあった流行を示す指標を作らなくてはいけないわけですね
「確かに、近年は、YouTubeやサブスクリプションサービス(定額制音楽配信サービス)が普及し、CD以外の音楽の楽しみ方が出てきました」
「それとともに、音楽の聴き手は、ランキングを気にするより、それぞれの音楽サービスの検索欄に、自分の聴きたいor見たいアーティスト名や曲名を入力して作品を探す。さらにそうしたリスナー同士の聴取履歴が積み重なり、巨大データベースが構築され、個々人に合った曲をお薦めできる時代にもなった」
「自分の嗜好にあう音楽に直接アクセスできる時代の到来。相対的にチャートそのものの影響力が弱まっているのではないか」
――チャート自体、早晩、機能不全に陥る?
「ただし、影響力は弱まったと言いましたが、今の時代でも、若い人は気にしているんだと思う」
「2016年に音楽が好きな人を対象に調査をしたのですが、『チャートの順位を頼りに音楽を聴くことがある』という問いに肯定回答した10代は5割を超えていたのです」
「私のゼミに進むような学生の場合、Jポップと距離を置いて、『私、変わったものを聴いています』という子は結構いますけど、その『変わったものを聴いている』とか『自分はマイナーな音楽が好き』と判断できるというのは、メジャーなものの存在を知っているからですよね。その判断の指標として、チャートというのは依然、大きな影響を持っている」
――私なんかは、チャートをもう見なくなりましたが……
「年齢が上に行くと、聴く音楽が固まってくるからヒットチャートは気にしなくなる。正直、歳を取ると、どうでもよくなるんですよね。だから、その年代からすれば、『チャートの役割は終わった』と切り捨てようとするけれど、今の時代でも、若い人は気にしているんだと思う」
――ただ、チャートだけでは、世間一般を示す指針としての力は徐々に弱まっているわけですね
「だから私は、チャートとは別にアワードを設けるべきだと思う。今も出版社やレコード業界が独自に設けている賞はありますが、もっと威信のある賞を。チャートは売れたものを追認する行為ですが、アワードは認められるものを見いだす力がある。アワードが認めたものが売れる・・・。イメージするのは米国のグラミー賞です」
「人々の道標となるような機能をチャートだけに望むことが難しい時代、やはりそこは目の肥えた人が質の高い音楽を発掘するような作業が、音楽があふれかえる世の中にあって必要なのではないでしょうか」
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