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この黒板、手書きだったの? 下書きなしの職人技、動画投稿続ける訳
ツイッターに投稿された「黒板に文字を書く動画」が注目を集めています。
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ツイッターに投稿された「黒板に文字を書く動画」が注目を集めています。
【ネットの話題、ファクトチェック】
ツイッターに投稿された「黒板に文字を書く動画」が注目を集めています。よく工事現場で見かける黒板に、下書きなしで手書きする様子が映っています。書いたのは、「#今日の一文字」で動画投稿を続けている大阪の看板職人です。「このような業種が残っていることをアピールしていきたい」と話す男性に話を聞きました。
本日のボーナス映像
— サインズシュウ (@signsshu) 2018年2月10日
朝一から黒板書きを二枚程やったので、その模様をタイムラプスで。
シビアな物件ではないので、殴り書きですが、スピード感みたいなものは伝わるかと思います。
後半、老眼鏡をかけた白髪頭が映り込みます。申し訳ございません。
このように小さな文字は、手を付いて書きます。 pic.twitter.com/WQ6Rc1oaff
「シビアな物件ではないので、殴り書きですが、スピード感みたいなものは伝わるかと思います」
今月10日、そんな文言とともに動画がツイッター投稿されました。
工事現場で見かける看板に「町道高田桜谷線 道路法面修繕工事」と文字を書いていく様子が映っています。
下書きなしで、手書きするこの動画に対して、「職人芸」「見てるだけで惚れ惚れする技量」といったコメントが寄せられ、リツイートは6万、いいねは14万を超えています。
本日も朝から炎上の予感です。
— サインズシュウ (@signsshu) 2018年2月10日
チョークで雑に割り付けしただけなので、文字の大きさにバラツキがあったりと、かなり大雑把な仕上がりですが、こんな事ならもっと丁寧に書いておけば良かった。
いいね も有難いのですが、大拡散を目的としてますので、出来れば リツイート・フォローをお願いします。 pic.twitter.com/YB76Xidv4r
書いたのは、大阪府貝塚市にある看板屋「サインズシュウ」の代表・上林修さん(51)です。
上林さんはツイッター(@signsshu)で連日、「#今日の一文字」とハッシュタグを付けて動画を投稿しています。
今回の動画を投稿した経緯や、手書きにこだわる理由について話を聞きました。
――話題になっている動画は、下書きなしで書いたのでしょうか
レイアウト線だけで下書きは無しです。もちろん、お手本も存在しません。若い頃、いろんな活字書体を見本にして型をとり、それをなぞりながら書いていたので、頭にある程度入っています。
――あの動画の注目点は
向かいの建築屋のオッチャンが「ついでに、これ書いといて」と持ってきた黒板なので、ものすごく粗い仕上げではありますが、線の太さや文字の並びが「ある程度」均一化されていて読みやすいところと、ぱっと見、印刷物に見えるところです。あと、下書き無しで印刷のような文字を書くところです。
――フォントの使い分けなどは
あまり時間をかけられない仕事は、楷書か丸ゴシックで仕上げます。今回は楷書の横書きは変になりやすいので、丸ゴシックにしました。看板のデザインによっては、どんな書体でも書きます。
――上林さんの経歴を教えてください
20歳の時に舞台の大道具係として働いていたのですが、そこに時々仕事にやってくる「文字書き職人」がいて、「これの方がやりたい」と強烈に感じて、地元周辺で探しました。
看板屋などという職業を知らなかったし、見かけたこともなかったので、電話帳の広告欄で「文字書き」という項目が入っている店を見つけて押しかけ、「給料はいらない」と言って働きにいきました。
結局、給料は出ましたが、バブル全盛期の中、月収8万円でした。でも、実に良く働いたので、すぐに上げてくれました。4年くらい働くと半分は自分の仕事も取ってくるようになり、30歳前には完全に独立しました。
――看板を書く上でのこだわりは
日本に「看板文字書きができる」という人は結構いるようですが、ほとんどはPCフォントを原寸原稿として出して、それを元に型をとってなぞる、というような人ばかりです。
ダイレクトに文字を書く人も存在するようですが、おそらく自分は「丸ゴシック体」を書く正確さ・速さはトップクラスだと思います。
普通の看板屋として、PCを使ったいろんな作業を主としてますが、数年後に必ず塗り替えが必要になる外壁やシャッター・鉄扉など「ここ」という箇所には、手書きで対応するようにしています。新しい技術も、古い技術も、どちらにも普通に対応できる看板屋です。
――手書きにこだわる理由を教えてください
手書きで仕上げた方が良い箇所という物があります。そういった箇所に柔軟に対応できる技術として価値があります。
でも、そういう箇所にも、PCで作成した原寸原稿を作成してきて、それを元に型を取ってなぞり、手書きの文字をうたっている看板屋も多く存在します。
しかし、原寸を用意してきた現場の場合、現地で変更などあった場合に全く柔軟に対応できませんし、手書き文字のぬくもりは出ません。そのあたりを理解してもらえるよう、色んなところでアピールをしています。
――普段はどんな看板を書くことが多いのでしょうか
どんなものにでも書きます。店の看板など表示類全般です。変わった箇所では、プールサイドの水深表示や、飛び込み台の番号なども書きました。
――話題になったことについては
私はブログやYouTube、Facebookなどで、ずっと前からアピールをしてきました。ユーチューバーが人気になる中、なぜ、こんな面白い作業動画が話題にならないのかが、逆に不思議でした。
4年ほど前に、世界を股に活躍しているフォントディレクターにブログを見て頂いて取材を受けてから、本には載るわ、実演・講演で東京や台湾に連れていってもらうわで、少しその筋の人たちには有名になってきていたところです。
でも私自身が修行時代に、先輩たちが書くのを間近で見た時の感動が伝わっているようには思えませんでした。今回のTwitterでの反響は、全く違う業種や年代の人たちにまで伝わり、素直な感想を聞かせてもらえたので、良かったです。
Twitterへのコメントでもありましたが、「そんなものは全てPCでできてしまうのだから必要ない」という考え方を持つ人たちもいます。その品物にかけられる時間などを考えると、PCの方が適している物もあるのは同感です。
でも、今回のやつなら、私が書いた方が早いでしょうし、はがれたりする心配も全くありません。手書きの方が勝っていることも多いのです。PCで作成して、それを貼った動画を流しても、誰も反応してくれないでしょう。
昭和情緒を残したい街並みや温泉街、またはローカル線の駅標など、PCでデザインをやりきれない物があります。そういう仕事が転がり込んで来ないかな?と考えています。
私はまだまだ、色んな箇所に需要があると信じておりますので、こうやって動画を発信して、このような業種が残っていることをアピールしていきます。