連載
#3 教えて!マニアさん
「ファンシー絵みやげ」記憶から消された文化遺産 9000種集めた男
「ファンシー絵みやげ」、それは1980年代~1990年代に全国のお土産屋さんで売られていた「ファンシーな絵が施されたおみやげ」です。ピンと来ていない人もいるかもしれませんが、写真を見ればきっと思い出すでしょう。


2010年から「ファンシー絵みやげ」の保護・研究を続けている「ファンシー絵みやげ研究家」。全国3,000店のお土産店を訪ね、9,000種ものファンシー絵みやげを保護。
2月17日には、ファンシー絵みやげを文化的背景からまとめた「ファンシー絵みやげ大百科 忘れられたバブル時代の観光地みやげ」(イースト・プレス)が発売される。
「ファンシー絵みやげ」って?
(1) 「MORI NO NAKAMA」のように、ローマ字を使った日本語表現を使用している(とっても読みづらい)
(2) 動物は擬人化され、2頭身の子どもっぽい雰囲気のキャラクターイラストが使用されている(威厳のあるイメージの歴史上の人物も否応なく子どもっぽくされる)
特にカップルにも見える男女のシチュエーションが多く、ほっぺたを「、、、」の表現で赤らめた姿が印象的。
他にも蛍光色などを採り入れた派手な色使いや、キーホルダーをはじめ、のれんや陶磁器、文房具など、とにかく多様に商品展開されていることも特徴です。

私は山下さんの本を手に取ったとたん、修学旅行で行った京都の出店や、スキー場の売店、当時好きだった男の子や、かっこいいと思って着ていたエンジ色のジャージのことまで、コクのある思い出が次々と蘇りました。

「ファンシー絵みやげ」の盛衰
擬人化された2頭身の愛らしいイラストが人気を博し、このフォーマットは好景気でにぎわった観光地のお土産需要の波に乗りました。その後、スキーブームや、ラッコブームなどの流行をイラストに採り入れながら全国に広がっていくことになります。
ただ、「ファンシー絵みやげ」の時代は長くは続きません。

気づくと「ファンシー絵みやげ」は観光地から姿を消し、「ご当地キティ」をはじめ、「ご当地○○」勢力の登場もあいまって、人々の記憶からも消し去られていました。

検索しようと思っても「キーワードが思いつかない」
山下さんが「ファンシー絵みやげ」を集め始めたのは、2010年。フリーマーケットで目を奪われたのは、小学生の頃になじみのあった、懐かしい絵柄のキーホルダーでした。
「こんなの昔たくさんあったなあ」
家に帰って検索しようと思っても、キーワードが思いつきませんでした。「ファンシー おみやげ」、「サンリオっぽい おみやげ」…。いろいろ試してみましたが、あらゆる情報が蓄積していたネット上でも、ほとんど語られていなかったのです。

「昔はたくさんあったのに、人の記憶から消えてしまうものってあるんだ、って」
そんな名もなきお土産たちに、山下さんは「ファンシー絵みやげ」という名前をつけました。家や店で邪魔な存在となって、捨てられゆく「遺産」を守るため、山下さんの「保護」活動は始まりました。
7年間かけて集めた「ファンシー絵みやげ」の数は、およそ9,000種。訪問した山下さんの自宅の壁には、無数のキーホルダーが飾られていました。

たたみかけてくるメッセージはどこへ向かうの?

その下に小さめの文字で書かれたメッセージに、何かヒントがあると思いきや……。

(僕たち 森 の 仲間 なんだ)
そして、男の子(けんた、と表記されています)のキャップのつばの裏には……。

以上から状況をまとめてみました。
みよに想いを寄せるけんた…けんたとみよは森の仲間だけど、けんたは男、そう、2人は「あこがれ共同体」。
すみません、お客様の中に名探偵かファンシー絵みやげ研究家はいませんか?

ちなみにこの「AKOGARE KYODOTAI」シリーズは、成田山だけではなく、中国地方でも販売されていたそうです。
ローマ字日本語…と思いきや
野口
山下さん
だいたい「つぶやき」なんです
野口
山下さん
これは「僕たち森の仲間なんだ」っていうツイートなんです


「ファンシー絵みやげ」にはこういったサプライズがちりばめられているので、目が離せません。
ちなみに私は英語についてはめっぽう弱いので、Google翻訳先生に聞いてみました。


山下さんが特に好奇心をかき立てられたというのが、「見ざる・言わざる・聞かざる」でおなじみ、三猿が描かれた日光のキーホルダーです。


NAZE KONNNAKOTO SHITENAKYA IKENAINO -----? 】
( 僕たち 猿 です。
何故 こんなこと してなきゃ いけないのーーー? )
山下さん
山下さん
とにかくアルファベットを並べるという意図だったため、「そんなに伝えたいメッセージもなかったんじゃないか」と山下さんは分析します。当時は「出せば売れる」状態でたくさんの商品が作られていたため、誤字脱字のある商品も少なくないのだとか。
流行は繰り返す、でも「ファンシー絵みやげ」は?
野口
山下さん
ファンシー絵みやげのキーホルダーの販売額は、400円~500円程度。この価格を実現したのは、大量生産でした。当時は何千個、何万個という数をつくっても、需要があったのです。
「日本がバブルほどの熱狂に包まれることはもうないのでは」と山下さんは語ります。

「最初はライフワークとしてゆっくり楽しめばいいかなと思っていたんですが、お土産屋さんの高齢化などで閉店していくスピードに追い付かなくなって、急いで集めてきました。
ひとつの流行が消えるっていうのは当然あることですけど、名前もない、資料もない、思い出す機会もないと完全になかったものになってしまうんです。
今回のように本を出版したり、展示したりして、人々に語られる存在になればと思っています」
バブル景気真っ只中の日本を吸い込んで消えた「ファンシー絵みやげ」。もしかしたら、みなさんの実家や、親戚の家でも、ひっそりと見つけられる日を待っているかもしれません。
