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日本発の「旅かえる」、中国で大ヒット 草食系ならぬ「仏系」に人気
日本企業が開発したスマートフォンアプリ「旅かえる」が中国で異例の大ヒットをしています。中国語で「旅行青蛙(リュイシンチンワー)」)と呼ばれるこのゲームは、激しいバトルや競争などが一切存在せず、旅立ったカエルが帰るのをひたすら待つというおだやかなストーリーが特徴。この世界観が1990年以降に生まれた若者を指す「90後」を中心にヒットしていて、調べてみると背景には、日本の草食系に似た「仏系」という現象が関係していました。
中国で流行っている「仏系」という言葉は、基本的に「欲が少ないこと」や「淡泊」という意味です。周りのことについて「どうでもいい、気にしない」と考えたり、無欲無求で淡泊な人生を送ったりする人などを指しています。
「仏系青年」「仏系買い物客」「仏系職員」「仏系ママ」といったように、「仏系○○」という形で昨年末からSNSなどで使われ始めました。人民日報系ニュースサイト「人民網」でも昨年12月18日の記事で、「ネットユーザーが『仏系』を使って、いろんな言葉を作っている」と紹介しています。
「仏系」という言葉の由来は諸説ありますが、有力な説は日本で一時期流行った「仏男子」だそうです。
2014年の人民網では日本の雑誌で取り上げられた「仏男子」のことを紹介し、恋愛は面倒くさい▽気を使いたくない▽彼女なんていらない▽一人が好き▽自分のペースで行動したい…といった特徴を挙げています。これが「仏系」のきっかけの一つと言われています。
再び中国で流行語になった「仏系―」。「旅かえる」も「仏系カエル」と呼ばれてヒットしています。
「旅かえる」は日本企業ヒットポイントが開発したもので、米アップルのアプリ配信プラットフォームの中国版では、日本語バージョンしかないにもかかわらず、1月末時点では無料アプリの人気トップを走り続け、人気指数は大人気ゲーム「王者栄耀」さえ超えているそうです。
「旅かえる」が「仏系カエル」と呼ばれる理由には、以下のようなものがあります。
まずゲームのデザイン自体が非常に「仏系」です。ゲームを始めると、木々の緑が豊かで、池もあり、非常に静かな庭が目の前に広がります。そして石造の部屋の前に、表情が穏やかなカエルが座っているのです。バトルの系のゲームと異なり、落ち着いた雰囲気が漂います。
主役のカエルくんの生活も非常に規則正しく、淡泊そのものです。普段は家のなかで過ごし、本を読んだり、手帳に文章を書いたり、食事をしたり。そして旅の準備が整うと、旅に出て、時々はがきや写真を送ってきます。
ゲームをする人の役割もかなり「仏系」です。これまでの人気ゲームと言えば、プレーヤーが積極的に参加し、難しい設定をクリアしなければならないものでした。しかし「旅かえる」では、できることが限られています。庭先に生えたクローバーを収穫し、通貨としてお店でお弁当と道具を買いそろえ、カエルの旅支度をしてあげるぐらいです。そしてカエルがいつ旅に出るか、いつ帰るか、について全く分からないそうです。
そして、人気の秘密はまさにこの「仏系」に隠されています。実際にプレーした人への取材によると、「毎日費やす時間の短さ」などが、若者への人気の理由だそうです。
1995年生まれの春暉さん(女性、22歳)は、カエルを自分の分身だと感じ、癒やされるそうです。学業や実験で忙しい日常を送る彼女にとって、自由気ままに旅行をするなどマイペースなカエルは「羨ましく思う存在」。
「カエルの『息子』がかわいくてたまらず、母性もかき立てられている」と話すのは同じ「90後」の一粟さん(女性、23歳)。クローバーの収穫だけでなく、課金もして、カエルのためにたくさんのアイテムを買うこともあります。「これまではスマホゲームをやったことがなかったですが、ゲームのためにお金をかけていることは自分も驚きました」。彼女は未婚で一人暮らしですが、旅かえるをプレーすることで、「気軽に擬似家族を持てる点がいい」そうです。
2人はさらに「ゲーム自体は数分ぐらいしかかからない」とし、「手軽さ」も継続の理由だと話します。
「90後」はまだ、10代後半から20代で、独身の人が多いです。「旅かえる」というゲームがヒットする理由には、「家族ができる」「家ができたあたたかさがある」ということも取材を通して分かりました。
そしてもう一つ重要な理由は、無欲無求な「仏系」への共感という点でしょう。「90後」はほとんど「一人っ子世代」のため、小さい時から「よく頑張って」「一位を目指せ」だと言われつつ育ってきました。
しかし、高い理想を持ちながら現実の壁がぶつかると、不安や苦悩も出てきます。それで「高望みはしない」「(失敗も成功も)気にしない」などの心境にチェンジし、心のバランスを保とうとするわけです。
「仏系―」の流行は、激しい競争を勝ち抜かなければならない中国社会の現実に対する一種の反動だと言えましょう。「旅かえる」はシンプルなゲームですが、その「仏系」があるゆえに、中国で大人気を博し、とくに若者の間によく受け入れられているのは、その表れかもしれません。
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