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佐賀・陸自ヘリ墜落、二つの「異常事態」 特殊事情か氷山の一角か
陸上自衛隊のヘリコプターが佐賀県神埼市の住宅地に墜落し、乗員2人が死亡。小学生1人が軽傷を負い、2軒が炎上しました。自衛隊が民間人を巻き込んだ異常な事故です。事態がどれほど深刻で、なぜ徹底的な検証が必要なのかを考えてみます。(朝日新聞専門記者・藤田直央)
墜落したのは世界最強の戦闘ヘリとされるAH64D(アパッチ)。自衛隊では2005年度から導入し、10数機を運用中です。全長18メートル近くでミサイルや機関砲を備え、他の自衛隊ヘリにない威圧感があります。
今回のヘリは2月5日午後4時36分に所属する目達原駐屯地を離陸し、7分後に南西へ6キロの場所で落ちました。
防衛省によると、駐屯地では50時間飛ぶたびに行う定期整備をし、その際に1750時間の飛行ごとに行う「メインローターヘッド」の交換もしました。回転する主翼「メインローター」4枚をつなぐ軸の部分です。ヘリはその後に試験飛行へと離陸し、すぐ落ちたのです。
自衛隊内にも戸惑いが広がる今回の事故の異常さが、この経緯からだけでもわかります。
定期の整備をきちんと受けた直後なら、機体は故障が起きにくい状態になっているはずです。しかも試験飛行で操縦士に過重な任務はなく、安全飛行に支障がないかの確認に専念するはずです。なのにどうして、離陸から数分で墜落したのでしょうか。
事故の異常さは、ヘリが住宅に突っ込んだことにもあらわです。
航空機は飛行中に異常があれば緊急着陸(予防着陸)をすることがあります。ヘリの場合は、一定の広さの平らな場所があればどこへでも着陸できるのが強みです。ただ、その場合も民間人を巻き込む場所を避けるのが基本で、特に国民を守る立場にある自衛隊は強く意識しているはずです。
ところが今回は住宅へ墜落。付近上空からの画像を見ると、そばには田畑が広がっており、そちらへ降りることができなかったのかという疑問もわきます。
ただ、付近では「上空で爆発音がした」「頭から落ちていった」という目撃証言があります。地元の自動車学校の送迎車のドライブレコーダーは、水平に飛んでいたヘリが急に失速して落ちていく映像を捉えていました。
防衛省も機首から落ちたことを認めつつ、ヘリと管制官は離陸から2分後に通常の交信をし、その5分後の墜落までやり取りはなかったとしています。
こうしたことから考えられるのは、今回のヘリは離陸後、墜落直前の5分間に何らかの異常事態が突然起きて操縦不能になったのではないかということです。
小野寺五典防衛相が今回の事故を発生直後は「着陸炎上」と呼んでいたのを、途中から「墜落」という表現に変えたこともそれを裏付けます。操縦不能になり、やむを得ず住宅に落ちてしまったというニュアンスです。
では、その異常事態とは何だったのか。機体の故障か、乗員に何かあったのか、あるいはその両方か。
安倍晋三首相は小野寺防衛相に原因の徹底究明を指示しました。防衛省は航空事故の検証でカギとなるフライトレコーダーを回収し調査にあたりますが、今回はヘリと管制官の間に目立つやり取りがなさそうです。乗員は2人とも亡くなり、機体も大破しており、解明に時間がかかるかもしれません。
そうした中で軽々な推測は避けるべきですが、私には気になっていることがあります。自衛隊では昨年の8月に青森県沖の日本海で海自ヘリが、10月に浜松市沖で空自ヘリが、それぞれ訓練中に墜落する死亡事故を起こしました。それだけでなく、最近沖縄で米軍ヘリの事故が続いていることにも通じる問題です。
それは、現場の隊員は実任務、訓練、休暇をバランスよくこなすことが大切なのに、最近は中国や北朝鮮を警戒する任務が増え、バランスが取りにくくなっているという問題です。そのぶん訓練や休暇が減れば事故が増えかねないということで、日米の防衛当局間の共通認識になっています。
それがどこまで当てはまるのかわかりませんが、今回の異常な事故が特殊事情によるものなのか、それともより大きな問題の氷山の一角なのか、様々な角度からの徹底的な検証が必要でしょう。
自衛隊や米軍のものに限らず、ヘリは日本中を飛び回っています。そして、ついに自衛隊のヘリが住宅に落ちるという、あり得ないことが起きたのですから。
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