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筋金入りのパリピが集う…45年続く舞台「ロッキー・ホラー・ショー」
年末年始、テレビの歌番組に合わせて踊ったのは、私だけでしょうか。その頃、渋谷の交差点では若者たちがハロウィンの時と同じように、踊ったり、騒いでいたりしていたようです。みんな、なぜ踊るのだ?? なぜパリピになるのだ?? 45年続く舞台「ロッキー・ホラー・ショー」には筋金入りのパリピが集います。髪を振り乱し「祭りよ!」。そこにはパリピのルーツを知る手がかりがありました。
昨年末、六本木と池袋で上演された、全世界で45年続いている舞台「ロッキー・ホラーショー」(通称ロッキー)にその答えを見つけました。観客はグレーのスーツや黒のジャケットを着た、いわゆるオフィス街にいそうな会社員たち。でも、舞台が始まると、とんでもない行動に走るのです。
そこで出会った女性はふるさとの祭りとロッキーを重ねていました。
ロッキー・ホラー・ショーは、1973年にロンドンで生まれた舞台です。たった63席の小劇場が初演でした。不思議な世界観に見せられ、翌年にはアメリカでも上演されます。その時のオーディションにはリチャード・ギアやジョン・トラボルタも現れたそうです。75年には日本に上陸し、同時に映画版も完成しました。
45年たった、今でもアメリカでは必ずどこかの街で映画版が上映され、全世界で舞台化されています。
なぜなのか。
特殊なところは、上演、上映中に、かけ声OK、スタンディングOK、歌OK、踊りOKという所です。
日本では5年ぶりの舞台上演となった昨年は11月7日に幕が開けました。開演30分前に行くと、すでにグッズを買い求める行列が……。
開演直前まで、俳優がグッズを売りまくる売り子セブンに扮して「これがなきゃ、楽しめないわよ~」と客席にグッズを売りに来ます。ライブでもないのに? と思いながら席に着くと、周りのグレースーツや黒ジャケット姿の女性たちが、いそいそとグッズを準備しています。20代の若者もちらほら買っていますが、40代以上の女性が率先してグッズに興味を持っているような印象です。制服を着た女の子と母親の親子ペアは、母親が率先して準備していました。
必須グッズは「新聞」「光線銃」「ペンライト」など。
ロッキーのおきまりは、舞台の進行に合わせて、主人公と同じしぐさをすること。例えば、雨に濡れないように俳優が新聞をかぶれば、一緒にグッズの新聞をかぶり、キャラが宇宙へ行こうとするシーンでは、力いっぱいグッズの光線銃を発射する。
まさに、アニメ映画の上映中に観客が、アニメのキャラの恋路を応援したり、しぐさをまねしたりする特別上映「応援上映」さながら。というか、こちらが元祖だそうです。
舞台が始まりました。
物語はごくごくシンプル。山の中で車が故障してしまい、困った新婚夫婦が助けを求めた家がはちゃめちゃ。毎晩開かれるパーティーに参加し、性も人格も解放されるというストーリーです。その家の人々は宇宙人でしたというオチつきです。
観客の半数はおそらくリピーター。グッズを使うタイミングが驚くほど完璧です。前の座席の女性をまねしながら、新聞をかぶったりしながら、何とか参加していた私。
謎の邸宅で開かれるパーティーが舞台で始まります。すると、前に座っていたグレースーツの女性がすくっと立ったのです。丸の内のオフィス街や官庁街を歩いていそうな姿の観客たちが、次々と立ち上がり、髪を振り乱して踊り始めます。誰かに見られているという恥じらいも感じられません。踊りも完コピです。
45歳の加藤春子さんもその一人。舞台後に話を聞かせてもらった第一声は「恍惚」。
加藤さんは、山形県出身。大学入学と共に上京し、東京の企業で働いています。「責任ある仕事もまかされているし、気ままな独身だし、何のストレスもないんだけど、最近、不満なのは、私は祭りが好きなのよ!祭り、少なくなってきてるよね。今の日本。クラブじゃダメなの。期間限定の一体感が欲しい」
小さいときから祭り好きで、神輿を元気に担ぐ女の子だったそうです。受験で忙しくなる高校2年まで近所の祭りに参加するほどでしたが、上京してからは忙しくてほとんど参加できず。
仕事が落ち着いた30代、祭りの時期に帰郷してみると、「子供が減って、祭りが簡素化されててね。ほかの地域の祭りに参加しようにも、地域特有のものという印象があるから、よそ者は参加しにくい。ハロウィンは『おばちゃんなにやってんの?』っみたいな周りの目がある。小さいときから、ヨイショヨイショとお神輿を毎年担いで、騒いで、年に1回はこういう日があるって記憶に植え付けられているのに、大人になると、『はい、常におとなしく、品行方正に』って。日本っぽいけど、なんかな~。いい年の女がはしゃいでいい場所が減っている」と話してくれました。
加藤さんは、ロッキー以外にも音楽ライブにも時々出かけて、『はしゃいでいる』そうです。
「ロッキー・ホラー・ショー」の大ファンであり、翻訳を手がけたライターの高橋ヨシキさんにも話を聞きました。
「今の日本の特殊な事情は、クラブカルチャーが全年齢向けに開放されていないことです。今世紀に入って、1980年代にディスコでブイブイ言わせた世代向けに、当時の再現をやるとみんなやってくる。それなのに、普段はなぜ行かないのかというと、年齢の壁があるかのように感じてしまうからです。明文化されているわけではないけれど、引け目を感じてしまう。年齢ごとにふさわしい行事やものがあるという社会的な約束事を守ってしまう。本当はそんな約束事ないんですけれどね」
「僕は、社会情勢にかかわらず、踊るというのは、人間の根本的な欲求的な一つだと思っています。石器時代からずっとそうだと思います。日本も昔の方が踊る機会が多かったんじゃないかな」
記者
「諸外国は違いますよ。韓国や欧米は、道ばたで踊り出す。ディスコやクラブにはおじいさんやおばあさんも来るし、結婚式の後はダンスパーティー、高校や中学でも学校主催でダンスパーティーがある。プロムなんてまさにそうですよね」
「日本は機会こそすくないけれど、誰でもはしゃぎたいという気持ちは持っていると思っています。アメリカ映画『Fame』(アラン・パーカー監督、1980年)には、『ロッキー・ホラー・ショー』を見に行った女の子が、スクリーンの前で踊っているファンをみて、『私もあそこにいく』と下着姿で走っていくシーンがあります」
「1989年、僕はそれとまったく同じ光景を日本の映画館で見ました。浅草・常磐座(現在は閉鎖)で『ロッキー』が上演されていたときです。普通に考えて、映画や舞台を観ながら踊るのは正気の沙汰ではない。ロッキーを見ると、『普段どこにいたんだろう』という人こそ踊り出す。みんな人間のふりをしている宇宙人なんじゃないかと思ったりしますね」
記者
「『ロッキー』は抑圧からの解放という物語。性の開放でもあります。何でも良いんだよって、ほっとさせてくれる。日本は均一性を求める社会です。会社に入ったら髪を切り、スーツを着なければいけない。就職活動の時も同じような黒いスーツを着がちです」
「知らない人からみると、ロッキーの登場人物は危ない集団ですが、観劇すると参加したくなってしまう。なぜならば、踊っている方が、ヒーローだから。抑圧を感じている方がダークだから。元々日本人は、みんなで踊るという文化を肯定してきたように僕は思っています。盆踊りなんて最たるもの。そうじゃなかったら日本中のあちこちに『よさこい』の団体があるわけないですよね」
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