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大相撲「おおらかさ」はもう限界 ルール明文化されず「品格」口撃
元横綱・日馬富士の暴行問題に端を発し、こじれにこじれた大相撲界。心がズタズタになったのは、大相撲を心から愛する相撲ファンです。騒動はなぜここまで過熱し、繰り返されるのでしょうか?? 「誰かをおとしめるようなニュースは傷つく」「白鵬へのバッシングは結果的に差別」。相撲を愛するライター、作家に話を聞きました。
1月14日に両国・国技館で始まった大相撲初場所。横綱白鵬や横綱稀勢の里は途中休場しましたが、目の離せない取組や、個性豊かな力士のしぐさや表情に国技館は連日わいています。
「スー女」について、著作があるライターの和田静香さんはファン歴10年以上の相撲ファン。初日と二日目に連続して国技館を訪れました。初日のチケットは家の近くのコンビニで、自ら予約したものでした。
国技館で相撲を堪能した和田さんは「自由に色々な形で、それぞれにリラックスして、楽しんでいいのが大相撲。土俵に上がったら、みんなおすもうさん。土俵の周りはみんな相撲ファン。ただ、それだけ。いろいろあったけど」と幸せそうに振り返りました。
穏やかな空気がズタズタになったのは、元横綱日馬富士の暴行問題でした。日馬富士は引退しましたが、騒動はまったく収まりません。「相撲協会」対「貴乃花親方」、「横綱白鵬」対「貴乃花親方」といった図式で報道され、憎悪が広がっていきました。
特に批判されたのが、暴行現場に同席した白鵬でした。いつのまにか、「品格」という理由から取り口までも批判されるようになり、立ち合いで「かちあげ」や「張り手」を使うことに対して、今でもバッシングが起こっています。
もしも夢ならさめてくれ。ファンにとっては、そんな2カ月だったはず。和田さんが相撲ファンになったのは14年前。気分が落ち込んで布団から24時間出れないほどだった時、全力で勝ちにいく朝青龍の相撲に魅了されたのがきっかけでした。その朝青龍は2010年、知人への暴行問題などから今回のような騒動が起こり、一連の問題の責任を取って引退しました。
和田さんはつらい心情をはき出します。「私は好きな派閥とかもないし、みんなの力士が好きなんです。だから、誰かをおとしめるようなニュースで傷つきます。こういう騒動は繰り返さないで欲しい」。
なぜ騒動は過熱してしまうのでしょうか??「おおらかさと裏表にあるルールのなさがある」と相撲ファンで作家の星野智幸さん(52)は指摘します。いまの社会風潮と大相撲の関係を考察したエッセイ「のこった もう、相撲ファンを引退しない」を11月に出版したばかりです。
「悪く言えば、角界はルールのない無秩序です。一連の問題についての処分も、明確なルールに基づいていない。そのために、いろんなところから口撃される口実を作ってしまいます」と騒動がくりかえされる理由について話します。
例えば、九州場所の優勝インタビューで万歳三唱をした白鵬について、理事会は厳重注意しました。そのことを例にあげた星野さんは「『横綱の品格』や『相撲道』に外れていることが理由でしたが、『品格』は明文化されておらず、都合の良いように使われています。結局、現実の力関係でものごとが決まってしまう恐れがあります」と話します。
角界には、明文化されたルールが多くありません。例えば、力士の育成はそれぞれの部屋で違います。個性豊かな力士が生まれる理由の一つでもあります。
初月場所の直前には、最高位の行司である式守伊之助が若手行司へのセクハラ問題で処分され、場所中の1月21日には十両の大砂嵐が無免許運転をした疑いがあると報じられました。24日には、春日野部屋で若手力士同士の暴力事件があったことが発覚。騒動になる火種は、まだまだくすぶったままです。いつになったら、穏やかな日々が戻ってくるのでしょうか?
星野さんは「不祥事や暴力について最低限のルールを明文化しないと、また騒動が起こってしまう。ルールがあれば、責任の所在も明確になります。日馬富士の問題では、危機管理委員会でルールにもとづいた処分が不十分だった。いい意味での相撲のおおらかさを守るためにも、もっとルールをつくるべきです」と話します。
また騒動が日本社会を映しているとも指摘します。「法律やルールは無視して、声を大きくして力と流れで押し切ろうとする。世間の処罰感情に協会がぐいぐいと流されていったように見えました。事件に関係のない白鵬へのバッシングは結果的に差別になっている。相撲界の騒動を通じて、日本社会を見つめ直す必要があると思います」と相撲協会だけでなく、我々も襟を正す必要があると話しました。
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