話題
名画にドキッ!地下鉄のマナー広告の「意外な気苦労」思わぬ炎上も
満員の東京の地下鉄。鞄はぶつかるし、足は踏まれるし、汗びっちょり……。そんな時に彼と目が合いました。私と同じように苦しむ表情。ムンクです。彼は地下鉄に吊られたポスターの中で、駆け込み乗車の危険性を訴えながら、ドアに挟まれていました。時代とともに変わってきたマナー。昔はなんと「車内禁煙」を訴えるものまで。今はネットでの炎上への配慮も。マナーポスターの歴史をたどってみました。
ムンクを題材にしたポスターの名前は「世界マナー美術館」。東京都交通局が昨春から始めた、名画を題材にしたマナーポスターです。歩きスマホ禁止、駆け込み乗車注意を訴えるもので、自分にもあてはまるシチュエーションに、どきっとさせられます。
東京都交通局によると、2020年の東京五輪に向けて、増えつつある訪日外国人にも注目してもらえる、世界共通で知られている絵をモチーフに、今年度のマナーポスターを作ろうと考えたのが始まりと言います。
この「世界マナー美術館」の第一弾がノルウェー画家エドヴァルド・ムンクの「叫び」。
絵の人物はムンクの幻想を描いたもので、叫んでいるのではなく、耳をふさいでおびえているというのが現在の通説ですが、ドアに挟まれ、嘆いている姿に「一本後の電車でもいいよね」との思いがわきます。ちなみに、この絵は来秋、日本にやってきますよ。ムンクさん、電車には注意です。
夏に車内に吊られた第二弾「歩きスマホはやめましょう!」はフランス画家ジャン=フランソワ・ミレーの「落穂拾い」です。
歩きスマホを使う男性がぶつかってきて、持っていた籠を落とし、果物を拾っているという構図にしたてています。
今、車内で公開されているのは大名行列。エスカレーターの手すりにしっかりつかまって並ぶ姿はなんとも魅力的です。
マナーポスターは時代とともに変わってきました。
例えば1980年代によく見られた車内禁煙を訴えるポスター。今ではとても考えられません。
近畿日本鉄道では「地獄の黙示録」(1979年公開の米映画)を模したとみられる「『地獄のモク時刻』 吸って天国、まわりは地獄。喫煙は時と、ところを考えてどうぞ」というものも。
その後、整列乗車やゴミのポイ捨て、駅外では「線路の近くでたこ揚げ禁止」などの歴史を経て、今の主流はなんと言っても、「歩きスマホ」と「駆け込み禁止」です。みんながマナーを守ってこそ、安全に快適に過ごせる。さらには、日本が誇る定時運行にもつながる。確かに、今では車内でタバコはあり得ません。
ただ、マナーの難しさは「法律違反ではないこと」と交通局の担当者は言います。鉄道営業法で定められている「喫煙禁止」などのような法的拘束力はありません。「みんなが快適に移動してもらうための『お願い』なんです」。だからこそ、各鉄道会社は毎年、数カ月に一度、予算を投じて、マナーを訴えるのですが、そこで担当者の頭を悩ませるのが「批判」です。
マナーポスターはモラルを訴えるものだけに、表現方法に違和感を感じる人が多ければ、「差別」として見られることもあります。
昨年、東急電鉄が、「ヒールが似合う人がいた。美しく座る人だった」とのキャッチコピーと共にスマートな着席を求めたポスターは「女性蔑視」「おじさんの方が足を開いて座っている」と大批判をうけました。
かつて、東京メトロでも、「なぜ列を無視して割り込むの?」とのキャッチコピーについたイラストで、割り込む男が若者だったことから「若者ばかりが悪いのか」とネットで炎上したこともありました。
ちなみに、「世界マナー美術館」は、ムンクのファンから「ふざけすぎでは」という声もあったとのことですが、次は、なに?と好意的に受け取られていると言います。ちなみに、こちらの名画の使用料は原則として「無料」。著作権が続くのは、作者が死亡した50年までと著作権51条で決められています。
関西にも、名画をもじったマナーポスターがありました。
近畿日本鉄道の日本画シリーズ「美しいマナーの美術館」です。2016年度に車内を飾りました。こちらも、やはり増える訪日客に注目してもらおうと作ったといいます。
第一弾は、江戸時代の浮世絵師菱川師宣(ひしかわ・もろのぶ)の見返り美人。キャリーバッグをもった見返り美人がぶつからないように振り返る構図です。ほか、写楽をモチーフにした「声を控えて シャラップ画」などユニークでした
話題を呼んだのは織田信長バージョン。歴史の教科書などに載っている織田信長をきっちり座らせ、鞄を持って、はいポーズ。
鳴かぬなら、殺してしまえ、ホトトギスとはかけ離れた印象にできあがっておりました。
1/8枚