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「体罰告発」された指導者に集まった「復帰の嘆願」暴力根絶の壁は…

アメフト指導者の「体罰」の告発。それでも保護者から「復帰の嘆願書」が集まった…※写真はイメージです
アメフト指導者の「体罰」の告発。それでも保護者から「復帰の嘆願書」が集まった…※写真はイメージです 出典: https://pixta.jp/

目次

 大阪・桜宮高バスケットボール部主将が顧問の暴力などを理由に自殺したことが、2013年1月8日にわかってから5年がたちました。スポーツや運動部活動での暴力的な指導は、競技団体などの撲滅への努力が続いていますが、なかなか根絶には至りません。関西地方で活動するアメリカンフットボールのあるクラブチームで起きた出来事から、指導の現場で暴力がなくならない背景を考えてみました。(朝日新聞スポーツ部編集委員・中小路徹)

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不快に思う人がいたのは間違いない

 昨年12月上旬。記者は関西のある競技場でアメフトを見ていました。小中学生のクラブチームが所属するチェスナットリーグの試合です。

 片方のチームで、暴力的な指導があったという情報が入っていました。試合後、指揮を採っていた指導者に事実を尋ねました。

 その指導者はチームの元代表者です。「程度にもよるが、なかったことはない」と認めました。そして、「和を乱したり、思い上がった行動があったりした時、ヘルメットの上からポーンとやったり、フェースガードをつかんで『しっかりしろ』と言ったりした。不快に思う人がいたのは間違いない」と話しました。

この指導法は情熱の域を超えている

 リーグにこのチームのメンバーの保護者から、匿名の投書が届いていたのは、昨年10月のことでした。

 「選手に対する殴る、蹴る、物を投げつけるといった体罰、中学生に投げかけるべきではない言葉を浴びせる行為が常に行われています。この指導法は情熱の域を超えているのではないでしょうか」と、代表者の行為を告発。

 「保護者の方々、コーチ陣、子どもたちは、代表者の言葉を信じ、チームに居続けたいという気持ちから、誰も表だって疑問の声を上げません」と訴えていました。ほどなく別の保護者からも同様の投書がありました。

告発文書には「この指導法は情熱の域を超えている」と書かれていた ※写真はイメージです
告発文書には「この指導法は情熱の域を超えている」と書かれていた ※写真はイメージです 出典: https://pixta.jp/

保護者のほぼ全員が復帰求める嘆願書

 代表者は辞意を表しました。すると、保護者たちはほぼ全員が復帰を求める嘆願書を書き、リーグに出しました。リーグ側が元代表者本人や保護者たちに個別にヒアリングをした結果、元代表者はコーチとしての復帰が認められました。

 その動きを受けて、元代表者に直接話を確かめに行ったのです。その上で、投書した二人とはまた別の保護者の話を聞くと、元代表者の説明とは「指導」の見え方が違っていました。

 「フェースガードをつかんで振り回す、蹴りを入れる、おなかを殴る、プレーブックの入ったファイルを投げつける、『殺すぞ』などの暴言が、その内容や相手は練習ごとに異なりますが、ほぼ毎回ありました。競技の指導力は皆が認めるところですが、やり方には問題があると思います」

もっと厳しく指導して欲しいという人もいた

 リーグの久保田薫代表にも、ヒアリングを含めた経緯と、復帰を認めた判断について聞きました。

 「保護者全員が代表者に感謝し、『今回のことで解任となると困ります』と話していた。もっと厳しく指導して欲しいという人もいたくらいだ。ただ、今回の投書は遺憾。二度とあってはならないし、今度あったら(コーチも)やめてもらう」と答えました。

 桜宮高の事件以降、行きすぎた指導をテーマの一つに色々な現場を取材していると、スポーツが進学がからむ現実や「将来トップアスリートに」という願いの中、行きすぎた指導も子どものためになるという考え方が、実は保護者たちに根強いことが感じ取れます。それが結果的に、暴力的な指導を容認してしまう面があります。

専門家は「暴力や恫喝(どうかつ)は生徒の考える力を奪う」と指摘する ※写真はイメージです
専門家は「暴力や恫喝(どうかつ)は生徒の考える力を奪う」と指摘する ※写真はイメージです 出典: https://pixta.jp/

暴力は生徒の考える力を奪う

 スポーツにおける事故や体罰の実態に詳しい日体大の南部さおり准教授(スポーツ危機管理学)は、こう指摘します。

 「暴力や恫喝(どうかつ)は生徒の考える力を奪い、自発的に競技に取り組む力が育ちません。殴られないと発奮できないのは、スポーツ選手として根本的な欠陥。短期的には『怒られるのが怖いから』と力を出すかもしれませんが、長期的にみると、本当にその子に力がついたのか、非常に疑わしい」

 手をあげる指導は、劇薬として言うことを聞かせられても、その先、自分で考え、判断できる選手には育ちにくい。何よりも、その競技が嫌いになってしまう可能性もあります。我が子の将来のスポーツライフのためにこそ、保護者は指導者がどういう教え方をしているのかに、敏感になる必要があるでしょう。

体罰の実態に詳しい日体大の南部さおり准教授(スポーツ危機管理学)
体罰の実態に詳しい日体大の南部さおり准教授(スポーツ危機管理学) 出典: 朝日新聞社

踏み絵のような思いで書いた人も

 スポーツは危険が伴うので気合を入れていないと危ないから暴力も必要、という考え方も耳にしますが、これも間違いです。安全は、指導者の知識と細心の注意、そして何が危ないかを言葉で選手にわからせることで確保できます。

 嘆願書について、先の保護者は「書くかどうか、告発の『犯人捜し』のようだった」と話しました。保護者の中には本意ではなく、踏み絵のような思いで書いた人もいたと想像できます。

 指導者だけでなく保護者も、「暴力を使った指導は絶対に認めない」という意識を持つことが、問題解決の第一歩になるはずです。

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