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パンテーンじゃない、今年は…ツバキだ!「和牛五輪」熱いこだわり

毛にツヤを出すため、人用のシャンプーで体を洗い、前回の全共で優勝した牛の写真と見比べながら仕上げていく=2017年7月28日、宮崎県高千穂町
毛にツヤを出すため、人用のシャンプーで体を洗い、前回の全共で優勝した牛の写真と見比べながら仕上げていく=2017年7月28日、宮崎県高千穂町 出典: 朝日新聞

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 全国の和牛農家が全力で競う品評会があります。「全国和牛能力共進会」です。5年に1度開かれることから「和牛五輪」と呼ばれています。大会3連覇がかかっていた「チーム宮崎」への取材からは、農家さんたちの深すぎる牛への愛情と、熱すぎる大会への思いが見えてきました。(朝日新聞宮崎総局記者・小出大貴)

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「パンテーン」から「ツバキ」へ

 2016年9月に仙台市であった「第11回全国和牛能力共進会」。39道府県から513頭が集結しました。

 大会前、高千穂町で30年間牛を育て、宮崎でも唯一4大会連続出場を決めた林秋廣さん(64)の牛舎を訪ねました。

 作戦を聞くと、「今大会はツバキでいく」「…?」思わず聞き返してしまいました。

 「見たほうが早い」と牛舎に連れて行かれると、棚にはずらっと資生堂「ツバキ」のシャンプーとコンディショナーが…。「和牛五輪に出る牛は毎日これで洗ってる。前回は『ダメージ補修のパンテーン』だったが、今回は『ツヤのツバキ』でいく」

資生堂の「TSUBAKI」
資生堂の「TSUBAKI」

運動のあとに「15プッシュ」  

 林さんが出場するのは和牛五輪の「種牛の部」。農家が手綱を引いて審査会場に一緒に立ち、その「見た目」を審査員が見て、序列が決められます。

 「ツバキ」を使うのは「毛にツヤを出して見た目を良くするため」。朝夕2回、運動のあとに「15プッシュ」ずつ使って洗いあげているとのこと。こだわりがすごい…。林さんは「自分の頭に使ってるのより高級」と笑っていました。

シャンプーで牛の体を洗い、ブラッシングで毛を整える農家の人たち=2017年9月7日
シャンプーで牛の体を洗い、ブラッシングで毛を整える農家の人たち=2017年9月7日 出典: 朝日新聞

「奥さんより一緒にいる恋人」

 審査されるのは、「体の大きさ」「背筋が地面と平行か」など見てわかるものから、「顔や体の品位」など素人目にはまず分からないものまで。人間でいう「気をつけ」の姿勢を牛にキープさせる「調教」技術も問われます。

 ちなみに、種牛の部の「種牛」は「たねうし(=父牛)」ではなく、「しゅぎゅう」と読み、母牛も含めた「親牛」のことです。種牛の部は、さらに牛の年齢などで複数の出品部門にわかれますが、そのほとんどがメス牛、つまり母牛を出品します。そのことから「種牛の部」は「牛の美人コンテスト」と呼ばれることもあります。

 農家さんたちは「うちで1番のべっぴんさん」「奥さんより一緒にいる恋人」などと話していました。

手綱を引いて3頭を並べると、客席からは「牛って言うこと聞くんだ」と驚きの声が聞こえた=仙台市
手綱を引いて3頭を並べると、客席からは「牛って言うこと聞くんだ」と驚きの声が聞こえた=仙台市 出典: 朝日新聞

「王者宮崎」のトラックを囲む  

 シャンプーにもこだわる農家たち。広くて快適な「VIP牛舎」を設けたり、仙台の水を飲まなかったときに備えて宮崎から湧き水をくんでいったりと、大会に向けた準備も入念に重ねて仙台入りしました。

 会場で、全国の牛と人が行き交うその光景はまさに圧巻。「王者宮崎」の牛たちがトラックで運び込まれたときにはライバルチームの農家たちが周りを囲んで、厳しい視線を送っていました。お隣の鹿児島の農家は「うちは宮崎だけに勝ちたいわけじゃないから」とばっさり。すでに戦いは始まっているようでした。

 審査会場は客席に囲まれた土場で、400キロ超の巨体が多いときで70頭ほど並びます。全国の美人がそろってるだけあって、素人目に見ても美しいと感じました。

 手綱1本で牛を操る農家さんの技術もすごいです。向きを変えたり、足をそろえさせたりと、自由自在。ある農家さんによると、「手綱からこっちの緊張が牛に伝わってしまう」らしく、自分との勝負でもあると言っていました。

歓声を送る「チーム宮崎」の客席=仙台市
歓声を送る「チーム宮崎」の客席=仙台市

「チーム宮崎」3連覇の行方は!?

 4日間かけて行われた和牛五輪の審査。「種牛の部」のほかに、会場で牛をお肉にして、その肉のサシ(脂肪)や肉質で競う「肉牛の部」もあり、その2部門がさらに全9部門に分かれ、審査が行われます。チーム宮崎は9部門の総合得点で決まる「団体賞」の史上初3連覇を狙っていました。

 結果はライバル・鹿児島に敗れ2位。各部門で鹿児島や他県に敗れるたびに涙を流して悔しがる農家さんたちの姿が印象的でした。

 「チーム宮崎」は出品農家やその家族のほか、和牛五輪を主催する全国和牛登録協会の県支部、県、各自治体、JA、畜連職員など総勢100人が仙台入りしてその戦いのサポートに当たりました。毎朝、まるで部活のように全員で輪をつくり朝礼をし、注意点や応援のお願いなどを呼びかける姿は、産地としての連携を現しているように感じました。

 「5年後は、必ずリベンジする」「また明日から牛舎での日々やね」。チーム宮崎は仙台をあとにしました。

「種牛の部」の審査では農家が手綱を引き、立ち姿、品位などを審査員が見て回った=2017年9月10日、仙台市宮城野区、小出大貴撮影
「種牛の部」の審査では農家が手綱を引き、立ち姿、品位などを審査員が見て回った=2017年9月10日、仙台市宮城野区、小出大貴撮影 出典: 朝日新聞

第1回は1966年

 「和牛」といえば個人的には、高級でお祝いのときに食べる。そんなイメージです。最近では「WAGYU」として海外での評価も高いと耳にします。和牛五輪では、そんな和牛のブランド力の根源を見た気がしました。全国の産地から自慢の牛を持ち寄って、披露しあい、たたえ合う。こんな大会、和牛にしかないのではないでしょうか。

 さらに驚いたのは、和牛と歩んできた歴史の深さ。1966年に開かれた第1回和牛五輪のテーマは「和牛は肉用牛たりうるか」。日本人の食文化に和牛が根づいてなかった時代にスタートしているたのです。今大会では、より生産性の高い親牛や、サシ(脂肪)の量でなく質が良い牛が高評価をつけていました。

 私自身、長野県出身で、父の実家は米や巨峰を作る農家ですが、自分の祖父が農作物にかける愛情とは別の、生き物を育てる畜産農家の愛情の深さを感じました。

 和牛五輪はこれからも全国の農家の目標になり、励みになりながら、和牛全体の力を引き上げていく。そんな場所であり続けるんだろうなと感じました。

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