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オスプレイが飛ぶと築地に影響が? 佐賀の漁師が抱く「本当の不安」
「築地のすしネタ」と「オスプレイ」という、一見、何の関係もなさそうな両者が、佐賀では重要な問題として注目されています。陸上自衛隊オスプレイの佐賀空港への配備が計画されています。佐賀特有の現象として、有明海の環境が変わるのではないか、という漁師の懸念の声があがっています。「国を守る」ことで失われるものはないのか? その重みを知っているのか? 現場で感じたのは、そんな漁師の思いでした。(朝日新聞佐賀総局記者・杉浦奈実)
コハダのブランド化を目指す会合に取材に行った時のことです。「近く防衛省が調査にくる」と小耳に挟みました。
オスプレイと漁業――。「オスプレイに反対」というと安全性の問題や、住宅地での騒音の問題が取りざたされがちです。事故が相次いでいることもあり、佐賀でもそういった声はもちろんあります。
ただ、佐賀特有の現象としては、有明海の環境が変わるのではないか、という漁師の懸念の声が大きいことがあります。防衛省が配備予定地として提案している土地が漁協組合員の持ち物ということもあり、国は今、なんとか漁業者の理解を得ようとしています。
これまで、有明海の漁業者は数々の大型事業で何度も痛い目を見てきました。筑後大堰も、佐賀空港の建設も、海況に大きく変化を及ぼしたと訴えています。
そして諫早湾干拓事業は閉門から20年経った今も最大の懸念のひとつです。築地に圧倒的なシェアをもつ太良町の漁協大浦支所は、県内で最も諫早湾に近いところにあります。
かつてコハダとともに生活を支えてきた貝類はここ最近、激減。国は閉門の影響を認めていませんが、疑念の声は絶えません。
大浦のコハダ漁は独特です。水面に浮いたコハダの群れを、船上から網を投げてつかまえます。海の中に網を垂らしてひいていくのではない、一発勝負です。
コハダが異変を感じて少しでも潜ってしまえば全く捕れなくなってしまう。音で気づかれないよう、群れを見つけた船はエンジンを切り、手こぎで近づくという慎重さが求められます。船上で携帯電話が鳴っても逃げられるとか。
漁師が心配するのは、漁場となる有明海上がオスプレイや陸自ヘリの基本飛行ルートとなっていることです。もし配備されたら、頭上を飛ぶ飛行機の数は激増します。
漁師は、騒音に関する調査を求めています。その背景には諫早湾の時の経験があります。
貝類の激減と潮受け堤防の締め切りの因果関係はわからないとされてきた一方、締め切り前の詳しいデータがないことも指摘されてきました。
万一、オスプレイなどが配備されたあとに漁獲が減ったら、国は因果関係を認めるだろうか。データのない今のままではとても信頼できないし納得できない。実際、これまで国は他の魚のデータをもとに騒音による被害は起きないとしています。
「ともかくデータをとってもらうのが大事だ」という声はそういった複雑な背景のもとにあがりました。
オスプレイは安全性や騒音の評価を巡って議論になりがちです。沖縄への配備をめぐり、政治的なイメージもつきまといます。そのイメージづくりにはメディアの伝え方も影響したと思います。
漁師からは、防衛の大切さに対する異論は聞こえてきませんでした。調査を求めたのは、今の生活が失われるかもしれない、しかも、最悪の場合それが「失われた」と認定されないかもしれない。そんな思いからだと感じました。
今回、国が漁師の声に応えて調査をしたのは、結果がどうあっても後世に引き継がれるデータをとるということで意味があることだと考えます。
伝統を生かしつつ、市場と細かくやりとりして必要な分だけを捕る大浦の投網漁は、資源を守りながら生活も守る、これからの日本の漁業が進むべき道のように思えます。
20代の漁師も多いのは将来が見通せるという表れです。ブランド化を進め、まちおこしにという動きもあります。
「国を守る」と言ったときの「国」って何なのか。領土を守ることももちろん重要ですが、地域が地域として存続していくということもまた、これからの「国を守る」であり、大切なことなのではないか。計画の必要性に目を凝らしつつ、それがもしやむを得ず失われる危険があるというのなら、せめてその重みをわかっていたいと思いました。
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