話題
小学校のプール飛び込みは必要か?異なる意見が教える「大切なこと」
2016年夏、鳥取県中部の町立小学校で、課外授業中の女子児童がプールの底に頭を打ってけがをする事故が起きました。当初は、教諭の不適切な発言などが注目されましたが、事故の背景には、学校での体育指導をめぐる様々な問題がありました。原因は、プールの構造なのか、指導方法なのか。異なる意見の専門家に話を聞きながら見えてきたのは、議論を続けていくことの大切さでした。(朝日新聞鳥取総局記者・横山翼)
事故は、2016年7月、鳥取県中部の小学校のプールであった水泳の課外授業で起きました。
教諭の指導のもと、飛び込みの練習をしていた当時6年生の女子児童が、スタート台から水中にいる児童が持つフラフープに向かって飛び込み、プールの底に頭を強打、頸髄(けいずい)を損傷しました。水深は約90センチでした。
取材を進めると、フラフープを使うことで垂直に近い角度で水に入る形になり、プールの底にぶつかる危険が増すことがわかりました。
また指導教諭が、飛び込みが苦手な別の児童に「腹打ち三銃士」などの不適切な発言をし、女子児童へのプレッシャーになったことなども判明。特に教諭の発言には多くの注目が集まりました。
しかし、記事を書きながら、フラフープや不適切発言だけが一人歩きすることで、全国的に起こっているプールでの飛び込み事故について考える機会が失われてしまう不安をおぼえるようになりました。
指導が適切か不適切かの議論にはなっても、そもそも飛び込みの危険性の議論はなかったからです。
もちろん、個別の事故の原因を究明し、そこから再発防止策を考えることは必要です。
でも、フラフープや「腹打ち」発言をするような教諭をなくすことだけで、次の事故が防げるわけではありません。そもそも、プールの飛び込み指導の是非から考える機会にしなければならないと思いました。
女子児童の父親は「この事故を、同じような思いをする子どもが出ないためのきっかけにしてもらいたい。そうでないと残念でならない」と語っていました。
そこで、議論の材料を提供するため、異なる立場の専門家の話を聞きにいきました。
名古屋大大学院准教授の内田良さんは、プールの水深が浅過ぎると指摘。プールの構造に問題があると考えていました。
米子高専教授の池本幸雄さんは、指導方法を問題視。段階的に飛び込みの指導をするよう改善することを提案しました。
内田さんはハード面に注目し、池本さんはソフト面を取り上げていました。
二人のインタビュー記事を朝日新聞鳥取版に掲載したところ、女子児童の母親からこんなメールが届きました。
「異なる二つの意見を取り上げてくださることで、どっちが正しいということではなく、いろんな考え方があること、その中から今できるベストな策を考えていくのが私たちにできることです」
体育の授業では、たびたび、事故が起きてしまいます。身体能力を高めたり、達成感を得たりすることができる反面、取り返しのつかないけがをするリスクもあります。
飛び込み指導に限らず、学校現場の様子は、なかなか外から見えにくいのが実情です。プールの事故をめぐる取材を通じて、様々な考えをまず知ることが大事だと実感しました。
1/233枚