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なぜ、クマがいる山に自ら入るのか?収入・文化…過疎地で見た現実

秋田県の横手城南高校側のオリで捕獲されたオスのクマ=横手市提供
秋田県の横手城南高校側のオリで捕獲されたオスのクマ=横手市提供

目次

 2017年、秋田ではクマの人身事故件数、目撃件数、そして捕殺数が過去最多になりました。今年5月27日には女性が亡くなる事故も起きていますが、それでも山に入る人は無くなりません。過疎地の貴重な現金収入であったり、地域に根ざした文化であったり…。単純に禁止できない事情があることも見えてきました。クマがいる山に自ら入るのは「ただのバカ」なのか? 秋田の事例から考えてみました。(朝日新聞秋田総局記者・石川春菜)

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ささやかな対抗手段

 2016年5月から6月にかけて、秋田ではタケノコ取りの男女4人が相次いでクマに襲われて死亡しました。2人目の犠牲者が出た直後、現場近くで取材することになった私は、クマが怖くてたまりませんでした。

 道中、何度もクラクションを鳴らし、どうしても車を降りないといけない時は、ささやかな対抗手段としてコンビニで買った点火棒をポケットに忍ばせ、「熊鈴」の代わりに家にあった「ねぶた鈴」を振り回しました。

 いま振り返ると笑ってしまいますが、当時は必死。クマが実は臆病で、大抵の場合は人間の気配を察して逃げていくということを知ったのは、その後、ちゃんとクマについて取材するようになってからでした。

無防備な入山を自粛するよう呼びかける秋田県警の警察官=2017年5月20日、秋田市
無防備な入山を自粛するよう呼びかける秋田県警の警察官=2017年5月20日、秋田市

「タケノコ採りで生計を立てる人もいる」

 犠牲者が出た直後にもかかわらず、現場には数台の車が止まっていました。タケノコ採りに来たという人は「この辺りにはクマの巣がある」と事も無げに言うではありませんか!

 クマがたくさんいることをわかった上で、山に入っていることに驚きました。その人は「趣味」だそうで、「趣味で命をかけるなんて」と思いましたが……。

 その後「高く売れるから、タケノコ採りで生計を立てる人もいる」という話を聞き、クマのいる山に入る理由が一筋縄ではいかないことが見えてきました。

命がけの「達人」たち

 それから1年後、また別のところでタケノコ採り中にクマに襲われて亡くなる女性がいました。自治体は入山規制を張りましたが、入山者は減っても、絶えることはありません。

 自治体は「生計を立てている人もいるので、規制はできても禁止は難しい」と言います。そこで、山に入る人の事情をしっかり聞こうと思い、取材を始めました。

 規制されている入山口で、タケノコ採りの人を待ち構えました。出会った人は、それぞれさまざまな対策をこらし、「何度もクマに遭遇している」と話す「達人」ばかり。大まじめで「命がけ」だと話します。

 ある人は、「遭遇しないようにするけれど、出合ってしまったらやるかやられるか」と言い、「ウォオオオオオオ」と威嚇する声を実演してくれました。

クマとの遭遇を想定した救助訓練=2017年4月27日、秋田県鹿角市
クマとの遭遇を想定した救助訓練=2017年4月27日、秋田県鹿角市

「ただのバカ」では片付けられない

 インターネットでは、「クマがいる山に自ら入るなんてただのバカ」というような声も見られました。私自身、最初は信じられなかったのは事実ですが、誇りを持って「仕事」をする姿に圧倒されました。

 春になったらタケノコを採る、というのは、脈々と受け継がれた一つの文化でもあります。また、タケノコ採りよりもお金になることを、田舎で高齢者が見つけるのはとても難しいことです。

 過疎化、高齢化がクマの生息域を広げているという現実もあります。ある地元の人は、「昔はもっとたくさん人がタケノコ採りに入ったから、人がタケノコを採っているところにクマが近づいてきたりはしなかった」と話していました。

 秋田では、今年、クマの人身事故件数、目撃件数、そして捕殺数が過去最多になりました。何が正しいクマ対策なのかは、今もわかりません。それでも、正しく怖がった上で、共生の道を探る必要がある。そこには「ただのバカ」では片付けられない背景がありました。

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