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「らき☆すた」と「ラグりん」がガチ草野球対決 最も濃く熱いWBC
気温が10度を下回る12月17日。アニメの聖地・千葉県鴨川市で、第1回WBCが開かれました。「World Baseball Classic(ワールド・ベースボール・クラシック)」ではありません。「Wotaku Baseball Cup(ヲタク・ベースボール・カップ)」です。現在、開催中の冬のコミケとは比べものにならないくらい、ゆるく、そして熱い戦い。ただ楽しいだけじゃなく、聖地の交流に手応えもありました。
鴨川は、ロボットアニメ「輪廻のラグランジェ(ラグりん)」の聖地です。そこへ、日常系アニメ「らき☆すた」の聖地・埼玉県久喜市鷲宮から、バスで約4時間かけて「オタ野球部」がやってきました。アニメファンたちによる草野球チームの、初の遠征です。
一方の鴨川は、ファンからなる「鴨川ジャージ部」と商工会青年部、市役所野球部、城西国際大野球部の混合チームを作りました。城西国際大野球部……助っ人とはいえレベルが違いすぎる予感がします。
それぞれのファンや地域の関係者が顔を合わせるのは初めてです。聖地としての知名度は鷲宮が圧勝ですが、作品への愛をかけたファン同士の戦い。「らき☆すた」vs「ラグりん」、埼玉vs千葉の代理戦争のようにも思えます。
先攻は鴨川、後攻が鷲宮のオタ野球部です。オタ野球部の胸には「OTAKU」の文字が存在感を放ちます。おそろいのユニフォームを目の当たりにした鴨川ファンからは思わず、「うらやましい」の一言。
ストライクは入るのか、バットに当たるのか……。そんな不安をことごとくはねのける試合展開で、両チーム初回から3得点。ガチンコ勝負です。
参加した鴨川ファン4人のうち2人は野球経験者。打って走ってしっかりホームを踏みました。中にはヘッドスライディングで土まみれになるファンも。この日のMVPでした。
そして、鴨川の助っ人の面々はバンバン打ちます。守備も容赦ありません。3塁線の鋭い当たりを巧みなグラブさばきでキャッチ! 1塁へ送球、余裕でアウト! 送球の角度と速さが違います。実況席からは「えげつない守備です!」という声。笑いが起きました。
オタ野球部もユニフォームをそろえているだけあって、様になっています。ダブルプレーで0点に抑えたイニングもありました。あわやデッドボールになりそうな球を跳びはねてよける選手。女性打者にボールを当ててしまい一斉に謝る一体感。もう1イニングやらせてほしいと頼む腰の低さ……。野球でこんな光景が見られるとは。鴨川の選手にもバカウケでした。
結果は、鴨川10-7鷲宮。時間の都合で6回までしかできませんでしたが、両チームとも笑顔が絶えず、最後には熱い握手を交わしました。
鴨川ジャージ部員で投手を務めた男性は「同じ趣味を持っている人たちと野球ができてうれしい」。オタ野球部のキャプテンの男性は「鴨川は強かった。今後、聖地を全部集めて試合したい」と話していました。
WBC開催は、鷲宮から鴨川へのメールがきっかけでした。オタ野球部の監督で、地元の「らき☆すた」イベントに関わる松本真治さんが、ファン対ファンで試合をしたいと対戦相手を探していたとき、知人に鴨川を推薦されたそうです。
オタ野球部は2014年の春、鷲宮に集まったアニメファンたちで結成されました。部員は約20人ですが、9割が未経験者。山梨や栃木、群馬など隣県からの参加もいます。「オタクでもできます」を合言葉にオタクかつ野球初心者に呼びかけ、月1回以上練習をしてきました。「運動が苦手で嫌いと思われがちなオタクでも、楽しく全員が参加できるチームを作りたかった。全員下手なら気兼ねしないし気楽です」と松本さんはいいます。
聖地として盛り上がったといっても、何もしなければファンは離れていきます。地域の活動をどう継続していくかは、永遠の課題です。
鴨川でラグりんイベントに関わる岡野大和さんは「1地域1作品の動きだけではどうしても限界があり、やがて終息してしまいます。聖地(地域)同士が交流し、連係して、互いに盛り上げていくことが大切になると思います」と話します。
WBC後の懇親会では、今後、参加チームをもっと広げていきたいという話が出たそうです。
これまでも聖地の人同士が交流する機会はありましたが、スポーツイベントは珍しいケース。鷲宮の松本さんは「スポーツを通じると、堅苦しさや変な緊張感が無く自然に打ち解けやすい。懇親会も野球の話題から入りアニメや地域の話で盛り上がると言う意味では、交流する敷居が低くなると感じました」と振り返ります。
長年聖地として活動を続け、ファンと地域の一体感は十分。本家に負けないWBCに期待が高まります。
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