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軽トラに見慣れぬ「〒マーク」 伏せられた実証実験、日本の郵便事情

♪とくとくとーく、とくし丸。ゆるーいメロディーでやってくる移動スーパー「とくし丸」。魚や野菜、日用品のイラストがぎっしり描かれた白い軽トラのドアには、見慣れた「〒」マーク。意外な取り合わせが気になって調べてみると、実は日本郵便がひっそりと進めていた「実証実験」でした。過疎地を走る「〒」の謎を追いました。(朝日新聞徳島総局記者・三上元)
徳島県発の移動スーパー「とくし丸」。今や43都道府県のスーパーと提携する巨大ネットワークです。
徳島県内を走る白い軽トラックに「〒」が付いているのに気付いたのは2017年の春先でした。郵便局の車と言えば、赤が定番。「〒」はコンビニやたばこ屋でも見かけるものの、車に貼ってあるのは初めて見ました。
販売員に聞くと、「切手やはがきを売る許可を得た証しです」。なんでも、日本郵便と共同で、日本初の「移動郵便局」の実証実験が徳島県内限定で進行中だとか。
過疎地の高齢者宅などを訪問し、「今晩のおかずと一緒に、都会で暮らす孫にはがきでもどうですか?」と。書き上がったらそのまま、車内の専用ポスト、ではなく「専用ボックス」で預かって郵便局に引き継ぎます。
切手やはがきの販売は「郵便切手類販売所等に関する法律」で、日本郵便が業者や個人を決められます。一方、郵便物の受け渡しは郵便法で規制されています。
実はホテルや旅館のフロントで手紙やはがきを渡すのは、厳密に言うと「投函」ではなく、「差し出し代行」というそう。とくし丸の場合も、あくまで「差し出し代行」なので、車内にあるのは「郵便ポスト」ではありません。
ちなみに、手紙や招待状、請求書などの「信書」の集荷・配送に、民間業者が参入出来ないわけではありません。ただし、事業を全国展開した上で、ポストを10万カ所以上設置しなければならず、こうしたハードルの高さに対し、ヤマト運輸など運送会社は公正な競争を阻害するなどと反発しています。
話は戻って「移動郵便局」の実証実験。
郵便局まで出かけるのが難しい人たちには、ありがたい話のようだけど、日本郵便は実証実験を正式には公表していない。なぜ?
日本郵便の担当者は「地方の郵便局を廃止するととられかねないから」と。元郵政政務次官の山口俊一衆院議員(徳島2区)は「郵便局は地方の拠点であり、情報交換の場。全国に広がるネットワークとして価値がある。移動郵便局に置き換えることはできない」と話します。
メールやSNSの普及で、手紙やはがきの取り扱いが減る昨今、総務省の調査では全国8割の地域の郵便事業は赤字で、東京や大阪といった大都市での収益が支えているのが現実。
一方で、日本郵便には、どんなに利用者が少なく、赤字になったとしても、全市区町村に郵便局を設けることが義務づけられているそうです。
一つのマークに過ぎない「〒」。その背景に、郵便を巡る様々な課題がみえました。
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