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中国人の漫画家が認めた『キングダム』のすごさ「史実に近い物語」
歴史マンガ『キングダム』が人気を集めています。作品の舞台は中国の秦王朝・始皇帝の時代です。『キングダム』は中国にも「逆輸入」され、中国人のプロのマンガ家にも人気があります。中国人から見た『キングダム』の魅力とは何か? 探ってみました。
『キングダム』は中国語で『王者天下』というタイトルで発売されています。
マンガ編集者の海帯(ハイタイ)さんは「『キングダム』は写実的な画風が重厚な歴史をよく表現し、主役とメインストーリーが鮮明で、非常に優秀な作品です」と絶賛します。
海帯さんは、中国の「マンガの都」と呼ばれる杭州市に拠点を持つ「ファンファン漫画」というマンガ会社で働いています。
「ファンファン漫画」では、『キングダム』の電子版を昨年、販売しました。
「輸入作品としては好調です。現在、紙の書籍の単行本も企画しています」
一方、『キングダム』のような長編の歴史マンガの場合、読者層を広げる上で難しい場面もあったそうです。
「スケールの大きい作品なので、読者の年齢によっては、手に取りにくかったようです」と海帯さん。
海帯さんによると、現在の中国の主なマンガの読者は12歳から16歳ぐらいの中学生。人数だけ見ると日本より多いですが、中国全体の人口の比率から考えると、限られたマーケットになります。
「日本の読者と比べれば、中国ではマンガと接する時間がまだ短い。日本ほど成熟し、細分化したマーケットも形成されていません。さらに中国は国土が広く、人口も多いので、作品を広める流通宣伝が大変なのです」
マンガの描き手はどう感じているのでしょう?
中国で大ヒットしたマンガ『蔚藍50メートル』などの作品を手がけるマンガ家の香草躲雨(シャンツアオドユ)さんは『キングダム』が成功した理由として「テーマとストーリー」を挙げます。
「日本は中国の古代研究もしっかりしているので、歴史をテーマにできる条件が整っています。マンガでも多くの人物や物語は史実に近く、ストーリーもよくできています」と評価します。
「第1話から人を引きつける力があり、マンガの世界観、人物のストーリーや、関係図などが明解です。主人公への興味を引き立てる工夫がしてあります」
香草躲雨さんが特に好きなのは「大将軍王騎と王の嬴政」だそうです。
中国の大物マンガ家の助手をつとめ、マンガ『拾又之国』の製作にも携わるマンガ家の悪劣(アーレー)さんは「日本の読者は、壮大な背景を持つ歴史や戦争ものが好きですね。大河ドラマも有名ですし。何より、三国志が今も大人気で、他の国の王朝ドラマも多くの人が見ています」と分析します。
とはいえ、日本ではワンピースを超えるとも言われる人気に比べると、中国で『キングダム』はそれほど広まっていません。
香草躱雨さんは、編集者の立場から「宣伝が足りない」と見ています。
「マンガだけでなく、アニメも出ていますが、アニメはあまり宣伝されていません。マンガを読まないとアニメまでは見ないのが実情ですね」
また人物設定でも、中国人には伝わりにくい面があるようです。
「脇役の名前や服装のイメージは日本っぽいので、中国の読者には、なかなか頭に入ってこないのかもしれません」
マンガ家の悪劣(アーレー)さんは「中国では、歴史が好きな読者は元々、それほど多くありません」と話します。
中国で今、人気なのは「条漫」という、すぐに読めてしまうマンガです。「条漫」は四コマから発展してきた新しいスタイルで、四コマより長く、内容もより充実しているのが特徴です。
また、中国のマンガファンは、見た目がきれいな絵が好きで、白黒より、カラーのマンガの方が受けがいいそうです。
マンガ家の悪劣さんは「中国の国産マンガはほとんど若い女性が読者で、中国のマンガスタイルは、その人たちに合わせた描き方になっていると思います」と話していました。
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