お金と仕事
タイのコールセンターで働く日本人…この国が抱える「生きづらさ」
「現地の男性を買い、妊娠した」「夜逃げ先がタイだった」。水谷竹秀さんがタイ・バンコクのコールセンターで働く日本人を取材した『だから居場所が欲しかった。』には、そんなインパクトのあるエピソードが並んでいます。水谷さんへのインタビュー記事を配信したところ「自分もそうなったかも」「本人が納得してるんなら別にいいんじゃないの」など、様々なコメントが寄せられました。記事への反応について、あらためて水谷さんに聞き、日本の「生きづらさ」について考えてみました。(朝日新聞デジタル編集部記者・高津祐典)
水谷さんのインタビュー記事「異国の男を買い妊娠まで…タイのコールセンターの日本人」を11月15日、朝日新聞デジタルで配信したところ、SNSで様々な反応がありました。
本には、現地の男性を買ってパートナーにしながら、別の男性を買いにでかける女性が登場します。「今、妊娠しているんです」と打ち明ける女性の言葉は衝撃的です。でも、その驚きこそ、自分の無意識の「常識」を明かしてしまうことなのかもしれません。
これが日本人男性だったら、きっと「よくある話」として読み流していたはずです。無意識に「女性は男性とは違う」という刷り込みがあったから驚いたのだと思います。
タイのコールセンターの人たちは、日本社会の常識という圧力から逃れようとしている人が多かったと水谷さんは言います。だからこそ「日本社会のゆがみを映している鏡のように感じた」のだそうです。
男女の違いに限らず、日本では「こうあるべき」の意識がより強まっているのかもしれません。記事には高校生の息子とタイに夜逃げした40代の男性の話も紹介しています。
「日本では転落さえできないのは、転落したあとも『死体蹴り』されるからなんだろうな」という記事の感想がはてなブックマークにありました。
貧困の記事にしても、困窮しながらも幸せだという話よりも、困窮して大変だという話の方が多い気がします。そこにも「こうあるべき」の圧力を感じてしまいます。
水谷さんに記事の感想についてどう思うか、メールで聞きました。
「その方々の立場によっても感想は変わると思います。『他人事ではない』と言われる方は、境遇が似ているというか、人生で悩んでいる人が多いのではないでしょうか。逆に批判的な目線で見る方は、仕事に一生懸命でうまくいっている人のような気がします。そういう人からすると、自己責任論を突き付けて『あなたが悪い!』となるのでしょう」というお返事でした。
幸せの定義は、本来さまざまです。男性なら「良い大学を出て良い会社に入り、妻は専業主婦。近郊に家を買って子どもは2人」といった、現実には少数しか存在しなくなった理想像に固執すると、閉塞感は増すばかりです。
誰もが自分の中に「マイノリティー性」があると思います。お互いが違いを尊重しながら生きられたら、もう少し日本も生きやすくなるのかもしれません。
1/5枚