連載
#24 AV出演強要問題
AV強要「未成年の被害者」 やめた後も毎日検索 「身バレ」の恐怖
AV出演強要問題で被害者を悩ませるものの一つが、家族や彼氏、友人らに知られる「身バレ」への恐怖だ。事務所に連れ込まれた後、意に沿わない「デビュー告知」によって出演に追い込まれた未成年の女性は、定期的にネット検索をしている。女優名を打ち込み、作品の告知や宣伝がどうなっているのかをチェックする。自身の被害を踏まえ、女性は「やりたくないなら、誰かに相談を」と呼びかける。(朝日新聞記者・高野真吾)
女性は高校時代、BSの番組に出演経験がある30代のAV男優のツイッターをフォローしていた。番組を見て、「面白くて、格好いい」と気に入った。その男優からダイレクトメッセージがきたことがきっかけで、2016年4月「二人っきりで会う」ことになったはずだった。
しかし、実際は別の男性もいて、プロダクションの事務所に連れていかれた。男優、プロダクションの社長、男優と一緒にいたプロダクションのマネジャー役の男性に囲まれ、AV出演を断れない状況になった。
不本意ながら続けていた5回の撮影を終えた2016年6月末、男性マネジャーにLINEで「7月中の仕事無しにしてもらいたい」と切り出した。撮影後に婦人科系感染症のカンジタ膣炎を発症するというトラブルもあった。
女性は実家、職場を含めプロダクションに色々な個人情報を握られていた。男性マネジャーに「仕事無しにしてもらいたい」と切り出すのには、相当の勇気が必要だった。撮影が嫌だという本心は隠した。
マネジャーは1度の断りでは辞めることを認めず、2016年7月4日に2人で会うことになった。さらに、その前日には「今日からピルよろしくね!」と、撮影が継続するのを前提にしているかのようにLINEで催促してきた。
2016年7月4日に会った際、マネジャーは、「本職の仕事がきついから、精神的にダメージが来ているんだよ。AVではなく、本職の仕事を辞めた方が時間できるし、お金を稼げる」と口説いてきた。
女性はその場ではっきりと断れず、翌日、LINEで「やっぱり、撮影の仕事はきついです。もお撮りたくないなって思ってます」と断った。
マネジャーは「分かったよー」と返信してきたが、再度、7月下旬に2人での食事に誘ってきた。
「最後に1本だけお願いだよ」。マネジャーの行きつけのお店で押しに押してきた。
女性は5回の撮影経験を経て、撮影のスケジュールは時間に余裕がないと組めないと分かっていた。はっきり断り、マネジャーを目の前で怒らせるのは怖かった。シフトを確認し、「8月1、5日なら」と答えて、その場は逃げ切った。
翌日、マネジャーは監督に連絡をし、「やっぱり8/1、5は今から撮影を作るのは難しいから8月後半とか、9月になるって!」とLINEに書いてきた。
8月中旬、マネジャーは「9月のシフト出たら教えてね!」と撮影を実現させるために、しつこくLINEで連絡をしてきた。
その頃、女性は股関節に1~2センチ大のしこりができていたこともあり、「やっぱ撮影なしにしてください。もお体調これ以上悪化せたくないですし」と断った。
マネジャーは「了解~」と今度は引き下がった。
女性がこの監督による撮影が無修正動画だと知ったのは、昨冬になってからだった。
2016年秋以降、プロダクションからの連絡はなくなったが、女性の日々の平穏は戻っていない。
モザイクをかけたAV、AVではないモザイクなしの無修正動画ともに、現在も流通、販売している。幸いにも家族、彼氏、友人、職場には身バレしていないが、いつその時がきてもおかしくない。
今年6月下旬ごろまでは、毎日欠かさず女優名でネット検索し、自分の作品の告知や宣伝がどうなっているのかをチェックしていた。今も週2、3回は同様の検索を続ける。「身バレ」への不安が消えていないからだ。
また、有名AV女優のツイートも調べる。例えばDVD販売店などで、ファンがその有名女優のDVDを購入したというツイートを写真入りで出し、有名女優がそれをリツイートした時が怖いという。その写真の一部に女性がパッケージになっているDVDが写りこんでいる時があるからだ。
2016年春から夏まで、AV女優をしていた期間を女性は「つらかった」と振り返る。「AV業界にいってしまったことは、今までの人生を台無しにし、これからの人生に響いてくると思う。今もつらい状況が続いていて、不安もあり、いい人生に向かっていかないのではないかと思ってします」
プロダクションに連れて行ったAV男優に対しては、「2人だけで会うような感じだったのに、プロダクションに連れて行った。正しいことを言って欲しかった。テレビを見て気に入った私の純粋な気持ちを利用し、AVに出させるなんて最低です」
プロダクションの社長に対しては、「社長はプロのメイクと、プロのカメラマンをつけるから分からないと言っていたけど、私のパッケージ写真は一目で私だと分かってしまう。非常に無責任です」。
男性マネジャーには「最初は色々と相談に乗ってくれ、すごく優しかったけど、途中からLINEを送っても、適当な感じで流された。守ってあげると言っていたのは、ウソだった」
女性は同世代に向け、次のような言葉を伝えたいという。
「AV関係者に声をかけられ、やりたくないなら、無視をするか、それが厳しければ自分が思っていることをちゃんと言って欲しい。そこで阻止できず、圧迫感の中で私みたいに出演を強要されたら、誰かに相談して欲しい。私はそれができなかった。相談相手がいれば、防げる確率は上がると思う」
女性の「証言」について、プロダクションの社長、マネジャーに話を聞いた。
――プロダクションに所属するまでの経緯は?
社長「AVに興味があるということで来ました」
マネジャー「僕が男優さんと仲良くて、その方から紹介を受け、本人が興味があるということで、事務所に来た。年齢も18歳以上であると確認して(連れてきた)」
――AV出演の意思確認は?
マネジャー「喫茶店かどこかで話をしましたね。場所までは分からないのですけど、(プロダクションがある都内主要駅)西口のどこかの喫茶店で、(女性、マネジャー、男優の)3人で話しました。喫茶店名は覚えてないですね。結構、モデルさんはいっぱいいますし」
――プロダクションに所属するには契約をするはずだが
社長「それは全部、彼(マネジャー役)が(契約書を)読ませて、そういうことですよと読ませて、納得してもらって書いたと思います」
マネジャー「(出演する作品を撮る)メーカーの方でも、どういうメーカーか話を聞き、本人たちもAVというのを承知しているという契約書と、内容の細かい部分の再度の確認しています」
――女性とトラブルになったことは
マネジャー「出演に対しては前向きで、僕の方にも仕事を欲しいと言われていたので、営業をして、仕事を取ってきていた。最後は、いきなりころっと、辞めますということになった」
社長「あれぐらいノリノリで来ている子が、そんな風になるとは思えない」
――女性が出演したのはIPPA(知的財産振興協会)と関わる会社の審査を経て出た(表の)作品ですか
マネジャー「じゃないですかね。変なところには入れていないので」
――女性は無修正動画が世に出ています。それに関する認識はないのでしょうか
マネジャー「どうなのですかね。ちょっとあまり答えづらいです」
――女性を無修正に出した認識はあるのでしょうか、ないのですか。
マネジャー「ちょっと答えにくいですね」
――社長のご認識は
社長「僕は(マネジャーに)任せきりですから」
――女性は、ハードな作品に出ていますが
マネジャー「希望ということです」
――出演までの経緯について
「駅から事務所に向かう間に、喫茶店に寄ったことはありません。歩いている途中も、一緒にいた男優、マネジャーに『AV女優に興味はない』と、はっきり言いました」
「もちろん、事務所についてからも『AV女優に興味はない』と再度、言いました。聞かれた質問に答え、表面上は楽しく笑顔で話をしていましたが、実はすごく不安でした。決して社長が言うように『ノリノリ』な感じではなかったです」
――性病について
「2016年6月中旬の撮影は、すごく大変でつらかったです。社長やマネジャーには『楽しそうだった』と言われたので、その時のやり取りではウソで表面上合わせてしまったのかもしれません。その日は、肌に赤い斑点がいくつもできているのに、早朝から行かなければならなかった。望んでないのに複数人の相手をさせられ、拘束され、首を強く絞められたり、無理やり泣かされたりしました」
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AVに関係する情報を募集しています。出演強要被害に遭った男性、女性、業界の内情を語ってくれるAVメーカー、プロダクション幹部からの連絡をお待ちしています。必要な個人情報は厳守し、取材にあたります。
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