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中国映画はバブル?潤沢資金で「ハリウッド流」、イケメン俳優批判も

映画『LOVERS(十面埋伏)』の記者会見。左から、香港の俳優アンディ・ラウ、中国女優チャン・ツイイー、台湾と日本の俳優、金城武=2004年7月、台北。
映画『LOVERS(十面埋伏)』の記者会見。左から、香港の俳優アンディ・ラウ、中国女優チャン・ツイイー、台湾と日本の俳優、金城武=2004年7月、台北。 出典: ロイター

目次

 かつては広大な土地や、素朴な農民、甘酸っぱい初恋などが多かった中国映画のイメージが、ここ数年で急激に変化しています。エンタメは中国でも投資対象の一つとなり、潤沢な資金をバックに、CGなどハリウッドの技術を駆使した作品も数多く登場。制作本数と興行収入が右肩上がりで増えています。一方、ルックスを優先した若手俳優(通称「小鮮肉」)の演技の質がしばしば問われることも。中国の映画やドラマの日本語翻訳を担当する専門家に、映画から見える中国社会の変化を聞きました。

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ハリウッド要素が満載の映画『戦狼2』のポスター
ハリウッド要素が満載の映画『戦狼2』のポスター 出典: ムーラン・プロモーション提供

約100本の中国映像作品を翻訳

 話を聞いたのは神部明世(あきよ)さん。中国語の映像作品やシナリオなどの翻訳・校正業を手がける合同会社「玉兔工作室」の代表を務め、監修を入れると、映画やドラマを100本ぐらい翻訳してきました。

 神部さんは1990年に東京外国語大学に入学し、中国語を専攻にしました。

 「当時は中国語の人気が高くなく、入学しやすかった」と冗談を交えながら振り返りましたが、高校時代から中国のデザインが好きだそうです。

 大学に進むと中国映画のファンに。当時は香港映画が好きだったそうです。1980~90年代は香港映画の黄金時代と言われ、四天王と呼ばれた黎明(レオン・ライ)さんがお気に入り。1996年に公開された黎さん主演の映画『ラブソング』は「今見ても素晴らしい」と話します。

女優チャン・ツイイーさん(右)と映画監督の張芸謀さんがベルリン映画祭にて。『初恋のきた道』が銀熊賞を受賞=2000年2月、ベルリン。
女優チャン・ツイイーさん(右)と映画監督の張芸謀さんがベルリン映画祭にて。『初恋のきた道』が銀熊賞を受賞=2000年2月、ベルリン。 出典: ロイター

「中国映画週間」の字幕監修も

 神部さんは大学卒業後の1994年、NHKに入社しました。そして2001年の妊娠・出産を機に仕事を辞め、2008年から中国映画やドラマの字幕翻訳に取りかかったそうです。

 そして、2013年からは東京国際映画祭と提携している「中国映画週間」で字幕監修をするようになりました。

 「中国映画週間」の字幕を翻訳したきっかけは「ただの偶然」と神部さん。観客として映画を見ていた時に、字幕翻訳の質に心配していたところ、「中国映画週間」の担当者に翻訳監修の手伝いを申し入れたそうです。

「東京・中国映画週間」の舞台挨拶での一コマ。(左から)女優の馬思純、蘇有朋監督、俳優の欧豪=2015年10月
「東京・中国映画週間」の舞台挨拶での一コマ。(左から)女優の馬思純、蘇有朋監督、俳優の欧豪=2015年10月
出典: 朝日新聞社

中国映画の変遷 イケメン俳優が批判の的

 中国語を学んで20年以上。数々の映画を鑑賞してきた神部さんによると、中国映画も大きく変化してきています。

 1980年代の中国映画は、『紅いコーリャン』『古井戸』などに代表されるように、広大な黄色い土地や素朴な農民など「古い中国」が表現されました。

 その後、日本でもヒットした『初恋のきた道』のような作品も作られ、中国映画と言えば「甘酸っぱい恋愛」や「古き良き時代」などのイメージで語られてきました。

 ところが、ここ数年の中国映画は多種多様になり、一概に「中国映画」といった特徴は見られなくなりました。例えば今年の「中国映画週間」で上映されたミステリー映画『記憶の中の殺人者』は、俳優や監督、舞台は中国ですが、東京やソウルという設定でも大差はない「フリーサイズ」な物語になっているそうです。

 もう一つの特徴は、最新の技術です。アメリカのハリウッドを思わせるCGを活用した映画が増えています。これは、「中国の映画・ドラマ業界が投資対象になっているので、潤沢な資金が集まっているから」と神部さんは分析します。

 こうした技術の進歩とは対照的に、心配されているのが若手俳優の演技です。イケメンな割に演技力がない俳優は中国で「小鮮肉」と呼ばれ、批判の的にもなっているそうです。

莫言氏の原作で張芸謀さんが監督を務めた映画『紅いコーリャン』のロケ地となった石橋=山東省高密、2012年10月
莫言氏の原作で張芸謀さんが監督を務めた映画『紅いコーリャン』のロケ地となった石橋=山東省高密、2012年10月 出典: 朝日新聞社

流行語の翻訳は難しい

 翻訳してきた作品を通じて、中国の流行語にも接してきた神部さん。「ドラマを翻訳する際は、流行語の変化が大きく、たびたび苦労しました」。中でも、「打醬油」や「鈦合金狗眼」のような、中国でも若者しかない知らない流行語に関しては、戸惑いがあったそうです。

 例えば「打醬油」の文字通りの意味は、「お醬油を買う」という意味ですが、ネット上では「自分とは関係ない」という意味で使われています。あるインタビュー映像で、通行人の人が醬油の話を持ち出して「(私はお醬油を買うために来たので)取材の件とは関係ありません」と取材を断ったことから「無関係」「興味関心がない」などの意味で使われるようになりました。

 また「鈦合金狗眼」は「チタン製の犬の目」という意味ですが、これはオンラインゲームから転用された造語になります。「(まぶしすぎて)チタン製の犬の目も見えなくなった」という使い方で、「見たもの/ことが(マイナスの意味の)まぶしすぎて、やばすぎる」という衝撃を表す言葉になっています。

 翻訳の苦労は絶えないそうですが、「中国の若者たちの『今』を知ることができ、勉強になる」と前向きに捉えています。

北京市内の映画館待合室。国産映画と輸入映画が人気を競う=2015年12月、北京市中心部
北京市内の映画館待合室。国産映画と輸入映画が人気を競う=2015年12月、北京市中心部 出典: 朝日新聞社

今後の中国映画 脚本がもっと大事に

 神部さんによると、どんなに俳優たちが優秀で、CGが素晴らしくても、映画やドラマの根幹はやはり脚本だということです。これからの中国映画をさらに発展させるには、「いい脚本が不可欠」と語ります。

 中国では人気のジャンルが出ると、類似の小説・脚本が多く出てしまう事情があるが、真面目に脚本を制作する作家も多くいるので、「今後の中国映画・ドラマを楽しみにしています」と最後に神部さんが微笑みながら話しました。

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