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高知で生まれた「消耗しない」新産業 「古新聞で工作」が人を呼ぶ

大人がはまる高知の「消耗しない」新産業
大人がはまる高知の「消耗しない」新産業

目次

 高知の山奥、空港から車で2時間かかる場所にも関わらず、全国から人を集める合宿があります。1泊2日で学ぶのは「古新聞の折り方」。何がそんなに魅力なの? 人が集まりそれが観光もにつながる。「消耗しない」高知で生まれた新たな産業の魅力に迫ります。

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「すべて新聞で包もう」

 高知県四万十町で開かれているのは「しまんと新聞ばっぐインストラクター養成講座」。しまんと新聞ばっぐは、2002年、高知県在住のデザイナー・梅原真さんが、四万十川の川べりの木の枝にレジ袋がひっかかっているの見て、「四万十川流域で販売するものはすべて新聞で包もう」と提唱したのが始まりです。

 なぜ高知空港から100キロも離れた場所で合宿をするのか。

 事務局の森岡孝治さんは「新聞ばっぐがどんな環境で生まれたのかを知ってもらうため」と説明します。

合宿の間、食事などでお世話になった「道の駅 四万十とおわ」
合宿の間、食事などでお世話になった「道の駅 四万十とおわ」

講習からの食事、交流

 もとはと言えば、四万十流域の産品を包むことが始まりの新聞ばっぐ。どんな食べ物があり、どんな人が住み、どんな環境なのか。それを肌で実感してもらうために、遠路はるばる現地まで来てもらうんだそうです。

 合宿の最後に産品の生産者の見学をするのも、それが理由です。また、参加者は全国から集まるため、十分な講習をしようとすると日帰りでは時間がたりません。合宿の形にすれば参加者同士の交流も深まり、四万十の食事も堪能してもらえる。そう考え、一泊二日の合宿のかたちが定着しました。

養成講座1日目の終了後は四万十の幸を囲んでの懇親会
養成講座1日目の終了後は四万十の幸を囲んでの懇親会

太っ腹な運営

 2009年から始まったインストラクター養成講座は、年に7~10回ほど開催しています。1回あたり10人ほどのインストラクターを輩出。いまでは500人ほどのインストラクターが各地で活動をしていて、県や地域ごとに支部も立ち上がっています。

 ちなみに、講座を主催するNPO法人「RIVER」では、インストラクターがワークショップ開催時に講習費として得たお金や、新聞ばっぐを販売した際に得た収益から分担金などを求めることはありません。

 少し惜しい気もするのですが、森岡さんは「環境保護などの考え方が伝わり、その地域の産業になればそれで十分」と話します。太っ腹でもあり、そんな一途な思いが逆に人を集める原動力になっているのかもしれません。

新聞ばっぐ。四万十川を背景に
新聞ばっぐ。四万十川を背景に 出典:facebook「しまんと新聞ばっぐ」

ばっぐのために新聞を変える

 合宿にはどんな人が集まるのでしょう? 聞いてみると地域おこしのNPO職員や短大の教授、主婦、障害者施設職員……みんなばらばら。自己紹介や今回の参加動機を話し、自分との共通点を見つけたり、全然違う世界の話を聞けたり。中には、元々新聞ばっぐ作りをしていた女性が、「広告が多いから」という理由で広告の多い新聞に切りかえたという話も。情熱が並みではありません。

 他にも、障害者施設で働く女性は、日中の作業の中に取り入れたいという思いがあるようで、その話を聞いた講師の渡辺隆明さんは「過去にコンクールに出品された作品の中に『もじゃぐりバッグ』というのがあったよ」と話してくださいました。もじゃくりバッグは、宮城県から出品されたもので、ぐちゃぐちゃに丸めた新聞をばっぐの形にしたもの。それなら手が器用に使えない方でも、作品製作の過程に参加することができます。

記者も新聞ばっぐ作りを始めてから、かっこいい・きれいな広告が宝物のように見えて、収集癖がつきました。
記者も新聞ばっぐ作りを始めてから、かっこいい・きれいな広告が宝物のように見えて、収集癖がつきました。

ビジネスとしてのうまさも

 私は新聞社に勤めているので、日々、新聞に囲まれた生活をしています。ただ、今はなかなか新聞との接点を持たない人が増えているのも事実です。会社で先輩たちと「新聞の有効な利用方法がないだろうか」と話していたところ、偶然、自宅近くで新聞ばっぐのワークショップが開催されていました。

 そこで知ったのが合宿の存在でした。新聞を折るのに山の中に集まる人なんているの?どんな人たちが来るのか想像もつきませんでした。

 宿泊は3人相部屋。同室になった方とは、高知の山奥まで新聞の折り方を習いに来るという、これ以上ない接点のおかげで本当にいろんな話をしました。現役女子大生とは恋の話もし、「若いねえ」とニヤニヤ。そんな、人と人のつながりが生まれるも、この合宿の魅力なのでしょう。

養成講座最後のプログラムでは、四万十町で塩をつくる生産者の作業場を見学させてもらった
養成講座最後のプログラムでは、四万十町で塩をつくる生産者の作業場を見学させてもらった

facebookで交流ページも

 年1回のコンクールの後にはインストラクター同士の懇親会が毎年開かれ、そこでの再会を楽しみにしている方も多いそう。他にもfacebookで交流ページを開設したりし、交流は続いています。

 ビジネスとしてのうまさも。

 まず、作り方は非公開。それ自体が商品となっています。

 そして、1泊2日の養成講座では、「食」「住」において四万十にお金を落とします。地域の宿泊施設に宿泊し、「RIVER」の母体となっている株式会社「四万十ドラマ」が運営する「道の駅 四万十とおわ」で食事をし、お土産もそこで購入できます。

 1泊2日とはいえ、泊まりがけで訪れることで四万十に落とすお金も大きくなります。

「道の駅 四万十とおわ」で販売されている新聞ばっぐの「作り方」
「道の駅 四万十とおわ」で販売されている新聞ばっぐの「作り方」

山間部の悩みにこたえるヒント

 また、四万十ドラマでは、年会費を払うと四万十の情報誌や商品紹介メールが届いたり、四万十の商品が購入できる仕組みを作っています。

 新聞ばっぐをきっかけに四万十を知った、もしくは四万十をきっかけに新聞ばっぐを知った、そんな人たちに四万十のファンになってもらうことで消費につなげ、地域に還元しています。

 人口減少が進む地域を元気にさせ、雇用も生み続けるための仕組み。高知の「消耗しない」活動には、全国にある多くの山間部の悩みにこたえるヒントがある気がしました。

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