連載
数え切れないパスワード、使い回しはダメだけど… 便利な管理は?
倉知蓮
事業推進部所属の26歳。独特のセンスを発揮するビジュアルデザイナー。趣味はネットサーフィンとアイドル。
菅原数臣
37歳の事業推進部部長。経理担当として経験豊富なうえ、ソフトウェア分野にも精通。趣味は数学、ミルクパズル、資産運用。
菱乃木賢悟
事業推進部所属の32歳。新たな価値とガジェットを創造し続ける天才肌のメカニック。趣味は工作と家電新製品チェック。
倉知
菱乃木
菅原
インターネット上で利用する様々なサービスには、パスワードの設定がつきものです。悪用されてしまうのを防ぐために、使い回さないようにしたり、必要に応じて変更したりするのが鉄則ですが、忘れてしまったり面倒だったりして、思うように管理できていない人もいるのではないでしょうか? 情報処理推進機構(IPA)の加賀谷伸一郎さんに、パスワードを安全かつ分かりやすく管理するコツを聞きました。ポイントは「コアパスワードの作成」です。
経産省所管の独立行政法人として情報セキュリティー対策を手がけるIPAは、毎年の意識調査でパスワードの設定方法についても尋ねています。全国の13歳以上の男女5千人(サンプル)を対象にした昨年の調査では、以下の項目で半数を超えているものがなく、セキュリティーへの意識がまだまだ低いことがうかがえます。
・パスワードは誕生日など推測されやすいものを避けて設定している…47.0%
・パスワードはわかりにくい文字列(8文字以上、記号を含む)を設定している…46.0%
・サービス別に異なるパスワードを設定している…26.9%
また、パスワード管理アプリ会社「Keeper」は、昨年よく使われていたパスワードを25位まで紹介しています。1位「123456」、2位「123456789」と続き、3位は「qwerty」。これはパソコンのキーボードを「Q」から右に打ち込んだものです。その後も規則性ある数字やキーボードの配置を使った、「分かりやすい」パスワードが上位に入っていました。
加賀谷さんは破られにくいパスワードの条件として①できるだけ長く②できるだけ複雑に③使い回さない、の三つを挙げます。「三つそれぞれが、不正アクセスへの対策となっています」
できるだけ長くは文字通り、「パスワードの文字数制限まで長く」と加賀谷さん。これはあらゆるパスワードのパターンを全て試してくる「総当たり攻撃」に対するもので、長ければ長いほど、解読されるリスクは減ります。
複雑にするのは、「辞書攻撃」を防ぐためです。「1234」のようなパスワードで使われそうな文字列を機械的に試す辞書攻撃には、単語をそのまま使ったり、規則的になったりしないような防御が必要です。
対策が急がれているのは「使い回さない」です。「リスト攻撃」と呼ばれる、1度流出したパスワードを使って、他のサービスへのログインを試みる不正行為が近年増えています。「悪用する側も1度試せばいいだけなので、サービス側が攻撃を受けていると認識しづらく、対策が難しい」。リスト攻撃の自衛策として、サービス別にパスワードを設定することが有効になってきます。
こうした啓発を長年続けている加賀谷さんですが、「設定が面倒だ」というような苦情は一度もないそうです。その理由を「おそらく試す人が少ないんでしょう……」とちょっぴり残念そうに分析します。
とは言っても、いつ不正アクセスの被害にあうか分かりません。そこでIPAは昨年、ちょっとした工夫でパスワードの使い回しを回避する方法を打ち出しました。それが「コアパスワード」の作成です。
コアパスワードはまず、日本語のフレーズを決めるところから始めます。「自分が好きで、覚えやすい言葉で構いません。それをローマ字に変換します」と加賀谷さん。
例えば「テレビが好き」という言葉は、「terebigasuki」に置き換わります。これがコアパスワードです。そこから、「ga」を「GA」にするなど一部を大文字にしたり、「!」のような記号を追加したりして、「terebiGAsuki!」というようなより破られにくいワードにすることもできます。
コアパスワードができたら、次は活用です。使うサービスの略称や頭文字から、「abc」などの短い文字列を作ります。その文字列をコアパスワードの冒頭か終わりにつけて「abcterebiGAsuki!」とすれば完成です。後はサービスごとに文字列を変えるだけでオリジナルのパスワードが作れます。
作成したパスワードは管理の仕方にもポイントがあります。短い文字列の方は、サービス名と一緒にエクセルなどに記入。一方、コアパスワードは紙に書いて財布などに入れておくなど「アナログ」です。
「こうして分けておけば、紛失した場合でも、その情報だけでは悪用されず、不正利用の被害を防げます」
また、パスワードの作成などが便利な管理ツールを使うのも選択肢の一つですが、その際は、「端末であれば壊れたりしたときなどにバックアップができるか、ソフトウェアであれば信頼できる提供元かをよく見極めてから選んで欲しい」と話しました。
コアパスワードを活用すれば簡単にパスワードを作成、管理もしやすそうですが、それでも一つ一つとなると、やっぱり面倒かもしれません。数年前に自分のパスワードを調べたときに200以上あったという加賀谷さんは、「パスワードの重要度に応じて、パスワード管理に差をつけるのも、賢く管理する方法の一つ」と話します。
銀行やショッピングサイトのような「お金」に関するサービスや、Yahoo!メールやGmailといったメールのような「絶対に破られてはいけない」パスワードは、もちろん同じものを使わないようにします。それ以外で、不正アクセスをされた時に実質的な被害がなさそうなサービスについては、「強固なパスワードを一つ決めて、使い回すという選択肢もあるのでは」と話します。
まずは「自分がいくつのパスワードを使っているかを知ることが大事」と話します。これを機会に一度、利用しているサービスの点検をしてみませんか?
最後にiPhoneのロックについても、ちょっとした安全対策の工夫を教えてもらいました。ロック解除のパスワードを「○○○」からフォーム入力にするもので、フォーム入力にすれば何桁のパスワードかが識別されにくくなります。「設定」から「Touch IDとパスコード」→「パスコードを変更」→「パスコードオプション」と選び「カスタムの英数字コード」または「カスタムの数字コード」を選択します。
「カスタムの英数字コード」は、4桁以上の英字もしくは数字もしくは英数字混合の設定が可能です。英字もしくは英数字混合の場合は、桁数によらず、「○○○」 のような入力形式ではなく、フォームに入力することになるので、パスワードが何桁なのか分かりにくくなります。数字のみの設定でも、7桁以上であればフォームによる入力形式。「カスタムの数字コード」でも7桁以上であれば「○○○」といった入力形式ではなくなります。
数分で設定ができるので、一度試してみてはいかがでしょうか。
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