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「神業にしか思えない」火山灰アート 嫌われものがインスタ映えに

植村さんが火山灰で描いた絵。秋を意識してとんぼと桜島を描いた=鹿児島市
植村さんが火山灰で描いた絵。秋を意識してとんぼと桜島を描いた=鹿児島市

目次

 鹿児島県の桜島が噴火すると時折降ってくる火山灰。洗濯物についたり、目に入って痛かったりと厄介者ですが……。その灰を使って絵を描く「火山灰アート」が話題になっています。写真をアップしたインスタグラムには「神業にしか思えない」「クオリティーが高い」などと驚きのコメントが寄せられています。一体誰が、どうやって描いているのでしょう?!(朝日新聞鹿児島総局・島崎周)

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植村恭子さんの火山灰アート=島崎周撮影

 絵が描かれているのは、桜島の観光案内や火山についての展示がされている桜島ビジターセンターの出入り口付近。コンクリートの上に一畳分ほどの大きさです。
 
 テーマはその日にちなんだものやイベントの告知、来場者からリクエストされたものなどさまざま。この数カ月を振り返ってみると……。

ロケット発射、眞子さま婚約……日々の出来事知らせて

 6月30日は、ビートルズ来日50周年を記念してのコンサートが開かれたことを受けてビートルズの似顔絵。

 8月12日はロケットみちびき3号の種子島での打ち上げ成功を祈願して、ロケットや衛星。

 9月3日は、秋篠宮眞子様の婚約を祝って、眞子様と婚約相手の小室圭さんの似顔絵。

 9月24日は、西郷隆盛の命日にちなんで、NHK大河ドラマ「西郷どん」に西郷役で出演する鈴木亮平さんが微笑みます。

 どれも灰で描いたとは思えないくらい、細かくリアル。「セーラームーン」や「となりのトトロ」などのキャラクターが描かれている日もあります。

火山雷を伴い噴煙を上げる桜島の昭和火口(10秒間の長時間露光)=9月29日午前0時56分、鹿児島県垂水市
火山雷を伴い噴煙を上げる桜島の昭和火口(10秒間の長時間露光)=9月29日午前0時56分、鹿児島県垂水市 出典: 朝日新聞社

みんなの嫌う火山灰のイメージを変えたい

 気になる作者は、センターを運営するNPO法人「桜島ミュージアム」で企画や営業を担当する植村恭子さん(34)です。

 きっかけは、昨年4月に起きた熊本地震での募金の呼びかけでした。職場の同僚らから「火山灰でくまモンを描いたらいいのでは」と提案されたのです。

植村さんが火山灰で描いた絵。秋を意識してとんぼと桜島を描いた=鹿児島市
植村さんが火山灰で描いた絵。秋を意識してとんぼと桜島を描いた=鹿児島市

 車に積もった灰を指でなぞると、そこが線になります。同僚は、そんな日常的な動作から、「灰で絵を描いたらいいじゃないか」「灰が降った次の日に、町中のみんなが灰で絵を描くようになれば面白いなぁ」とイメージを膨らませていたそうです。

 被災者への思いと、「みんなが嫌う火山灰のイメージを変えたい」という願いが重なったのです。

レンタカー店の車は火山灰に覆われ、従業員が清掃に追われていた=2013年、鹿児島市、池田良撮影
レンタカー店の車は火山灰に覆われ、従業員が清掃に追われていた=2013年、鹿児島市、池田良撮影 出典: 朝日新聞社

 最初は月に数回程度描いていましたが、写真に収める人が多かったことから、「桜島に来た記念になれば」と、今年5月から毎日描くように。その日が何の日かを調べたり、話題になったニュースなどをチェックしたりして題材を探します。その日にちなんだ絵は、観光客も喜びそうですよね。

インスタにアップ「こんな芸術もありですね」

 友人の薦めで、桜島ビジターセンターの公式インスタグラムにもほぼ毎日、絵を載せています。「いつも楽しみに見ています」「こんな芸術もありですね」といった意見も寄せられ、それまで約100人だったフォロワーは、現在800人を超えています。植村さんの出勤は週に3日ほどで、仕事の日は朝1番に絵を描き、休みの前日は退勤時に次の日の絵を描いておくそうです。

どうやって描くの?答えは「サイババ風」

 でも、これだけの絵を一体どうやって描いているのか、いまいちイメージできません。記者が聞くと、「サイババ風です」とはにかむ植村さん。んん? 恥ずかしながらサイババを知りませんでした。インドの宗教団体創始者サティヤ・サイババは、超能力を操るとされ、手から灰を出すと伝えられてきた人なのですね。

 「最初は灰を手で寄せて形を作ろうとしたのですが、うまくいかなくて、地面に直接描けばいいと思いつきました」。手に灰を握って絵を描いた時に、「サイババのようだ」と思ったそうです。

火山灰で絵を描く植村さん。火山灰を手に握って指をゆるませて灰を出しながら描く=鹿児島市、島崎周撮影
火山灰で絵を描く植村さん。火山灰を手に握って指をゆるませて灰を出しながら描く=鹿児島市、島崎周撮影

 せっかくなので、植村さんに実際に目の前で描いてもらいました。

 灰を右手に握り、小指と薬指を少しずつゆるめながら灰を出し、その灰で線を描いていきます。多めに灰を使えば太い線に、少なめであれば細い線を表現できます。また、手でこんもり積もった灰を崩せば、白く見せることができるなど、濃淡も表現自在です。

 この日植村さんが描いたのは、トンボやススキと桜島。秋風が吹きはじめた桜島の風景です。かかった時間はたった10分ほど。意外と早い!

 旅行中の、千葉県松戸市の斉藤貴彦さん(21)は、降灰で白いTシャツが黒くなり洗濯をしてからセンターに来ていました。「灰は嫌だなと思ったけれど、こういう風に使われるのはいいのでは。絵のクオリティーが高くて、すごいと思った」。

雨で消えるアート、「そのはかなさもいい」

火山灰アートがあるのは、桜島ビジターセンターの入り口前=鹿児島市、島崎周撮影
火山灰アートがあるのは、桜島ビジターセンターの入り口前=鹿児島市、島崎周撮影

 鹿児島出身の植村さんですが、小さい頃から毎日当たり前に目にしてきた桜島に、特別は思いは持っていませんでした。現在の職場で働くようになって、「どこでも見られる風景ではない」と魅せられたといいます。

 絵は好きでも「教科書の端にらくがきをする程度だった」そうですが、いまは「絵を見て喜んでもらえるのはうれしい」。雨や風、降灰などですぐに消えてしまうこともありますが、「そのはかなさもいいのではないでしょうか」。

 今後は、子どもたちに灰で絵を描いてもらう、火山灰アートのイベントも開催する予定です。植村さんは「少しでも桜島や火山に興味をもってもらえたら」。

 さて、次は何の絵が描かれているのでしょうか。毎日の楽しみになりますね。ぜひ皆さんも桜島へ「灰アート」を見に来て下さい!

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