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コラム

教育現場に広がる「標準」とは? 〝30秒で泣ける漫画〟の作者が描く

教育現場に広がっている「スタンダード(標準)」とは? 漫画家・吉谷光平さんが描きました。

漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん
漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん

 教育現場に広がっている「スタンダード(標準)」とは? ツイッターに投稿した漫画「男ってやつは」が〝30秒で泣ける〟と話題になった漫画家・吉谷光平さんが描きました。

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漫画「スタンダード」=作・吉谷光平さん
漫画「スタンダード」=作・吉谷光平さん
 教育現場に「スタンダード(標準)」が広がっている。教育委員会が教員に授業方法を示す「授業スタンダード」から、学校が教員に指導の統一を求める「教員スタンダード」、教員が保護者に持ち物の基準などを伝える「保護者スタンダード」まで登場した。なぜ、いま、スタンダードなのか。
漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん
漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん
 「子どもの背筋がぴーん」「足裏がピタッ」「鉛筆の持ち方は親指より、人さし指が下になるように」……。岡山県教育委員会が「岡山型学習指導のスタンダード」で掲げる指導の基礎・基本だ。

 「授業5(ファイブ)」として、「めあて(目標)を示す」「目標の達成度を確認する」など五つのポイントを掲げる。「聞き方、話し方の手本を示している」など24項目のチェックシートもつけた。

 県教委がスタンダードを作ったのは2014年。全国学力調査の成績がふるわなかったのが契機だ。順位が上がり注目されていた山口県の取り組みを参考にした。「ベテランの大量退職の時期を迎え、若手をはじめ教員の指導力を伸ばす必要があった」と県教委の担当者は言う。

 東京大大学院の村上祐介准教授(教育行政学)らが2015年、全国のすべての市、特別区と半分の町村の教委を対象にした調査によると、授業スタンダードについて回答した445自治体のうち、「都道府県作成のものを準用」「市町村で作成」と答えたのは99自治体で、22%を占めた。

 スタンダードには、岡山県のように授業と並んで学習規律の基準を示すものもあれば、宇都宮市のように「知」「徳」「体」を掲げる例、大阪府や福島県、大分県のように授業が中心のケースもある。

 広島県東広島市は10年から教員と子どもに向け、「あいさつ」「へんじ」「ことばづかい」「はきものをそろえる」など規律のスタンダードを掲げ、標語コンクールも開いている。

 教委のスタンダードには、若手を中心に歓迎する声が多い。「大阪の授業STANDARD」がある大阪府の新人の中学校教員(24)は「何が授業の要かがわかり、不安がなくなる」。「葛飾教師の授業スタンダード」をもつ東京都葛飾区の小学校教員(26)も「学校で目標を決める手間が省ける」という。

 だが、違和感を抱く教員も少なくない。

 広島県呉市教委は昨年から、子どもが集中しやすいよう「教室の前面にロッカーや本棚がある場合はカーテンなどで見えないように」、「机と椅子を床に記した印に合わせて整頓」といった内容のスタンダードを設けた。

 ある小学校では、「時計まで外す必要があるのか」「高学年は机の印は不要」などの異論が出たという。「後ろに動かした時計を授業中、振り返る子が増え、机の印にきっちり合わせないと落ち着かない子もいる。子どもは多様で、一律は無理がある」と小学校教員(58)は話す。

 東京都板橋区は「授業のはじめに学習のねらいを明確に示し、終わりに振り返らせる」などのスタンダードを示している。

 「子どもに議論させるアクティブラーニング型の授業が求められているが、目当てを先に書くとやりにくい」とベテランの小学校教諭。「教師の主体性はどこにあるのか。上で決めたことを守るだけなら授業の工夫が要らなくなり、教師は成長しない」と話す。
漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん
漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん
 スタンダードを掲げるのは、教委だけでなく学校もだ。

 都内のある小学校は、教員版のスタンダードを作った。子どもたちに、授業のあいさつ後、先生の顔を2秒見るよう指導する▽「はい、~です」の話形を徹底させる、などを盛り込んだ。「指導がばらばらにならないように話し合ってつくった」と生活指導担当の教員は言う。

 子どもや保護者向けのスタンダードを作った学校もある。東広島市の小中学校では「黙働流汗清掃をします」「廊下の移動は黙って一列で右側を」などと記載した事例がある。

 神奈川県内の小学校は、筆箱の中身として「Bか2Bのえんぴつ5本」「無地の下敷き1枚」を挙げ、「必要な用具は忘れないようそろえさせてください」などと決めた。

 「『○○先生はいいといったのに』と言われないためにも欠かせない」と教員。別の教員も「保護者から苦情が来たら、『学校で決めています』と言える」と話す。
漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん
漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん
 東京大学大学院教育学研究科の勝野正章教授(学校教育経営) 全国学力調査の結果を受け、学力向上を目指す自治体が、秋田など調査結果の上位県のスタンダードを参考に作成する例が目立ち、多くは内容が横並びになっている。

 教委や学校のスタンダードは教師が参考にする程度なら、教育の質の向上につながるかもしれない。だがマニュアルのように使われれば、指導が画一化する恐れがある。スタンダードに沿って学習規律を一律に求めるなら、発達障害や外国籍の子への配慮が欠けてしまう。

 何より問題なのは、教師がスタンダード自体の内容がいいかどうかを吟味しなくなることだ。教師が自らの裁量が失われているのを自覚しなくなれば、行政の管理が進みかねない。
漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん
漫画「スタンダード」の一場面=作・吉谷光平さん


 【よしたに・こうへい】 漫画家。サラリーマン生活や漫画家アシスタントなどを経て、月刊スピリッツの「サカナマン」でデビュー。漫画アクションで「あきたこまちにひとめぼれ」を連載中、月刊ヤングマガジンの連載「ナナメにナナミちゃん」の単行本1巻が発売中。ツイッターで公開した2ページ5コマの漫画「男ってやつは」が〝30秒で泣ける〟と話題に。

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