「子どもの背筋がぴーん」「足裏がピタッ」「鉛筆の持ち方は親指より、人さし指が下になるように」……。岡山県教育委員会が「岡山型学習指導のスタンダード」で掲げる指導の基礎・基本だ。
「授業5(ファイブ)」として、「めあて(目標)を示す」「目標の達成度を確認する」など五つのポイントを掲げる。「聞き方、話し方の手本を示している」など24項目のチェックシートもつけた。
県教委がスタンダードを作ったのは2014年。全国学力調査の成績がふるわなかったのが契機だ。順位が上がり注目されていた山口県の取り組みを参考にした。「ベテランの大量退職の時期を迎え、若手をはじめ教員の指導力を伸ばす必要があった」と県教委の担当者は言う。
東京大大学院の村上祐介准教授(教育行政学)らが2015年、全国のすべての市、特別区と半分の町村の教委を対象にした調査によると、授業スタンダードについて回答した445自治体のうち、「都道府県作成のものを準用」「市町村で作成」と答えたのは99自治体で、22%を占めた。
スタンダードには、岡山県のように授業と並んで学習規律の基準を示すものもあれば、宇都宮市のように「知」「徳」「体」を掲げる例、大阪府や福島県、大分県のように授業が中心のケースもある。
広島県東広島市は10年から教員と子どもに向け、「あいさつ」「へんじ」「ことばづかい」「はきものをそろえる」など規律のスタンダードを掲げ、標語コンクールも開いている。
教委のスタンダードには、若手を中心に歓迎する声が多い。「大阪の授業STANDARD」がある大阪府の新人の中学校教員(24)は「何が授業の要かがわかり、不安がなくなる」。「葛飾教師の授業スタンダード」をもつ東京都葛飾区の小学校教員(26)も「学校で目標を決める手間が省ける」という。
だが、違和感を抱く教員も少なくない。
広島県呉市教委は昨年から、子どもが集中しやすいよう「教室の前面にロッカーや本棚がある場合はカーテンなどで見えないように」、「机と椅子を床に記した印に合わせて整頓」といった内容のスタンダードを設けた。
ある小学校では、「時計まで外す必要があるのか」「高学年は机の印は不要」などの異論が出たという。「後ろに動かした時計を授業中、振り返る子が増え、机の印にきっちり合わせないと落ち着かない子もいる。子どもは多様で、一律は無理がある」と小学校教員(58)は話す。
東京都板橋区は「授業のはじめに学習のねらいを明確に示し、終わりに振り返らせる」などのスタンダードを示している。
「子どもに議論させるアクティブラーニング型の授業が求められているが、目当てを先に書くとやりにくい」とベテランの小学校教諭。「教師の主体性はどこにあるのか。上で決めたことを守るだけなら授業の工夫が要らなくなり、教師は成長しない」と話す。