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「3年を切ってしまった…」東京五輪の盲点?「救急体制」に焦り
東京五輪開幕まで1000日を切りましたが、大会期間中の救急医療体制を保てるかどうか、医師たちが危機感をおぼえています。選手や観客・観光客が集中し、都内の人口は2カ月ほどにわたって倍になるとも言われているからです。東京都医師会や関連学会は独自に動き始めています。
「3年を切ってしまった」「手をつけられるものから始めないと」
10月24日に開かれた日本救急医学会の学術集会では、東京五輪・パラリンピックの救急体制について検討するセッションが設けられました。発表する医師たちは、口々に大会まで3年もないことに言及していました。
東京五輪は2020年7月24日~8月9日まで、パラリンピックは8月25日~9月6日まで開かれます。
2012年のロンドン大会は、参加選手1万人・ボランティア7万人にスタッフやメディア関係者が加わり、チケット販売数は820万枚という規模でした。
東京都医師会の救急委員会に所属する帝京大の石川秀樹さんは「昨年は訪日外国人が過去最多の2403万人となり、国はさらに増やそうとしています。都内の人口は2カ月ほどにわたって急増すると考えられます」と指摘します。
大勢の人が集まるマラソン大会やコンサートなどを「マスギャザリング」と呼びます。
石川さんは「一般の人にはまだあまり知られていません。集団を狙ったテロや災害はもちろん危険ですが、熱中症患者の大量発生などで通常の救急体制にも影響が出ないよう備える必要があります」と話します。
患者が多数発生したときに、会場の救護所で間に合うのか。どの患者をどの医療機関に搬送するか、誰が指示を出すのか。そして、五輪とは関係のない救急搬送に影響はないのでしょうか。
今年4月、米医学誌に、米国の大規模マラソン大会当日の救急搬送を調べた論文が掲載されました。
65歳以上の急性心筋梗塞・心停止による入院を調べたところ、開催日午前の救急搬送はそれ以外の日と比べて平均4分以上長くなっており、30日間の死亡リスクも高くなっていました。
都医師会は、都・組織委員会・医療関係者の役割を明確化し、連携を強化することなどを呼びかけています。
ただ、時間はあまりありません。石川さんによると、リオ五輪では、5年前から関連団体の関係構築があったと言います。
「有事には顔の見える関係が生きる。開催地をよく知る医師会として関わっていきたい」と話します。
すでに外国人受診者増加の影響を感じている救急現場もあります。
サッカーやゴルフなどが開催予定となっている埼玉県。川越救急クリニックの上原淳院長は「すでに、イベントやサッカーの試合がある日には交通事故やけが人の搬送が増えています。もし大会期間中、川越市内で熱中症の搬送が10件あれば、パニックになってしまうのでは」と危惧しています。
クリニックの年1万人の外来・1600台の救急車のうち、ここ数年で外国人受診者は急増。英語さえ通じないケースもあり、特に休日の救急搬送では大使館の日本人職員と連絡が取れないこともありました。
受診者の医療費の未払い問題もあり、国は実態調査に乗り出すとしています。
「最終的に払われなければクリニックの持ち出しになる。早く対策を示してほしい」
関連学会も動き始めています。
日本救急医学会や日本集団災害医学会など、関連する9学会と都医師会が集まり、東京五輪・パラリンピックへ向けた学術連合体(コンソーシアム)として活動しています。
救急体制や災害時の連携の検討のほか、爆発被害の治療法は日本外傷学会、化学テロは日本中毒学会といったように、各学会の専門知識をいかし、マニュアルを作ったりリスクを想定したりして、ホームページなどを通じて提言していく予定です。
11月3日には、キックオフシンポジウムとして、ロンドン大会の医療マネージャーを招いた講演会を計画しています。
コンソーシアムの東大・森村尚登さんは「災害や多数傷病者にそなえたネットワークを作って、五輪のあともレガシーとして残したい」と話しています。
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