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カタルーニャ、本当に独立できるの? 実は2回目、ドタバタの理由
独立を宣言したことで注目が集まるスペインのカタルーニャ自治州ですが、実は住民投票は2回目。今回の住民投票後も、独立宣言をしたのか、していないのか、あいまいな状態が続きました。そして、カタルーニャ自治州の州首相は国外へ。独立宣言したのに独立が進まない理由とは?(朝日新聞国際報道部・神田大介)
今回の住民投票が行われる前から、カタルーニャと中央政府との間には溝がありました。もともと別の国だった歴史に加え、製造業や観光業が盛んなため、納めた税金に比べて、自分たちに使われるお金が少ないという不満がありました。
そんな中、2010年、自治憲章の一部が憲法裁判所に違憲だと判断されます。カタルーニャに認める自治を定めたものですが、中央政府との話し合いでカタルーニャ側が譲歩を重ね、2006年に成立した経緯がありました。ところが、それでもマドリードの政治家らが不満を持ち、裁判所も同調。これではもはや独立するしかない、そんな機運が強まります。
2012年の州議会選挙は、独立を求める議員が勝利。2014年11月に独立をするかどうかを問う住民投票を行いました。
ただし、マドリードの中央政府が強く反対したこともあり、これは非公式な「意見の集計」という位置付け。それでも有権者の4割が参加し、8割が独立に賛成しました。
その後、2015年9月の州議会選挙で、独立を公約に掲げる政党連合が第1党に躍進。民意を背に今年9月、こんどは正式に住民投票をすると決めました。
中央政府は猛反発。憲法裁判所が差し止めを命令し、警察が一部の投票箱を差し押さえるなどしましたが、10月1日、投票は強行されました。
結果は独立を支持する票が9割以上を占める圧勝でしたが、中央政府のラホイ首相は「住民投票など行われていない」と発言。違法な状態で行われた投票には意味がないという姿勢を示しました。ただ、同時に「法の範囲内で議論する扉は閉ざさない」と含みを持たせました。
一方のカタルーニャ州政府も、すぱっと独立を宣言しませんでした。プッチダモン州首相は、なんだかんだと決定を先送り。ようやく投票から9日後、独立宣言の文書に署名をし、同時に「(中央政府と)対話のため、独立宣言の効力を凍結する」という曲芸めいた手に出ました。
住民投票の結果が出たらすぐに独立を宣言するというのは、ずっと前からの公約だが、中央政府との正面対決も避けたい。プッチダモン氏の苦しい心情が感じられます。
これに対し中央政府は、独立を宣言したのかしていないのか、はっきりしろと要求。プッチダモン氏は、対話しないなら「州議会が実施していない公式な独立宣言の採決に向かう」と答えました。つまり、先の宣言は公式なものではないとほのめかしたわけです。
事実上の譲歩だったわけですが、はっきり独立を否定しなかったとして、中央政府は自治権の一部を停止すると決めました。このころのプッチダモン氏は、表情がやつれて見えます。
カタルーニャ州政府があいまいな態度をとったのは、独立をしても得にならない見込みが強いからだ、とする見方もあります。
AFP通信によると、住民投票があった翌日の10月2日から19日までの間に、本社をカタルーニャに置く1185の企業が、スペインの別の都市に本社の登記を移しました。
カタルーニャからの輸出の3分の2はEU(欧州連合)の加盟国向けですが、独立すれば、カタルーニャはEUの一員ではなくなります。EUの国々に輸出をするなら関税がかかりますし、EUに加盟するなら長期間にわたる交渉が必要で、スペインを含む全加盟国の承認がなければ入れません。
また、カタルーニャの産品はスペイン国内向けにも多く流通しています。現在のような対立が続けば売れなくなります。
なお、日系企業も184社がカタルーニャに進出し、日産自動車や花王などの大企業が拠点を置いています。
現在は中央政府が行っている行政サービスも、すべて自前で賄わなければならなくなります。
BBCによると、カタルーニャ自治州は770億ユーロ(約10兆円)の負債を抱えています。これは州内総生産の35.4%にあたる巨額。うち520億ユーロ(約6兆8000億円)は中央政府からの借金です。返すように求められたら、たちまち住民へのサービスはできなくなるでしょう。
税金は、むしろ独立後の方が増えるかもしれません。
独立を求める住民の感情を利用し、政治の腐敗や経済の悪化から目をそらそうとしている、と指摘する専門家もいます。
そもそもスペインは1930年代の後半から1975年まで、フランコ総統という独裁者が国じゅうを縛り付けていました。その死後に民主化運動が起き、1978年に憲法を制定。地方にも幅広く自治が認められるようになりました。
カタルーニャには独自の政府と議会があり、首相がいて、警察も持っています。学校の授業はカタルーニャ語で、公務員や医師にも使用を義務付け。州が運営するカタルーニャ語のテレビ・ラジオ局もあります。
ちなみに、「.cat」というインターネットの独自ドメインも持ち、猫好きの注目を集めています。スペインは「.es」です。
中央政府はこうした自治のすべてを止めるわけではないと説明しましたが、プッチダモン州首相ら幹部をクビにし、州議会の持つ力を弱め、さらには州警察やテレビ・ラジオ局にも介入する厳しい動きを見せました。
こうなると、カタルーニャ州政府も黙ってはいられません。10月27日、州議会が正式に独立を決議するに至りました。
この州議会での投票は、135議席のうち独立に賛成した議員が70票、反対が10票、白票が2票。50人以上が投票を棄権したことになります。棄権して空席になった議員の席には、スペインとカタルーニャの旗を組み合わせた布が置かれました。
カタルーニャ州政府によると、10月1日の住民投票でも、独立を支持したのは204万4038票。有効投票の92%ですが、投票率は43%に過ぎず、投票しなかった人が300万人以上いたことになります。
現地からの報道では、独立に向けた動きが熱を帯び、感情的になる人も増えるなか、反対派は声を上げづらい状態が続いてきたとされます。しかし、29日には反対派がバルセロナで大規模なデモに打って出ました。
中央政府のラホイ首相は州議会に解散を命じ、選挙を12月21日にすると発表しました。独立を強行した州政府に失望する住民が増えるのか、それとも自治権を停止した中央政府への怒りが増すのか、そもそも投票がきちんと行われるのか、先行きの読めない状況です。
ラホイ首相に対しても、ここまでカタルーニャ問題をこじれさせてしまった責任を問う声があります。
一方的な独立の宣言だけでは独立できません。他の国が認めて、はじめて国になります。
これまでにカタルーニャの独立を認めた国はありません。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの主要国はいずれも、はっきりとスペイン政府を支持しています。
ヨーロッパには他にも、イギリスのスコットランド、ミラノなどイタリア北部、ベルギーのオランダ語圏など、独立も視野に自治権の拡大を求める地方がいくつもあります。混乱の広がりを避けたいという気持ちは、どの国にも共通しています。
EU(欧州連合)の加盟国から選挙で選ばれた議員が集まる議会、欧州議会の議長を務めるイタリア出身のアントニオ・タヤーニ氏は「今後もカタルーニャを独立国家と認める国はないだろう」と指摘しました。
今のところ、独立を目指す動きは行き詰まっていると言えます。プッチダモン氏は住民に対し、座り込みなど暴力を使わないやり方で抗議をしようと呼びかけています。しかし、検察は反乱罪での起訴を視野に、プッチダモン氏に対する捜査に着手しました。
プッチダモン氏は10月30日、ベルギーに出国していることがわかりました。亡命の可能性がとりざたされています。
住民の間では、独立への賛成、反対を巡って分断が深まり、双方がそれぞれ不満を強めています。10月1日に住民投票が強行された際には、中央政府の警官隊と住民の衝突で900人を超えるけが人が出ました。同じようなことにならないか、不安が高まっています。
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