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バタバタ衆院選で政治はどうなる? ポイントは「飽き」と「揺れ」
突然の解散、相次ぐ新党立ち上げ、そして投開票日に台風直撃――。バタバタと過ぎ去った今回の衆院選ですが、この結果を受けて、日本政治にはこれからどんなことが起きそうなのでしょうか。安倍政権や小池百合子氏の担当経験がある記者が、安倍政権への「飽き」と、野党の「揺れ」の二つをキーワードに探ってみました。
「全国で感じたのは、飽きですね。加計学園問題を含め不信感を持っている方が相当いる」。自民党の圧勝が見えた22日の投開票日の夜、NHKの番組で小泉進次郎・筆頭副幹事長の口からきつい言葉が飛び出しました。
野党の分裂で大勝した自民党ですが、第2次安倍内閣での政権復帰から4年10カ月になる安倍晋三首相への有権者の眼差しは、温かくはありません。朝日新聞社の選挙中の世論調査では内閣支持率が不支持率を下回っていました。
首相は北朝鮮の核・ミサイル問題や少子高齢化など、与野党の意見がそう違わない「国難」を理由に衆院解散に踏み切りました。公私混同ではと指摘された森友・加計問題から逃れるような首相の姿勢に、「飽き」を感じた有権者もいたことでしょう。
自民党は選挙制度に助けられた面もあります。衆院は各選挙区で1人だけ当選する小選挙区制が中心で、多くの現職がいる大政党に有利になりがちです。自民党は議席で6割強を占めましたが、得票は選挙区で5割弱、政党に投票する比例区で3割強。小泉氏の言う「飽き」は、得票の方により現れていると言えます。
安倍政権の悩みは今後もこの「飽き」です。首相は今回の勝利で民意を得たとして、来年9月の自民党総裁選で3選を目指すでしょう。まだまだやる事があると言わんばかりに、衆院選で党公約の主要項目に「自衛隊明記」を含む憲法改正を初めて入れました。
ただ、首相の念願ではあっても、有権者からみて優先度が高いと言えない改憲を推し進めるとどうなるか。「安倍さん、また……」という「飽き」につながりかねません。
私は第1次安倍内閣で首相官邸の担当記者でしたが、当時2007年の参院選がまさにそうでした。首相は改憲に向けた国民投票法の成立などをアピールしましたが、年金記録問題などで不満を強める有権者の感覚とずれ、自民党は大敗。首相辞任につながりました。
今回の選挙戦最終日の21日夜、首相は東京・秋葉原で大小の国旗と支持者らに囲まれて最後の訴えをしましたが、改憲には触れませんでした。勝利から一夜明けた23日の記者会見でも、改憲について「与野党で幅広い合意形成に努める」「スケジュールありきではない」と慎重でした。
改憲に突き進んだ場合に政権への「飽き」は弱まるのか、強まるのか。首相は世論をにらみながら出方を探りそうです。
「都知事に当選してガラスの天井を破ったが、今回の総選挙で鉄の天井があると改めて知りました」。23日、パリで地球温暖化対策の国際会議に出席した小池百合子・東京都知事は、希望の党の代表として苦杯をなめた衆院選について語りました。
私は第1次安倍内閣で首相補佐官だった小池氏も担当しましたが、相変わらず読めない人だなと思いました。何を目指して「鉄の天井」に阻まれたというのか。当選者を増やして首相を狙うなら自身が立候補することが最大のカードだったのに。
ただ、小池氏も読み違え、揺れたのかもしれません。希望の党は失速し、挽回には小池氏の出馬しかないと注目が集まりました。それは、合流を求めた民進党の一部を「排除します」と言って批判を浴びた小池氏自身が招いた状況だったのですから。
衆院選で「安倍一強」への対抗軸をめぐって離合集散した野党のこうした「揺れ」は、今後も続きそうです。
低迷する民進党が解散と同時に希望の党への合流を打ち出し、一時期待が集まりました。でも、安全保障法制を違憲とみるなど考え方の違う人たちを小池代表は「排除」。反発した枝野幸男代表らを中心に立憲民主党ができ、野党は分裂しました。
衆院選の結果、失速した希望の党を抜き立憲民主党が野党第1党になりました。揺れた野党の連携はどうなるのでしょう。
枝野代表は22日夜の記者会見で「永田町の数あわせに巻き込まれてはならない」と強調しました。発足間もない新党を無党派層やSNSの活用が後押してくれたとみており、民進党当時に届かなかった支持層を「裏切ってはいけない」として、他党との合流や政策の変更に否定的です。選挙区での候補者調整で譲ってもらった共産党や社民党にも恩があります。
一方で希望の党は、改憲を唱え、安保法制を認めるという面では自民党に近い。ただ、こうした方針を掲げる小池代表が都知事を続ける一方で、今回の当選者は自民党と戦ってきた民進党の出身がほとんどです。他党との連携よりも、まず安倍政権にどういう姿勢を取るかで党内をまとめることが大変そうです。
そしてその民進党です。希望の党との合流をいったん決めたため、今回の衆院選では候補者を公認しませんでした。希望の党にも立憲民主党にも入らない候補者もいました。党をまとめてきたベテランが中心で、前原誠司代表や野田佳彦氏、岡田克也氏らが地元選挙区で無所属で出馬し、勝ち抜きました。
民進党で衆院議員はこのように別れましたが、40人を超える参院議員が残っています。中には躍進した立憲民進党との連携を望む声があり、23日には民進党の小川敏夫参院議員会長が、希望の党との合流を主導した前原代表と対応を話し合いました。
民進党の参院議員らの行く末や、別れた衆院議員らの動向がどうなるのか。それは、野党がまとまって安倍政権に対峙するのか、さらに分裂して与党を利することになるのかを左右します。民進党の最大の支持組織で全国の労働組合をまとめる連合は、立憲民進党や希望の党への支援について様子見です。
日本政治を長年ウォッチしてきた米コロンビア大のジェラルド・カーティス名誉教授は今回の安倍政権勝利をふまえ、「首相官邸はかつてなく強く、自民党も官僚も支配している。強い野党によるチェック・アンド・バランスが必要だ」と述べています。
民進党で初代代表を務めた岡田克也氏は、立憲民主党と希望の党の連携について「それぞれ党を背負って戦った。そんなに簡単にいくはずがない」と指摘。「協力できるようにしていくのが我々無所属議員の役割だ」と記者団に語っています。野党の「揺れ」が収まるのかどうか、注目です。
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