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その公約、どの党でもやってほしい…政治との距離、大学生が熟議

「少子化対策、北朝鮮問題……。どの党でも『やって下さい』というしかない」。政治との距離について意見を交わす武蔵大学社会学部の奥村ゼミの学生たち
「少子化対策、北朝鮮問題……。どの党でも『やって下さい』というしかない」。政治との距離について意見を交わす武蔵大学社会学部の奥村ゼミの学生たち 出典: 朝日新聞

目次

 突然の解散総選挙、急に投票と言われても誰に入れていいのやら……。そんな大学生たちが「なんで政治に興味が持てないか」を考えました。「少子化対策、北朝鮮問題って、どの党でもやってほしいよね…」「短い期間で吟味できるか心配」。大学生の熟議から見えたものとは?

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「公約、どうせ守らない」とあきらめ

 話を聞いたのは、武蔵大学社会学部の奥村信幸ゼミの学生たちです。ゼミでは学生が記者・ディレクターになって制作したサイト「ニュースの卵」(http://newstamago.com/)を運営しています。

 奥村教授(53)は、テレビ朝日で「ニュースステーション」のディレクターや政治記者を務めた後、アメリカの大学院でジャーナリズムを学びました。

 前任の立命館大学で学生を教えるようになった2006年から、学生が取材テーマを決め、ビデオを持って取材し、ノートパソコンで編集して1本の番組をつくるワークショップを始めました。武蔵大学に移った今も人気ゼミです。
 
武蔵大学社会学部の奥村信幸教授
武蔵大学社会学部の奥村信幸教授 出典: 朝日新聞

「これって何のための選挙?」

 今回の衆院選について話してくれたのは、4年生の真野江里那さん(22)、木内優弥さん(22)、3年生の漢人薫平さん(21)の3人です。

 木内さん「国会を楽しみにしていたのに、なんで選挙やらないといけないのかな」

 真野さん「自分が推したい政党もないので、短い選挙期間で候補者を吟味して投票する候補を選べるのか心配」

 漢人さん「これって何のための選挙?」

 冷めた答えにも理由がありました。実感なき経済成長のアベノミクス、民進党の分裂、小池百合子都知事が強い指導力を持つ希望の党の結党を見させられ、政党や政治家が選挙のたびに口々に言う公約の重みのなさを感じてしまっているようでした。

 奥村教授は「学生のアルバイトでも、昔は賄い食はタダだったけど、今は賄い食も有料の時代ですからね」と言います。学生も学生なりにリアリストになっています。

 木内さん「公約って言っても、どうせ守らないから。選挙のために良い子ぶっている。少子化対策、北朝鮮問題……。どの党でも『やって下さい』というしかない」

 真野さん「若い世代に社会保障の予算を多く配分するっていうけど、わざわざ選挙するんじゃなくて、国会で議論して早くやってよっていう感じ」

 学生の言葉に「その通り」と言いたくなるような市民が抱くストレートな疑問。私たちマスメディアがどれだけ答えられているか、考えなくてはいけないと思いました。

演説に耳を傾ける有権者ら(画像の一部を加工しています)
演説に耳を傾ける有権者ら(画像の一部を加工しています) 出典: 朝日新聞

「ファクトチェック面白いね」

 政治家の発言やマスメディアが伝える、いわば「大人の世界」に違和感を持つだけでなく、学生としての提案もあります。

 漢人さん「映像でのファクトチェックを提供できればいいよね。証拠になるしね」

 木内さん「『公約、その後』ってタイトルどお? 面白いね」

 ファクトチェックは、政治家の発言内容を確認し、その信頼性を評価するジャーナリズムの手法。米国では、ファクトチェック専門の政治ニュースサイト「ポリティファクト」(http://www.politifact.com/)があります。

 漢人さん「公約を映像としてわかりやすく紹介して、選挙が終わった後も実績を評価できるようなファクトチェックがあると投票しやすくなる」

 学生たちがファクトチェックに関心を持つのは、希望の党、民進党、立憲民主党といった政党の離合集散で公約が政局に比べて軽いものに見えてしまっていることや、有権者として投票する際に候補者を判断するものさしがないためです。

 テレビや新聞は、限られた時間、限られた紙面で、公平や中立での報道に終始します。

 かつて「マニュフェスト選挙」と言われた時代があったことを思い出しました。ただ、数値目標を立てて、どこまで成果を上げられたか、アウトカム(実質的成果)で評価する、いわゆる成果主義になれていない日本人。

 政党もメディアも、いつのまにか「マニュフェスト選挙」という言葉を使わなくなってしまったことを反省しないといけないのかもしれません。痛いところを突かれた感じです。

 漢人さんは「既存のメディアが、政治家の選挙公約をファクトチェックしていると感じたことはない」と指摘します。真野さんも「マスメディアは、過去の発言との比較をもっと伝えてもいいと思う」と話します。

取材した動画の編集をする学生たち=東京都練馬区豊玉上1丁目の武蔵大学
取材した動画の編集をする学生たち=東京都練馬区豊玉上1丁目の武蔵大学 出典: 朝日新聞

「ツイッターは判断材料にならない」

 一方、3人はスマホを通じて得られる情報にも限界を感じ、警戒心を抱いています。

 真野さん「スマホでは自分の興味があるものしか見ないからね」

 漢人さん「複数のニュース系アカウントをツイッターでフォローしているけど、同じテーマでも人によって全く違う見方をしている。ツイッターは、どこに投票すればいいかという判断材料にならない」

 木内さん「ツイッターでの印象操作もあるしね」

 真野さん「今日ここで演説がんばりました、というようなツイートでは、わかっても人柄止まり。演説を聴きたいなと思うメディアになり得るのかな? でも、好きなミュージシャンが政治的な発言をすると、みんな同じ方向を向いているファンだから、リプライにつながるよね」

 漢人さん「アーティストは、政治的な発言の影響力を考えて発言しているのかな?」

 漢人さんは、ビデオジャーナリズムのゼミでの番組づくりを通じて、「自分で発信するために、積極的に情報を集めて分析するようになった」と自分の変化を語ります。

 SNSから得られる政治関連の情報に対して、懐疑的だったのは意外でした。

 インターネット番組を流す「ニニニコ生放送」では、10月7日に党首討論会を中継しました。ただし、学生たちにとっては、アメリカ大統領選のような候補者によるテレビ討論会に比べると迫力に欠ける印象。日本の場合、政党数が多いため討論者が多く、ディベートの形になっていないからです。

衆院選に向けてのネット党首討論=2017年10月7日
衆院選に向けてのネット党首討論=2017年10月7日 出典: 朝日新聞

「選挙に行かないと批判もできない」

 大学に行けて食べることにも不自由しない――。この現状を考えると、今の生活に満足しているという学生たち。ただし、「10年後のわたし」となると不安だらけです。最初に挙がったのが、共働きによる子育ての問題です。

 木内さん「子どもを持つのは大変。結婚して家族を持つと、仕事を選べなくなる。やり直しもできなくなる」

 終身雇用制度の昭和世代や就職氷河期で苦しんだ平成世代とは違い、転職を通じてステップアップしたり、やりたい仕事にたどり着いたりしていくライフスタイルを求めていく。そんな若者たちが多くなっているのに、今の制度では、結婚、子育てと両立させて、自分のキャリアを求めていく姿が見通せないようです。

 真野さん「消費税の税率や物価が上がっても、初任給が増えていかなかったり、住宅手当が十分もらえなかったりすると、衣食住の環境が整わない。若い世代は、社会に出ても厳しいという不安がある」

 漢人さん「若い世代が情報収集しないで、選挙にも行かなくて、それで10年後に『何でこんな世の中になっちゃったんだ』とは批判できないよね」

車から手を振る衆院選の候補者
車から手を振る衆院選の候補者 出典: 朝日新聞

参院選で番組づくり

 「ニュースの卵」は、学生によってこれまでに58本の番組が制作されました。「触れる絵本をもっと」「とんでまわってバランスとって」「やっと歌えたありがとう」「『ひとり』じゃない子育て」などテーマは様々です。

 その中には、18歳から選挙権が認められた昨年の参議院選挙の時に制作された「はじめての選挙」4本も含まれます。

 真野さんの着眼点は「知りたい」でした。

 「『投票に行きましょう』というけど、ニュースで取り上げられるのは政局ばかり。投票のために何をしたらいいか分からない」という感覚を高校生や大学生の有権者が共通して持っていると感じていたからです。

 東京都内の大学3年生に密着しました。インターネットや新聞を読んでいても「政策が分からない」。投票先を決めるための情報を求めて街頭演説を聞きに行ったところも取材しましたが、「他党の批判ばかりで、結局よくわからなかった」という結論に。

取材した動画の編集作業をする学生
取材した動画の編集作業をする学生 出典: 朝日新聞

「SEALDs」なんでそこまで?

 木内さんの切り口は「何か動かないと」。

 自由で民主的な社会を守るための緊急行動「SEALDs」1年目の大学2年生を取材した。実家がある地方都市で、選挙に行くことを呼びかけるポスティングをする姿を追いました。

 木内さんは「自分も選挙権を持ったが、あまり政治には興味がなかった。だから、なぜ、SEALDsの学生があそこまでやるのか、その行動を知りたかったが、本音までは引き出せなかったけど……」と振り返ります。

 あとの2本は、中高一貫校に通う高校生が見た選挙と希望が持てないので選挙に行かないフリーターを取材した番組です。

 企画から制作まで1カ月。「若者目線で、若者に飛び込んでいくと面白いものができる」。こう考えた奥村教授がゼミ生に、「参院選だけど、何からやらないの?」と声をかけチャレンジした。

 今回の衆院選は突然の解散のうえ、大学3年生は就活も重なり、番組づくりは実現しませんでした。

 奥村教授は「ニュースストーリーの前段として共通テーマを与えると、学生も取り組みやすい。選挙関連の番組づくりをやることで、学生の選挙への意識も高まったと思う」と話しています。

「10年後の自分」投稿募集

 みなさんは10年後にどんな自分を思い浮かべ、そのために社会や行政、政治に何を望みますか。衆院選に合わせて「わたしの未来」をテーマに投稿を2017年10月25日まで募集しています。朝日新聞「声」欄や「フォーラム面」(http://www.asahi.com/articles/ASKB55TCFKB5UPQJ00K.html)で紹介します。投稿はメール(tokyo-koe@asahi.com)で550字以内。原則実名です。住所、氏名、年齢、性別、職業、電話番号を明記してください。
 

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