MENU CLOSE

IT・科学

国産旅客機「YS-11」が消えた理由 開発には、あの零戦設計者も…

初飛行に成功したYS11=1962年8月30日
初飛行に成功したYS11=1962年8月30日 出典: 朝日新聞

目次

 9月30日は、国産旅客機「YS11」が国内定期便から引退した日です。2006年のことでした。宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」で注目された堀越二郎氏も開発に関わり、戦後初の国産旅客機として親しまれました。「整備に手間がかからず、農耕馬みたいなところがいい」と言われた「YS11」はなぜ引退したのか。その歴史を振り返ります。

【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格
【動画】もう見られない…貴重な大空を飛ぶ「YS-11」の映像 これが「農耕馬のような」エンジン音

戦後復興の象徴に

 「YS11」は、全長26.3メートル、全幅32メートルの双発プロペラ機です。戦後の航空機製造禁止が1950年代に解除され、官民共同出資の「日本航空機製造」が開発しました。

 開発には、ゼロ戦の堀越二郎氏、飛燕(ひえん)の土井武夫氏、2式大艇の菊原静男氏、隼(はやぶさ)の太田稔氏と、日本の名機の設計者たちが協力して設計しました。

 1964年の東京五輪で全日空が聖火の輸送に使うなど戦後復興の象徴となり、各地の旅客便や海上保安庁で活躍しました。182機が造られましたが、採算が取れず1973年に生産を終えました。

堀越二郎氏=1976年2月25日
堀越二郎氏=1976年2月25日 出典: 朝日新聞
ミュージアムには、戦後初の国産旅客機で名古屋空港で初飛行した「YS11」などの実機や、航空機の25分の1模型を展示する。三菱航空機が開発する国産初のジェット旅客機MRJの試験機も追加する予定だ。
2017年9月11日:名誉館長に堤幸彦監督 あいち航空ミュージアム:朝日新聞紙面から
<YS11> 全長26・3メートル、全幅32メートルの双発プロペラ機。戦後の航空機製造禁止が1950年代に解除され、官民共同出資の「日本航空機製造」が開発。64年の東京五輪で全日空が聖火の輸送に使うなど戦後復興の象徴となり、各地の旅客便や海上保安庁で活躍した。182機が造られたが、採算が取れず73年に生産を終えた。国内では航空自衛隊が飛行点検などに使う8機が現役で残る。試作1号機は航空科学博物館(千葉県)が展示している。
2017年8月14日:YS11、出番待ち18年 消えた羽田での展示構想 量産1号機 :朝日新聞紙面から
堀越は戦後、国産旅客機YS11の開発に携わったほか、東京大講師や日本大教授なども務めた。
2013年9月21日:(昭和史再訪)ゼロ戦誕生 15年7月 不合理が生んだ美の翼:朝日新聞紙面から
敗戦で日本の航空工業は壊滅した。かつて航研機などの名機を設計した木村秀政氏は敗戦直後、知人あての手紙に「しばらくタンポポの種子の飛び方を研究しようと思う」と書いた。その木村氏を議長に、ゼロ戦の堀越二郎、飛燕(ひえん)の土井武夫、2式大艇の菊原静男、隼(はやぶさ)の太田稔と、日本の名機の設計者たちが協力して設計した国産初の旅客機、YS11は昭和37年8月30日、初の試験飛行に成功した。
1988年8月29日:初の国産旅客機・YS11の試験飛行(あすは):朝日新聞紙面から

「パイロットの技量が試される」

 「YS11」の特徴の一つがエンジン音です。離陸時には「キーン」というロールスロイス製独特のエンジン音が滑走路に響きました。

 2006年9月30日、鹿児島県・沖永良部島から鹿児島空港への国内定期路線最終便の操縦桿(そうじゅうかん)を握った本村栄一さんは、到着地の天候やフライト状況を客室にアナウンスした後、「ロールスロイス・ダートサウンドをお楽しみください」とエンジン音の紹介で締めくくりました。

 本村さんは、新鋭機のようなコンピューター制御ではなかったため、逆に「パイロットの技量が試されることになり、基本をたたき込んでくれた」と語っています。

最後の運航を終えたYS11の前では客室乗務員たちが記念写真を撮った=2006年9月30日、鹿児島県霧島市の鹿児島空港で、長澤幹城撮影
最後の運航を終えたYS11の前では客室乗務員たちが記念写真を撮った=2006年9月30日、鹿児島県霧島市の鹿児島空港で、長澤幹城撮影 出典: 朝日新聞
「キーン」というロールスロイス製独特のエンジン音が滑走路に響いた。9月30日、鹿児島県・沖永良部島から鹿児島空港への国内定期路線最終便の操縦桿(そうじゅうかん)を握った。長年親しんだ愛機の引退と重なるように、自らのパイロット人生も今回のフライトで幕を下ろす。「いつものように淡々と飛びました」と話したが、飛行中、管制官から「長い間お疲れ様でした」と交信が入った時には「涙腺がゆるんだ」という。
2006年10月12日:(ひと)本村栄一さん YS11最終便の操縦桿を握った機長:朝日新聞紙面から
新鋭機のようなコンピューター制御ではなかったため、逆に「パイロットの技量が試されることになり、基本をたたき込んでくれた」。到着地の天候やフライト状況を客室にアナウンスした後、「ロールスロイス・ダートサウンドをお楽しみください」とエンジン音の紹介で締めくくった。
2006年10月12日:(ひと)本村栄一さん YS11最終便の操縦桿を握った機長:朝日新聞紙面から

4千万円の衝突防止装置つけられず

 「YS11」は、なぜ姿を消したのか。その理由は、衝突防止装置でした。

 衝突防止装置は、接近するほかの航空機が発信する信号を受信して、空中衝突の恐れのある航空機との衝突回避に必要な指示をパイロットに伝えるものです。

 2001年1月の航空法改正で旅客機の大半に衝突防止装置の搭載が義務づけられました。運航年数が長かった「YS11」は猶予期間が設けられましたが、一機当たり約4千万円かかり、採算性から猶予期間が切れるタイミングでの引退が決まりました。

初飛行でYS11は快調なジェット爆音を残して小牧飛行場を離陸上昇した
初飛行でYS11は快調なジェット爆音を残して小牧飛行場を離陸上昇した 出典: 朝日新聞
ただ、装置が取り付け費込みで一機当たり約四千万円も掛かることなどから、航空会社には五年間の猶予を設け、二〇〇一年年頭まで搭載を終えるように求める。また、運航年数が長く、早期の引退が予想されるYS11型機やB737―200型機は搭載を免除する。
1995年12月28日:航空機衝突防止装置の搭載、大半に義務化 2001年年頭期限に:朝日新聞紙面から
「航空機衝突防止装置」(ACAS)は、接近するほかの航空機が発信する信号を受信して、空中衝突の恐れのある航空機との衝突回避に必要な指示をパイロットに伝える。
1995年12月28日:航空機衝突防止装置の搭載、大半に義務化 2001年年頭期限に:朝日新聞紙面から

ひっそりと眠る量産1号機

 実は、東京・羽田空港の一角で「YS11」の量産1号機がひっそりと眠っています。

 2機の試作機を基に改良を重ね、量産化に道筋をつけた1号機で、1964年に初飛行しました。運輸省(当時)が空港の灯火や誘導施設の検査に使い、1998年に引退。99年に国立科学博物館が引きとりました。「YS11のなかでも特に記念碑的価値の高い機体」として、日本機械学会が「機械遺産」に認定しています。

 電源を入れると正常に動き、「飛べるように戻せる状態」だといいます。

 2010年には、格納庫での年間約900万円の維持費が民主党政権の事業仕分けの対象となりました。2015年を最後に一般公開は途絶えています。こうした現状に関係者は危機感を抱いており、一般展示をめざす動きも出ています。

羽田空港の格納庫に眠るYS11の量産1号機=2017年7月21日、飯塚晋一撮影
羽田空港の格納庫に眠るYS11の量産1号機=2017年7月21日、飯塚晋一撮影 出典: 朝日新聞
戦後初の国産旅客機YS11の量産1号機が、東京・羽田空港の一角でひっそりと眠っている。歴史的な価値は高く、1998年の現役引退後、展示する構想もあった。だが、羽田の国際化でスペースがなくなり立ち消えに。人目に触れることなく保存されてきたが、新たな出番を探る動きも出てきた。
2017年8月14日:YS11、出番待ち18年 消えた羽田での展示構想 量産1号機 :朝日新聞紙面から
「多少の油漏れはありますが、オールグリーン(すべて正常)。頑丈な機体です」。国立科学博物館(科博)で保存を担当する鈴木一義・産業技術史資料情報センター長が、集まった関係者に胸を張った。操縦席にずらりと並ぶアナログ式の計器も、電源を入れると正常に動き、「飛べるように戻せる状態」だという。
2017年8月14日:YS11、出番待ち18年 消えた羽田での展示構想 量産1号機 :朝日新聞紙面から
2010年には、格納庫での年間約900万円の維持費が民主党政権の事業仕分けの対象となった。「早期に常設展示を」と指摘され、科博が航空イベントなどで一般公開を進めたが、15年を最後に一般公開は途絶えている。
2017年8月14日:YS11、出番待ち18年 消えた羽田での展示構想 量産1号機 :朝日新聞紙面から
そんな中、相模原市内で展示の構想が浮上した。元日本航空機長でHASM会員の宮崎雄一郎市議(51)が、昨年3月の市議会で、米軍施設の跡地での航空宇宙展示施設を提案。「市内には宇宙航空研究開発機構(JAXA)の施設もあり、航空宇宙には縁深い土地。YS11が来たら目玉になる」と意気込む。
2017年8月14日:YS11、出番待ち18年 消えた羽田での展示構想 量産1号機 :朝日新聞紙面から

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます