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2017年09月27日

道ばたに「わら人形」な、なんで? 山口の伝統行事「サバー送り」

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山口の伝統行事「サバー送り」の人形。本当に道ばたにいます=2017年9月7日、山口県下関市豊北町

山口の伝統行事「サバー送り」の人形。本当に道ばたにいます=2017年9月7日、山口県下関市豊北町

出典: 朝日新聞

 山口県は下関市、豊北町の道の駅「北浦街道豊北」がブログにアップしていた画像に、目が釘付けになった。ボロボロのわらの束。白目をむいたような武者の顔――。こ、怖い。怖すぎる。まるで呪いのわら人形のようだ。ところが、実はこの人形、山口県の無形民俗文化財にも指定されている伝統行事「サバー送り」なのだという。不気味ながらも気になって仕方がない、「サバー送り」って、いったい何?

道ばたにゴロリ まるで不法投棄

 記者の基本は、まず現場。9月7日、わら人形があると思われる、豊北町へ車を走らせた。下関市中心部から北へ、日本海沿いの国道191号を走ること1時間あまり。同じ下関なのに、ずいぶん遠い。

 豊北町は2005年、豊浦町などほかの3町とともに下関市と合併した。関門海峡がある交通の要衝・旧下関市とのつながりもあるが、山口県内でも豊北町や豊浦町を含む日本海沿岸は「北浦地方」と呼ばれ、独自の文化圏を形成しているのだという。

「サバーさま」「サネモリさま」は今どこへ・・・?? | 道の駅北浦街道ほうほく オフィシャルブログ

 道の駅のブログの写真を手がかりに、豊北町二見地区にある旧小学校前へ。緩いカーブを曲がると、JR山陰線脇の道ばたに何かがあった。「サバー送り」のわら人形だ。

 2体あり、長さ2メートル弱の竹と、高さ1メートルほどのわらの束で馬の形になっている。背には、白い紙で作った甲冑と墨で描かれた顔。風雨にさらされてボロボロだ。一つはゴロリとひっくり返っていて、「サバー送り」を知らなければ、失礼ながら、不法投棄にしか見えない。

 まがまがしい雰囲気を漂わせる人形を、おっかなビックリ撮影した。

「サバ―送り」の人形=2017年9月7日、山口県下関市豊北町

「サバ―送り」の人形=2017年9月7日、山口県下関市豊北町

出典: 朝日新聞

江戸時代から続く農耕儀礼 わら人形を50キロリレー

 その足で、山口県下関市立豊北歴史民俗資料館を訪ねた。民俗学が専門の吉留徹館長は、豊北町で「サバー送り」の追跡調査を重ねてきた人だ。

 吉留さん、「サバー送り」って何ですか?

 「『サバー』とは、イネを荒らす害虫、ウンカのことです。いわゆる虫追い、虫送りの農耕儀礼で、少なくとも江戸時代末期から続いています」

 虫送りなら、聞いたことがある。鉦(かね)や太鼓をたたいたり、たいまつを持ったりして、村を練り歩く行事だったような。映画「八日目の蟬(セミ)」にも、そんな場面があったはず。

飯山八幡宮を出発する「サバー送り」=2006年、山口県長門市

飯山八幡宮を出発する「サバー送り」=2006年、山口県長門市

出典: 山口県下関市立豊北歴史民俗資料館提供

 「北浦地方のサバー送りの特徴は、その村で完結するのではなく、集落ごとに人形を順送りするんです」
 え? 順送り? リレーするってことですか?

 「スタートは同じ北浦地方にある山口県長門市の飯山八幡宮です。順送りのルートは、飯山八幡宮~旧日置町~旧油谷町(いずれも現長門市)~旧豊北町~旧豊浦町(いずれも現下関市)の宇賀地区までです」

 リレールートの距離を測ってみた。およそ50キロもある。いまでこそ2市をまたぐ行事だが、合併前であれば、1市4町が関わったことになる。さらに江戸時代ともなれば、いったいどれほどの村々をつなぐ行事だったことだろう。

 リレーを通じて集落同士の結びつきが育まれ、万が一災害などに見舞われた折には、広域的な連携をはかることもできたに違いない。文化庁伝統文化課によると、これほど広範囲にわたる虫送り行事は、全国的にも珍しいという。


「サバ―送り」の人形を作る人々=2001年、山口県長門市

「サバ―送り」の人形を作る人々=2001年、山口県長門市

出典: 山口県下関市立豊北歴史民俗資料館提供

 わら人形についても吉留さんに尋ねた。

 「わら馬に乗った武者人形は、地区の人たちが作ります。顔を描くのは宮司さん。田植え後の7月初めごろ、虫祈禱(きとう)の神事をして、長門市と旧日置町の境まで運びます。わら人形は自分たちの集落の虫や災いをよそに持って行ってくれるもので、豊作を願う行事。稲刈りが始まる前までに、豊浦町で人形を海に送ったら完結です」

 「サバー送り」で使うわら人形は、神さまの「サバーサマ」と、お供の「サネモリサマ」を表している。

 「サネモリサマ」は、平家の武将・斎藤別当実盛が、イネの切り株につまずいて討ち死にしたため、その怨念が田を荒らす害虫となる――という、西日本の伝承に基づく。イネが不作になることは、農民にとって死活問題だった時代。実盛を慰め、ウンカの被害を避けたいという切実な願いが、こうした農耕儀礼を生んだとみられる。

「サバー送り」の「サバーサマ」「サネモリサマ」。人形の造りに違いはないという=2002年7月2日、山口県長門市・旧日置町の境

「サバー送り」の「サバーサマ」「サネモリサマ」。人形の造りに違いはないという=2002年7月2日、山口県長門市・旧日置町の境

出典: 山口県下関市立豊北歴史民俗資料館提供

 長門市内では、子どもたちが集落の境などに運んでリレーしてゆく。

 「目で見る下関・豊浦の100年」(郷土出版社)には、昭和54(1979)年に撮影された旧日置町の写真が載っている。浴衣姿の子どもたちが、楽しそうにわら人形を担いでいる。

 吉留さんによると、置き場所もルートも毎年ほぼ同じ。現在は子ども会や自治会の行事として取り組む地域が多いそうだ。

「サバー送り」の人形を運ぶ子どもたち=2004年、山口県油谷町(現長門市)

「サバー送り」の人形を運ぶ子どもたち=2004年、山口県油谷町(現長門市)

出典: 山口県下関市立豊北歴史民俗資料館提供

途中から禁断ルール続々 「まるで不幸の手紙」

 ところが、人形が下関市内に入ったとたん、運ぶルートは海側と山側の二つに分かれ、いずれを通るのかあいまいになる。しかも、吉留さんの聞き取り調査では、次のようなルールに一変するのだ。

一、ウンカを連れてくるので、見つけたら、夜、人知れず動かすこと。
一、災いをなすものだから、すぐに動かさないといけない。一方で、虫を付けるものだから、1~2日は置いておかないといけない。
一、自分の嫌いな人の家の前に置いてくること。長く置いておくと、その家には不幸ごとが起きる。しかし、早く動かせば、その家に幸福が訪れる――。

 これは怖い。朝起きて、自分の家の前にわら人形が置かれていたら、きっと、かなり、激しく落ち込む。

 吉留さんと同じく、下関市豊浦町での「サバー送り」を調査してきた、同市烏山(からすやま)民俗資料館の河田聡館長は言う。

 「自分たちの村さえ良ければそれでいい、という日本人の気持ちの表れでしょうか。現代で言えば、不幸の手紙みたいなものですね」

 10人に手紙を出さないと不幸になるという、あれですか……。

本当にあった? 「サバーサマ」のタタリの話

 7月にスタートして、下関市内に入る頃には、風雨にさらされ、ボロボロになっている。そのビジュアルと、恐ろしい伝承とが、妙に呼応し合っている。自分が運んだことなどを人にしゃべればたたりがあると言われ、口外しない人も多いという。

 人形を置いたままにしたり、公にしたりしたら、本当に不幸なことが起きるのか。

 吉留さんは10年ほど前の「サバー送り」を振り返る。弥生時代の埋葬跡が出土した国史跡・土井ケ浜遺跡(豊北町)の人類学ミュージアムそばに人形が置かれた。誰も運ばず、そのまま朽ちてしまった。「この年、ミュージアムが栽培していた古代米の田が、虫にやられて白くなってしまった」

「サバー送り」は海に人形を流して終わる=2002年8月2日、山口県豊浦町(現下関市)

「サバー送り」は海に人形を流して終わる=2002年8月2日、山口県豊浦町(現下関市)

出典: 山口県下関市立豊北歴史民俗資料館提供

 別の年、豊浦町で海に人形を送る場面の写真が雑誌に掲載された。「翌年、その儀式に立ち会った関係者がヘビにかまれるなどの災難に見舞われ、呪いだという話になった」と河田さんは話す。

 そのため、住民が、人形を海に流す場面を撮ろうとしていたテレビクルーを巻いた年もあったとか。

消えつつある自然への畏怖の念 行事も存続の危機

 それにしてもなぜ、突然、途中からルールが変わるのか。吉留さんも河田さんも「分からない」と口をそろえる。

 下関市の豊北町~豊浦町では、闇に隠れて個人個人が行うので、毎年、ルートも置く場所も変わる。実は、無形民俗文化財に登録されている「サバー送り」は、長門市内のみ。個人プレーになってしまう下関市内は、対象外なのだ。

 個人プレーに頼る上、口外しない禁忌もあるので、世代交代で「サバー送り」を知らない人が増えてきているという。そのため、ゴールの宇賀地区までたどり着かず、朽ちたことがあるほか、「不法投棄だ」という苦情が出て清掃組合が引き取りに来たという話もあるそうだ。

 ゴール地点の集落にある宇賀八幡宮の西島史孝宮司は、人形を海に流す際、立ち会って神事を行ってきた。ところが「最後に神事をしたのは、11年前」と寂しそうに話す。追跡調査を重ねてきた吉留さんによると、神事をせずに個人が海に送った年もあるというが、「ここ10年間で半分ほどしか海に送れていないと思う」と話す。

 現代は、農薬の開発で、「サバー送り」をせずとも病害虫からイネを守ることができる。そもそも、農業自体が担い手不足になってしまっている。西島宮司は言う。「虫送り、という言葉からも分かるように、先人たちは余計な殺生をせず、豊作を願ってきた。人間の力が及ばないものへの畏怖の念と、自然との共存の表れが、『サバー送り』なのですが……こうした伝承は、絶えてしまうんでしょうね」

昨年の「サバー送り」は、神事をせずに海に送られた=2016年、山口県下関市豊浦町宇賀

昨年の「サバー送り」は、神事をせずに海に送られた=2016年、山口県下関市豊浦町宇賀

出典: 村上明さん提供

今年の「サバー送り」の結末は・・・

 この夏、「サバーサマ」と「サネモリサマ」は、豊北町の道ばたにお盆前から1カ月以上も置かれたままの状態が続いた。ゴール地点・豊浦町で農作業をしていた男性(67)は、2度ほど人形を運んだことがある。

 「伝統行事として、海まで送ってあげたい。でも、豊北町の人がこっちまで運んでくれないと、ねえ」とため息をついた。

 男性によると、今年は好天に恵まれて例年より10日ほど早い8月下旬から稲刈りが始まった。豊作でもあるという。

「サバーサマ」「サネモリサマ」が置かれているそばの田は、稲刈りを終えていた=2017年9月15日、山口県下関市豊北町

「サバーサマ」「サネモリサマ」が置かれているそばの田は、稲刈りを終えていた=2017年9月15日、山口県下関市豊北町

出典: 朝日新聞

 本州の端っこで、ほそぼそと受け継がれてきた「サバー送り」。この伝統行事が、収量や害虫被害と切り離されてしまった現代において、今年はこのまま朽ちてしまうのか――。

 そんな矢先、台風18号が日本列島を襲った。通過後の9月21日、人形が置かれていた場所を訪れると、あとかたもなく失せていた。

 嵐にさらされて、ゴミとして処分されてしまったのかもしれない。でも、異形の人形に込められた先人たちの真摯な願いを、今年もきっと誰かがつないで、海へ送ってくれたのだと信じたい。そう思って顔を上げると、夕暮れの空にうろこ雲が浮かんでいた。あたりは虫の音が響き、涼しい風が秋の訪れを告げていた。

植え込みの下に置かれていた「サバー送り」の人形はなくなっていた=2017年9月21日、山口県下関市豊北町

植え込みの下に置かれていた「サバー送り」の人形はなくなっていた=2017年9月21日、山口県下関市豊北町

出典: 朝日新聞

道ばたに「わら人形」不幸を呼ぶ「呪いのルール」山口のサバー送り
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