では、スピーチをはじめます。
大学を出てコピーライターになりました。
商品を薦める短い言葉なんてすぐに書けるだろう。完全に舐めてかかっていました。
トレーナーだった先輩が、ひとつの商品につき100案コピーを書けという。
びっくりしましたが、その日は徹夜で書けました。
次の日もっていくと、100案の中から1案取り出し、「この方向でまた100案書いて」という。
その日は眠れると思っていた私は肩を落とし、睡魔と戦いながら書き進んでいきました。
来る日も来る日も100案。
次第に怒りがこみ上げてくる。
頭の中が真っ白になり、人格剥離がはじまる。すっかり自信がなくなり、早くも会社をやめようかと思いました。
そんなある日、本屋に行くと、頭の中に、背表紙のタイトルが飛び込んできました。
空っぽになっちまった脳細胞が、「ほしい!ほしい!」と駄々っ子のように背表紙の言葉を求めていのです。
心理学の本をパクり、陸上競技の雑誌から盗み、料理本の言葉をメモする。
今でもあのときの飢餓状態を思い出します。
新しい言葉を蓄えて、意気揚々と書いていくと先輩に、「これ、パクっただけやろ。自分で考えてないやないか」と言われて、意気消沈。
そこからまた書いて、書いて、書いて、もうダメだと思ったときに、先輩が、「これ、ええんとちゃうか?」と拾い上げてくれた一枚がありました。
しかし、私には書いた覚えがない。
確かに私の字ではあるけれど、どういう思考でその言葉に至ったのか思い出せない。
先輩は、笑いながら、「自分はこんなことかんがえるんだ!って思えるくらい、自分から突き放した言葉がええねん」と一言。
100本ノックは、その日で終了になりました。
苦しい経験でしたが、言葉で金を稼ぐということを体で教えてもらいました。
「自分は、こんなことを考えるんだ!」というところまで追い込んで、自分を突き放す。
今の時代にはふさわしくない働き方ですが、プロフェッショナルとはこういうことだと思っています。
言葉を生業にしたいあなた。やってみる価値、ありますよ。