IT・科学
めざせ!お尻認証 夢の大相撲観戦、スタンフォードの技術で挑戦
新しいファンにとって、大勢いる力士の名前を覚えるのは一苦労。そんな時、新型iPhoneにも搭載された顔認証技術が使えないだろうか…。うまくいけば、力士のお尻でも判別できるかも? シリコンバレーのスタンフォード大で学んだ最新の顔認識システムを使って開発にトライしてみました。
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新しいファンにとって、大勢いる力士の名前を覚えるのは一苦労。そんな時、新型iPhoneにも搭載された顔認証技術が使えないだろうか…。うまくいけば、力士のお尻でも判別できるかも? シリコンバレーのスタンフォード大で学んだ最新の顔認識システムを使って開発にトライしてみました。
激しい優勝争いが繰り広げられている大相撲。3横綱が休場という珍しい場所では、これからを狙う力士が活躍するチャンスです。その一方で、新しいファンにとって、大勢いる力士の名前を覚えるのは一苦労。そんな時、新型iPhoneにも搭載された顔認証技術が使えないだろうか…。うまくいけば、力士のお尻でも判別できるかも? シリコンバレーのスタンフォード大で学んだ最新の顔認識システムを使って開発にトライしてみました。
「力士の乳首を見ただけでシコ名を当ててしまう子供をテレビで紹介していました。それには負けていられません!」
並々ならぬ意気込みを見せたのは、朝日新聞の情報技術本部に所属する入社15年目の佐渡昭彦(39)。社内留学で今夏までアメリカのスタンフォード大学に在籍し、情報技術を学んできました。フットサルが趣味で、顔は黒く焼けています。
顔認証は、今月発表された新型iPhoneXにも搭載された、はやりのシステム。羽田空港の帰国審査で利用されることも発表されています。
佐渡によると、スタンフォード大学が開発した画像データベース上で毎年、画像分類コンテストが開催されています。2012年に人工知能の一つの手法であるディープラーニングが登場したことにより、近年は格段に精度が上がりました。
今回はいくつかの手法を検証した結果、3年前のコンテストで2位に入ったプログラムを応用してみました。
ともかく、必要なのはお相撲さんの写真です。8月中旬から9月にかけて会社の同僚3人と巡業や稽古総見に出向き、写真を撮りまくりました。
その数、30994枚。
大変なのは、その後でした。撮影した写真を力士ごとに仕分ける作業があるのです。
パソコンを広げて1枚1枚、分類していきます。時代の最先端を行くAIのイメージとはかけ離れた、地味な作業がひたすら続きます。「こんな時、顔認識アプリがあれば便利なのに……」。アプリの必要性を強く実感する佐渡。
力になったのが妻と小学生の娘さん。2人とも大の相撲ファンなのです。迷ったとき、聞けばすぐに答えてくれる、心強い味方。このプロジェクトは、家族の絆も深めました。
写真はソフトに読み込ませるのですが、ここで問題が起きます。力士が稽古している場面では、多くの場合、複数の顔が写りこんでいるのです。
そこで、一番大きく写っている顔を切り取って認識するソフトを使って絞り込みます。まげの形は状況によって変わるので、認識するパーツは額から下に設定しました。
取捨選択も必要でした。ファンへのサインに応じている下向きの写真や、稽古中の土が顔についた写真などをより分けます。
結局、分類作業には全部で30時間ほどかかりました。
9月16日、いよいよ両国国技館へ。実際にお相撲さんの顔写真を撮影し、どこまで顔を判別できるか試しに行きました。登録した力士は幕内以上の32人です。
佐渡アプリ(仮称)の開発スタートから40日。もう秋場所7日目とあって、この日の国技館はすっかり肌寒く感じます。真夏の日差しの下、汗ダラダラで、ひたすら写真を撮りまくった巡業の日々が懐かしい。さて、うまくいくか。
撮影は関取が国技館南門から入ってくるところを狙います。いわゆる「入り待ち」です。
来ました栃煌山。「とちおうざーん」という黄色い相撲女子たちの声援を受け、悠々と歩いてくる栃煌山をパチリ。
画面には「隠岐の海?」の表示。いやいや全然似ていないだろう。確かにどっちも相撲女子に人気のイケメン力士だけど。
どうしたAI。どうした佐渡アプリ。
続いて歩いてきたのは秋場所大活躍の21歳阿武咲。鮮やかな朱色の浴衣姿の新鋭をパチリ。画面は「貴景勝?」。「?」付きのあたりが、自信なげの佐渡アプリ。はい、不正解です。
その後も、来る力士来る力士を撮影しましたが、全くダメ。多くはなぜか「貴景勝」と判別されます。
では、なぜ貴景勝と認識されるのか? 「それはわからないんです。AIは判断の根拠まで示してくれませんので……」と佐渡は話します。
結局、「入り待ち」で20人ほど試しましたが、正解は偶然当たったと思われる「正代」のみ。
一方、帰りの「出待ち」でも試しました。立ち止まってサインを書いている千代丸、勢、千代の国を撮影したところ、なんと3人とも「正解」。
どうやら、佐渡アプリは動いている対象は苦手みたい。「動いているものを認識する際に、アプリの動作とカメラの撮影に時間的なずれがあり、撮影した顔が分析されていないようです」とがっくり。
試しに大相撲力士名鑑の写真にかざしてみると、32人中30人が正解。正答率は94%でした。どうやっても認識してもらえないのが、豪栄道と大栄翔…。理由は不明です。
ところで。
巡業では力士のおしりも数人分、撮影していたのですが、はたしておしりでも判別できるのか? 国技館入りするお相撲さんは、みんな浴衣姿でおしりが見えません。狙うなら土俵上ですが…。
残念ながら客席からは遠くて判別するには小さ過ぎました。今回は断念しましたが、「アプリを改修し、今度はおしりでも試してみます」。
まだ開発は始まったばかり。「静止画でうまくいったのは良かった。たとえば美術展で作品を撮影し、パンフレットのように紹介するアプリなどに応用できそうです。これからもAIを使った新しい情報発信方法を模索していきたい」
佐渡の挑戦は続きます。
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